2025年11月19日

【Winny】My Cinema File 3089

Winny.jpg

2023年 日本
監督: 松本優作
出演: 
東出昌大:金子勇
三浦貴大:壇俊光
皆川猿時:桂充弘
和田正人:浜崎太一
木竜麻生:桜井恵子
池田大:林良太
金子大地:山本幸助
阿部進之介:松山
渋川清彦:伊坂誠司
田村泰二郎:比嘉誠
渡辺いっけい:北村文也
吉田羊:金子勇の姉
吹越満:秋田真志
吉岡秀隆:仙波敏郎

<映画.com>
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ファイル共有ソフト「Winny」の開発者が逮捕され、著作権法違反ほう助の罪に問われた裁判で無罪を勝ち取った一連の事件を、東出昌大主演、「ぜんぶ、ボクのせい」の松本優作監督のメガホンで映画化。
2002年、データのやりとりが簡単にできるファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子勇は、その試用版をインターネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」に公開する。公開後、瞬く間にシェアを伸ばすが、その裏では大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、次第に社会問題へ発展していく。違法コピーした者たちが逮捕される中、開発者の金子も著作権法違反ほう助の容疑で2004年に逮捕されてしまう。金子の弁護を引き受けることとなった弁護士・壇俊光は、金子と共に警察の逮捕の不当性を裁判で主張するが、第一審では有罪判決を下されてしまい……。
金子役を東出、壇弁護士役を三浦貴大がそれぞれ演じるほか、吉岡秀隆、吹越満らが脇を固める。
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「Winny」にまつわる訴訟については何となく記憶に残っている。そしてそれが日本のソフト開発を遅らせることになったという評価があることも。されど詳細についてはわからないままであり、そんな詳細も知りたいと観ることにした映画。

時に2002年、散らかった部屋で1人の男がパソコンに向かっている。いかにもオタクっぽいその男が主人公の金子勇である。金子は自分の作ったファイル共有ソフトをネットに公開する。それはユーザー同士のデータのやり取りを無料でできるという画期的なもので、またたくまにネットユーザーに受け入れられて拡散していく。しかし、Winnyには悪しき面がある。それは映画や音楽などの著作権保護対象物を違法アップロードできてしまうというところ。そして警察が動き出す。

翌2003年、Winnyを違法目的に使用した者が逮捕される。そして警察はWinnyの製作者である金子の家にもやってくる。担当の刑事は穏やかな口調で、取調室では金子に対し、誓約書を書いてくれと持ち掛ける。天才グラマーであってもそのあたりは疎い金子は、疑問を持つこともなく一字一句警察の言うとおりに書類を書く。ところがそれは誓約書ではなく、供述調書。自ら違法目的での動画のやり取りを前提としてWinnyを作成したことになってしまい、そのまま逮捕される。容疑は著作権法違反ほう助。

そんな金子を弁護することになったのは弁護士の壇俊光。壇は弁護団を結成するが、金子の逮捕を知ったネットユーザーたちは自ら支援金を集めて弁護費用として申し出る。さっそく金子と対面した壇は、金子にまず諸注意を与えるが、すでに書かされてしまった供述調書は取り消せない。それにしてもこうした警察の捜査のやり方は改めて問題であると感じる。一方、この頃、愛媛県警では、署員に架空の領収書を書くように指示が出る。1人拒絶するのは仙波敏郎。架空の領収書を利用した裏金作りであり、これが並行して描かれる。

金子の逮捕理由であるが、何が悪いのか一見よくわからない。しかし、映画の中ではそれが壇弁護士によって簡潔に説明される。「包丁を作った者がいて、その包丁で人が刺された場合、包丁を作った人は罪に問われるのか。もし、罪に問われるとなると包丁を作る人がいなくなってしまう」。ここではWinnyが包丁にあたるわけであり、あたらめて逮捕が不当なのだと理解できる。当然、壇の弁護方針も「あくまでプログラマーとして開発しただけで、悪用されることを想定していなかった」という主張になっていく。

