
1979年 日本
監督: 今村昌平
出演:
緒形拳:榎津巌
三國連太郎:榎津鎮雄
ミヤコ蝶々:榎津かよ
倍賞美津子:榎津加津子
小川真由美:浅野ハル
清川虹子:浅野ひさ乃
<映画.com>
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九州、浜松、東京で五人を殺し、詐欺と女性関係を繰り返した主人公の生いたちから死刑執行までを辿る。昭和五十年下期の直木賞を受賞した佐木隆三の同名の原作の映画化で、脚本は「ギャンブル一家 チト度が過ぎる」の馬場当、監督は「にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活」の今村昌平、撮影は「野性の証明」の姫田真佐久がそれぞれ担当。
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タイトルとともに観た記憶だけは残っていて、緒形拳が出演していた事と残酷だった事が印象に残っている。既に映画を趣味と認識していた中学生の頃の作品だが、改めて観たくなって鑑賞にいたるもの。
古めかしいパトカーである男が護送されるシーンから物語は始まる。時に昭和39年。5人を殺害した容疑で逮捕され、パトカーで護送されるのは榎津巌。余裕しゃくしゃくの態度で脇を固める刑事と話をする。そして逮捕されるまでの78日間の逃亡が振り返る形で描かれていく。初めの事件は昭和38年10月。榎津巌は顔見知りだったのだろう、専売公社の職員2人が乗るトラックに同乗する。集金を終えた1人をとあるところへと誘う。
てっきり一杯と勘違いした男は榎津について行くが、人気のない畑の一角に来ると、榎津は突然金槌を振り上げて襲う。さらに激しい抵抗に遭うと、千枚通しでとどめをさす。金を奪ってトラックに戻ると、再び残る1人を騙して人気のないトンネル内で襲い掛かる。殺された者は娘がいるからと命乞いをするが榎津は容赦しない。金だけを目当てとした実に残虐な行為である。返り血をぬぐうとラジオを購入して身を隠す。
警察は早々に榎津の身元を特定し、全国に指名手配するとともに実家にも向かう。榎津の実家は温泉旅館を経営しており、父と母と榎津の妻がいる。長崎出身の父親鎮雄はクリスチャンで、そこから巌の過去が描かれる。漁師をしていた父に軍は戦争協力で漁船を供出しろと命じる。しかし、他の漁師ではなくクリスチャンであるがゆえに自分への供出命令であると抵抗する父。横柄な軍人に巌は無謀にも殴りかかる。もともとの気性なのか、巌は少年院を出たり入ったりして成人する。
そして詳しい経緯はわからないが、知り合って関係ができた加津子が実家に押しかけてくる形で結婚する。それも見合いの当日であり、巌は女癖も悪かった(モテたとも言える)ようである。そして常習的に刑務所に入る巌だが、父鎮雄と加津子の関係を疑う。それも無理からぬところで、加津子は父鎭雄に好意を抱いており、巌に愛想をつかして家を出たものの、迎えに来た鎭雄にほだされて戻るのである。鎭雄が入る風呂に入っていく加津子の行為はなかなか大胆である。この時代、倍賞美津子のヌードは話題になったのではないかと思ってみたりする。家族の中で、唯一巌に優しかったのは、体の弱い母のかよだけであった。
逃亡しながら犯罪を繰り返す巌と父鎭雄を慕う妻加津子、そしてクリスチャンであるがゆえに加津子の好意から必死に逃げる父鎭雄を物語は描いていく。弁護士や大学教授と巧みに身分を偽って身を隠す巌。その犯行はとどまるところを知らない。宇高連絡船の甲板で遺書と靴を残し自殺を偽装し、言葉巧みに詐欺で逃亡資金を稼ぎ、旅館に身を隠す。手配書が出回る中、金と女を巧みに手に入れて逃亡生活を送る巌。
ストーリーもさることながら、60年前の(映画が作られた年としても45年前)の日本の様子も興味深い。浜松ではタクシーの運転手の案内で、とある旅館に行く。「女がいるところ」というリクエストであり、運転手も心得たものでそこに案内する。案内されたのは普通の旅館であるが、女将がしかるべきところに連絡して、女の子を呼ぶのである。そこも女将は若い男とできていたり、同居している女将の母親は覗きの常習犯であり、なかなかの強者揃いである。警官が手配書持って巡回しているのも時代的か。それでも巌は東京に出ては詐欺と殺人を繰り返す。
観終わってみれば、なぜタイトルが「復讐するは我にあり」だったのかよくわからない。実話をベースにしているというが、女にもてて、口がうまく、稀代の犯罪者だったのだろう。それにしても、ストーリーとは別のところで、父鎮雄と妻の加津子のサイドストーリーの方が妙に気になってしまった。巌は当然ながら死刑となる。殺された人たちの事を思えば何とも後味が悪い。それにしても映画としては、やっぱりインパクトの強い映画だと改めて思える一作である・・・
評価:★★☆☆☆