事件の背景には、著作権を守ってほしいという業界の切実な思いがあり、それは尊重されなければならない。それがWinnyを使って簡単にできるようになってしまったところが問題で、警察(検察)としてはWinnyを違法ソフトと位置付けてしまえば、使うのに躊躇するだろうという腹積もりがあったのかもしれない。そして2006年、金子は一審で有罪判決を受けてしまう。弁護団は金子の保釈を勝ち取る。それはかなりの戦果のように思う。しかし、金子は保釈条件として当然Winnyの改良等を行ってはならないという条件が付される。

映画の金子は実に純粋無垢なプログラマー。ソフト開発のことになると周りが見えなくなる。開発を禁止された金子は、ストレスが溜まっていく。物語は金子の少年時代も描かれる。本屋でプログラムのページを立ち読みしてきては、それを電気屋の店頭に置いてあるPCに打ち込んでいく。何度も往復してプログラムを起動させる。まさに同じことをしていた友人を持っていたゆえに、その友人の顔が浮かんでしまった。

最終的に金子は最高裁まで争って無罪を勝ち取る。しかし、訴訟によって失われた時間は目に見えない損失を日本に与えたという指摘はその通りに思えてしまう。警察もその動機は善であったと思うが、より大きな視点が欠けていたとしか思えない。並行して描かれる裏金事件は意外なところでWinnyと接点を持つ。事件について、あらためて理解を深めるとともに金子勇という天才の時間を奪ってしまった損失は大きいのだろう。こうした事件のあらましを理解するという意味でも映画は大いに役に立つ。改めてそんな感を持った一作である・・・


評価:★★☆☆☆










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2025年09月26日

【キリング・オブ・ケネス・チェンバレン】My Cinema File 3068

キリング・オブ・ケネス・チェンバレン.jpg

原題: The Killing of Kenneth Chamberlain
2019年 アメリカ
監督: デビッド・ミデル
出演: 
フランキー・フェイソン:ケネス・チェンバレン
エンリコ・ナターレ:ロッシ
スティーブ・オコンネル:パークス
ベン・マーテン:ジャクソン

<映画.com>
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モーガン・フリーマンが製作総指揮を務め、無実の黒人男性が白人警官に殺害された実在の事件を映画化したサスペンス。殺害までの90分間を実際の事件とほぼ同時間のリアルタイム進行で描き出す。
2011年11月19日、早朝のニューヨーク。双極性障害を患うケネス・チェンバレンは、就寝中に医療用通報装置を誤作動させてしまう。安否確認にやって来た3人の警官に、ケネスはドア越しに通報は間違いだと伝えるが信じてもらえない。最初は穏便に対応していた警官たちは、ドアを開けるのを拒むケネスに不信感を募らせ、次第に高圧的な態度をとるようになっていく。
「ハンニバル」『羊たちの沈黙』のフランキー・フェイソンが主人公ケネス・チェンバレンを熱演し、2021年・第31回ゴッサム・インディペンデント映画賞で主演俳優賞を受賞した。
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ニューヨーク州ホワイトプレーンズのとある集合住宅で暮らすケネス・チェンバレンは、双極性障害と心疾患を患っていて、ペンダント型の緊急通報システムを常に身につけていたが、夜中に寝苦しくなったケネスは、ペンダントを外してテーブルに置く。これが原因で警報管理室に通報が届いてしまう。それを受けてオペレーターがケネスに電話をかけてくる。ところが寝ているケネスは気づかずに応答しない。オペレーターは手順に従って911に連絡する。

連絡を受け、最寄りの警察からやって来たのは、パークス警部補とジャクソンと新人巡査のロッシ。到着した3人は安否確認のためロッシ巡査がドアをノックする。ここに至って目を覚ましたケネスは、ドア越しにロッシの呼び掛けに応じて自分は大丈夫だと伝える。しかし、警察としては直接本人と対面して安否確認をしなければならず、ドアを開けるようにと伝える。しかし、ケネスはドアを開けようとせず、あくまでもドア越しに大丈夫だと繰り返す。

しかし、警官には警官の都合というものがある。とにかくドアを開けて確認したいと繰り返す。ケネスはケネスで大丈夫だと繰り返すばかりでドアを開けようとしない。警察も身元確認をしてケネスが退役軍人だということ、前科がないことを確認する。しかし、頑なにドアを開ける事を拒むケネスに次第に何か隠しているのではないかという疑いを抱く。周囲は治安の悪い地域であり、同じ建物の中にも犯罪者が普通にいる事から警官たちもイライラが募っていく。

最初は穏やかに呼び掛けていた警官たちも次第に言葉使いも行動も荒々しくなっていく。特にジャクソンには人種差別傾向がある。するとケネスの態度もより頑なになっていく。やがて事態は大きくなっていく。近所の人も何事かと顔を出すし、近所に住んでいた姪も連絡を受けて様子を見に来る。姪は懸命に警察に説明しようとするが、感情が高ぶっているジャクソンは聞く耳を持たない。唯一、ロッシ巡査だけが捜査の違法性を指摘して出直そうと進言するが、パークスは新人の訴えを聞こうとしない。

激しくドアを叩くジャクソン。やがて要請を受けて応援の人員が到着する。もはや事態はケネスの安否確認からは大幅に外れ、中に入る事が優先される。その間、ケネスの下には警報管理室のオペレーターから連絡があり、ケネスに落ち着くように呼び掛け、対応策を指示する。しかし、ケネスはドアだけは決して開けようとしない。事態は膠着状態のままドアを破壊して中に入ろうとする試みが続けられる・・・

事件はタイトルにある通り悲劇に終わる。実話だという事が話の重さに加わる。なぜケネスは頑なにドアを開けようとしなかったのか。日本人の感覚なら誰もがすぐにドアを開けるだろう。また日本の警官であればこの程度の抵抗でドアをこじ開けようとはしないだろう。そこはアメリカであり、周辺の治安の悪さと警官に対する信頼度がないことが原因となっている。唯一、冷静で常識的だったロッシが新人で話を聞いてもらえなかった事も悲劇につながっている。

ケネスが素直にドアを開けてさえいたら、警官たちも呼び掛けていたように5分で済む話だったはずである。とは言え、心身に障害を抱えていたことも悲劇の一因になっているのだろう。エンドロールでは、実際の音声でのケネスとオペレーターとのやり取りが流れ、生々しさが蘇る。つくづくこの程度の事で命を落とす事のない平和な国に住んでいるありがたさを実感させられる。観終わって気持ちの重たくなる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年05月30日

【ドリームホース】My Cinema File 3015

ドリームホース.jpg

原題: Dream Horse
2020年 イギリス
監督: ユーロス・リン
出演: 
トニ・コレット:ジャン・ヴォークス
ダミアン・ルイス:ハワード・デイヴィス
オーウェン・ティール:ブライアン・ヴォークス
ジョアンナ・ペイジ:アンジェラ・デイヴィス
ニコラス・ファレル:フィリップ・ホッブス
アラン・デビッド:バート
シアン・フィリップス:モーリーン
リンダ・バロン:エルシー
カール・ジョンソン:カービー
ステファン・ロードリ:ガーウィン

<シネマトゥデイ>
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イギリスのウェールズで起きた実話を実写化したドラマ。パートと親の介護をするだけの日々を送っていた主婦が、馬主となって競走馬の育成をすることで人生を変えていく。監督はドラマ「HEARTSTOPPER ハートストッパー」などのユーロス・リン。『ヘレディタリー/継承』などのトニ・コレット、『われらが背きし者』などのダミアン・ルイスらが出演する。
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主人公はウエールズの田舎に住む1人の主婦ジャン・ヴォークス。朝起きてスーパーのパートに行き、夜はバーで働き、老いた両親と夫の世話をするだけの日常生活。誰だって「これでいいのか?」という疑問に行き当たるだろう。それでもせめて夫の理解があれば別かもしれないが、日がな一日テレビを観て過ごす夫はジャンの話も上の空で聞いている始末。そんな時、バーで働いているジャンの前に客として現れたのが、かつて馬主をしていたが、その後大損を出して業界から足を洗っていたハワード。ジャンはひらめくものを感じる。

それは、「競走馬を育てて大会で優勝する」というもの。夫を説き伏せ(というより半ば強引に)、渋るハワードを巻き込み、まずは雌馬を買う。夫も動き出せば協力的で、馬小屋を建てるのに汗を流す。次は種馬。元競走馬に種馬を依頼する。何事にも金がかかるが、火がついたジャンは困難にもめげず、資金調達をして1つ1つステップを上がっていく。足りない資金は村人たちに呼び掛け、馬主組合を作る。一人当たり週10ポンドであればそれほど負担にはならない。娯楽のない田舎だからか、20人ほどの出資者が集まる。

何とか種馬の種を仕入れ、やがて待望の子馬が生まれる。しかし、出産で母馬は死んでしまう。子馬もある程度の年齢になると、専門の厩舎で競走馬としての調教を受ける事になる。無名の主婦が子馬を連れてやってくるが、最初は相手にされない。子馬も人を乗せるのに慣れていない。見ていてハラハラする展開。それでもなんとか調教を引き受けてもらう。時折、訪ねては「我が子」と触れ合うジャン。そこには純粋な馬主とは違う姿がある。そしていよいよデビュー戦を迎える。馬主組合でジャンは馬名を決める事にする。決まった名前は、「ドリームアライアンス」。「夢の同盟」とでも訳すのであろうか。

デビュー戦に向かうバスの車内。みんなピクニックに向かうが如し。競馬場では馬主証を得意げに提示して中に入る。最初から勝てるほど都合はよくない。パドックでは落ち着かないドリームアライアンス。それでもゴールしただけで馬主たちは沸き立つ。そこでは勝つというよりも自分たちの馬がレースに出るという事に満足しているかのよう。そしてやってきた初勝利。馬主組合の面々の喜びようが何とも言えない。しかし、勝てば勝ったで次の問題が出てくる。なんと大馬主からドリームアライアンスの買収が持ちかけられるのである。それは田舎の人々にとっては無視できない金額・・・

ドリームアライアンスを我が子のように思うジャンにとっては、売却などあり得ない話。しかし、みんながジャンのような考えではない。お金欲しさに売却に応じるべきだという者も出てくる。これをほぼ独断で無視するジャン。しかし、今度はレースでドリームアライアンスが骨折してしまう。骨折して走れなくなった馬の運命は安楽死。人間の勝手さが表れるところである。こうなれば「やっぱり売れば良かった」という意見も出てくるだろう。幸い怪我から奇跡的に復活するが、もしそうでなかったらジャンは安楽死を認めていたのだろうか。

物語を面白くしているのは、これが実話に基づいているという事だろう。映画のエンディングでは、ご本人たちも登場する。物語にはフィクションも入っているのかもしれないが、素人感覚で競馬という世界に参入し、そこには賞金という現実があったとしても、ジャンのドリームアライアンスに対する愛情は金銭を超えたもの。そんな素人たちが勝ってしまうところに(と言っても実際は調教師たちが鍛え上げているわけである)間違いなく面白さがある。しかしながら、何事にも夢を持って情熱を傾ければなにがしかの事は成し遂げられるものなのかもしれない。

それにしてもこうした世界各地に眠る実話物語を知るという意味でも映画は意義深いと改めて思う。これを観て何かやってみようと思う人もいるかもしれない。そんなことを考えさせられた映画である・・・


評価:★★☆☆☆










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2025年05月07日

【ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命】My Cinema File 3008

ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命.jpg

原題: The Zookeeper's Wife
2017年 チェコ・イギリス・アメリカ
監督: ニキ・カーロ
出演: 
ジェシカ・チャステイン:アントニーナ
ダニエル・ブリュール:ヘック
ヨハン・ヘルデンベルグ:ヤン
マイケル・マケルハットン:イエジク
イド・ゴールドバーグ:マウリツィ・フランケル
エフラット・ドール:マグダ・グロス
シーラ・ハース:ウルシュラ

<映画.com>
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第2次世界大戦中のポーランド・ワルシャワで、動物園の園長夫妻が300人ものユダヤ人の命を救った実話を、ジェシカ・チャステイン主演で映画化。1939年の秋、ドイツのポーランド侵攻により第2次世界大戦が勃発した。ワルシャワでヨーロッパ最大規模を誇る動物園を営んでいたヤンとアントニーナ夫妻は、ユダヤ人強制居住区域に忍び込み彼らを次々と救出。ユダヤ人たちを動物園の檻に忍びこませるという驚くべき策を実行する。夫婦によるこの活動がドイツ兵に見つかった場合、自分たちやわが子の命も狙われるという危険な状況にありながら、夫婦はひるむことなく困難に立ち向かっていく。アントニーナ役を『ゼロ・ダーク・サーティ』 『オデッセイ』のチャステインが、ヤン役をヨハン・ヘルデンベルグがそれぞれ演じ、マイケル・マケルハットン、ダニエル・ブリュールらが出演。監督は「クジラの島の少女」のニキ・カーロ。
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物語の舞台は1939年のポーランド。ワルシャワにあるワルシャワ動物園。アントニーナ・ジャビンスキは夫のヤンと共に動物園を経営している。平和な動物園とは裏腹に、隣国ドイツではヒトラーが政権を獲得して以降、領土的野心を隠さず、ポーランドへの侵攻も噂されている。そんな事態に夫ヤンは幼い息子を連れアントニーナに田舎へ避難するように話す。だが、アントニーナは息子にとっても自分にとっても家はここだけだと言い切り、避難することを拒む。

しかし、同年9月1日。ついにワルシャワ上空にドイツの爆撃機が襲来する。動物園も標的とされ、爆撃されるに至り、アントニーナも慌てて荷造りを行うと息子を連れて駅へ向かう。爆撃を受けた動物園では、檻が破壊され、動物たちが市中へと逃げ出す。列車は爆撃を受けて運休となり、アントニーナはやむなく迎えに来たヤンとともに帰宅する。ドイツ軍は一気にワルシャワへ侵攻し、ポーランドはドイツの占領下に置かれることになる。動物園はその一部がドイツ軍の武器庫として使用されることになる。

動物たちの飼育どころではなくなるが、困惑した夫妻の下にもともと親交のあったドイツ人動物学者ルーツ・ヘックがやって来る。ヘックはアントニーナに動物を救う方法として希少動物をドイツで保護すると申し入れる。希少動物を奪われたらワルシャワ動物園は経営が成り立たなくなる。しかし、ドイツ軍の占領下ではどのみち動物園の経営も困難である。事実、希少種がドイツへ移送されたあと、残った動物は無残にも全て始末されてしまう。

一方、ユダヤ人はドイツ軍によってケットーに強制収容される。市民の避難も始まり、夫妻の下へも親交のあるユダヤ人昆虫学者夫妻が訪れ、避難に持ち歩けない大量の昆虫の標本を預かって欲しいと依頼してくる。ヤンは快く了承し、預かった標本を地下室にしまう。ゲットーでのユダヤ人に対する扱いは酷いもので、食糧も少なく暴行も日常茶飯事であると言う。夫妻の友人であるマウリツィもまた捕縛されてしまい、妻が助けを求めて夫妻の元へ身を寄せる。アントニーナは夫にユダヤ人たちを動物園に匿うことはできないかと相談するが、バレれば自分たちも処罰されることになり、安易にできない問題であった。

しかし、ゲットーでの様子があまりにも酷いものであり、ユダヤ人を救おうと水面下で活動する者達が現れたため、妻の相談に難を示したヤンも考えを改める。避難させるユダヤ人たちを動物園で一旦匿い、そこからそれぞれ避難させることにする。しかし、動物園はドイツ軍の武器庫として一部を使用されており、同じ場所にユダヤ人を大勢匿うというのは危険な話。そこで、2人はヘックに相談し、動物園を養豚場にしたいと話を持ち掛ける。ドイツ軍への食料供給にもなり、ヘックにも絶滅種の復活という目論見もあり、養豚場の許可に尽力する。餌はゲットーから廃棄野菜を使う。その廃棄野菜の中に救出する人々を隠し、外へ逃亡させるという作戦を立てる・・・

第二次大戦中のナチスによるホロコーストは誠に酷いものであったが、救いの手を伸ばせば自らの身も危険となるもの。それでもユダヤ人たちを救おうとした人たちがいた事はよく知られている。その勇気と行動は誠に称賛されるべきものである。ドイツにあっては『シンドラーのリスト』(My Cinema File 755)、同じポーランドでは『ソハの地下水道』(My Cinema File 1153)、日本人なら『杉原千畝 スギハラチウネ』(My Cinema File 1616)と映画化もされている。この映画はポーランドの動物園の経営者である夫妻の物語。ゲットーから生ゴミの中に隠して連れ出し、動物園の地下室で一旦匿ってからそれぞれ脱出させるというものである。

しかも動物園の敷地内には日中ドイツ軍が駐留しているという状況はかなり危険度が高い。さらにはドイツ軍の軍服に身を包んだヘックがしばしばアントニーナの下を訪れる。表向きはバイソンの繁殖のためと称するが、どうやらアントニーナに気があるようである。秘密の行動を隠しつつ、されどそれなりの親密さを装うことは秘密の行動に有利に働くこともある。しかし、その様子を目にするヤンにとっては面白くない。そんな夫婦のギリギリの中での行動がいつしか協力者を呼び、夫妻が助け出す人数は増えていく。その数は最終的に300人を越えたとする。

1942年になると、ゲットーに集められたユダヤ人たちに対し、列車での集団移送が行われるようになる。ワルシャワ蜂起が起こるも鎮圧される。そうした歴史のうねりの中で物語は終戦を迎える。動物園は現在でもワルシャワに存続しているようで、20年後には夫妻は“諸国民の正義の人”として、イスラエルからヤド・ヴァシェム賞を授与されたという。そうした勇気にきちんと報いるイスラエルも素晴らしい。

主演は、ジェシカ・チャステイン。気付けばいろいろな作品に主演・出演していて、何となくアクティブな女優さんというイメージであるが、ここでは恐怖というプレッシャーの中、自らの信じる正義のために活動する女性を演じる。出演作品はほぼハズレがないので、観る映画を選ぶ際には参考になる女優さんと言える。それにしても自らの危険を顧みずに人のために行動できる人がいったいどのくらいいるのだろうか。「The Zookeeper's Wife」という原題ではあるが、夫のヤンも同じように称賛されるべきで、「and Husband」と入れてほしかったと思う。知られざる実話に心が温かくなる映画である・・・


評価:★★☆☆☆










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2025年05月02日

【ゴヤの名画と優しい泥棒】My Cinema File 3003

ゴヤの名画と優しい泥棒.jpg

原題: The Duke
2020年 イギリス
監督: ロジャー・ミッシェル
出演: 
ジム・ブロードベント:ケンプトン・バントン
ヘレン・ミレン:ドロシー・バントン
フィオン・ホワイトヘッド:ジャッキー・バントン
アンナ・マックスウェル・マーティン:グロウリング夫人
マシュー・グード:ジェレミー・ハッチンソン
ジャック・バンデイラ:ケニー・バントン
エイミー・ケリー:アイリーン
シャーロット・スペンサー:パミー

<シネマトゥデイ>
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1961年にイギリス・ロンドンのナショナル・ギャラリーで起きた絵画盗難事件に基づくコメディー。60歳のタクシー運転手が、盗んだ絵画を人質にイギリス政府に身代金を要求した事件の真相を描く。監督は『ノッティングヒルの恋人』などのロジャー・ミッシェル。主人公を『アイリス』などのジム・ブロードベント、彼の妻を『クィーン』などのヘレン・ミレン、彼らの息子を『ダンケルク』などのフィオン・ホワイトヘッドが演じるほか、アンナ・マックスウェル・マーティン、マシュー・グードらが出演する。
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冒頭、老人ケンプトンが、ゴヤの『ウェリントン公爵』を盗んだとして逮捕される。それを遡ること半年前、ケンプトンは趣味で戯曲を作り郵便局で作品をBBCに送る。帰宅後、役人が訪ねてきてBBC受信料の支払いを請求する。かねてからその制度に不満だったケンプトンは、アダプターを外すと、「見ていないから」という理由で支払いを拒否する。私もNHKの衛星料金は払わない方針なので、似たようなものかと思う。『老人や弱者から金を巻き上げるな』というのがケンプトンの言い分。そんな主張が通るわけもなく、ケンプトンは逮捕される。

出所後、ケンプトンはその足で墓参りに行く。そこは事故で亡くなった娘の墓。長男のケニーは人妻のパメラと住み、次男のジャッキーは今もケンプトンの家にいる。妻のドロシーは娘の死から目を背け、ケンプトンは悲劇の戯曲を書いて気を紛らわせる。そんなある日、ニュースはイギリス政府とナショナル・ギャラリーが、ゴヤの名画『ウェリントン公爵』を14万ポンドで落札したと報じる。無駄な税金の使い方だとケンプトンは怒り、そんな使い方よりBBCの受信料の無料化をしろと憤る。

ケンプトンは働いているものの、癖のある性格が災いしてちょくちょく解雇される。妻のドロシーは家計を支えるため、家政婦として働いている。富裕層の家で家政婦として働くドロシーの姿は、なかなか忍耐が必要な様子である。無職のケンプトンはジャッキーと街頭でテレビ受信料無料化の署名を行うが、誰にも相手にされない。そんなケンプトンにドロシーは腹を立てる。ケンプトンは「受信料の件で騒がない、仕事も見つける」とドロシーをなだめ、ロンドンへ向かう。行き先はBBC。

送った戯曲の感想を聞くためだったが、相手にされない。さらに受信料無料化を嘆願をするも、一老人の戯言として耳を傾けてもらえない。そしてその翌日、ナショナル・ギャラリーから『ウェリントン公爵』が盗まれる。当時の警備の厳重さがどの程度だったかわからないし、映画ではその手口まで描かれない。警察は、犯人は資金と技術を持つ国際犯罪組織か元特殊部隊員と考えられるとコメントする。ところがケンプトンがその絵を持っている。それを知っているのはジャッキーだけ。ケンプトンは妻に見つからないように『ウェリントン公爵』をタンスの奥に隠す・・・

この映画は実話だという。そうではあるが、随所にコメディータッチでストーリーが進む。ケンプトンに大それた計画があるわけでもなく、絵画を処分して大金をせしめようとするものでもなく、ケンプトンは絵画を盾に貧しき者のために利用しようと考えるが、長男の嫁パメラにバレて、パメラに絵を売って2人で山分けしましようと持ちかけられて狼狽したりする。目的が良くても犯罪という手段は良くない。挙句にパメラに脅迫されてケンプトンも計画を断念する。

ケンプトンは絵を返すが、当然逮捕される。そして冒頭の通り裁判にかけられる。物語の後半はこの裁判が中心となる。法廷でケンプトンは無罪を主張するのだが、その理屈は痛快である。そして実はそこに隠された真相がある。陪審員の判決も痛快。実話の持つ力も相まって、世の中捨てたものではないと思わされる。現代の日本で裁判が行われていたら、実につまらない判決になっていただろう。最後にBBC放送は2000年に高齢者の受信料を無料にしたと紹介される。ただ、ケンプトンの戯曲は1つも採用されなかったというオチもつく。

犯罪は良くない事であるが、この映画を観ているとそうとも言い難くなる。「罪を憎んで人を憎まず」という言葉が思わず浮かんでしまう映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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