2025年01月30日

【SWALLOW/スワロウ】My Cinema File 2962

スワロウ.jpg

原題: Swallow
2019年 アメリカ・フランス
監督: カーロ・ミラベラ=デイビス
出演: 
ヘイリー・ベネット:ハンター・コンラッド
オースティン・ストウェル:リッチー・コンラッド
エリザベス・マーヴェル:キャサリン・コンラッド
デヴィッド・ラッシュ:マイケル・コンラッド
ライト・ナクリ:ルアイ
デニス・オヘア:ウィリアム・アーウィン
ザブリナ・ゲバラ:アリス

<シネマトゥデイ>
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異物を飲み込み続けることで、自分を取り戻していく女性を描くスリラー。孤独に苛(さいな)まれた主人公が、ガラス玉などを飲み込むことで、痛みと同時にこれまで感じたことのない快楽と充足感を得る。『KRISTY クリスティ』などのヘイリー・ベネットが製作総指揮と主演を務め、カーロ・ミラベラ=デイヴィスが監督と脚本を担当。『セッション』などのオースティン・ストウェル、ドラマシリーズ「HOMELAND」などのエリザベス・マーヴェルらが出演する。
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主人公のハンターは、ニューヨーク郊外の贅沢な邸宅に引っ越し、夫リッチーと共に新生活をスタートさせる。夫は父親の経営する会社の役員を務め、ハンターはリッチで誰もが羨む生活を送っている。しかし、そんな贅沢な暮らしでも不満というものは沸いてくる。部屋のカーテンについて夫に相談しても「好きなようにしていいよ」と優しく答えてくれる。入念に夕食の準備をし、着飾って帰宅した夫を出迎えても仕事の電話に応じる夫。夫の立場から見ればやむを得ないが、ハンターには物足りなさが残る。

夫の両親やその家族らの集まりは、上流階級のエレガントな集いとなるが、ハンターには疎外感が付きまとう。話を振られたハンターが話し始めるも、そのペースにイラついたのか、父親は話を遮って話題を変えてしまう。途方に暮れたハンターの目に止まったのはキラキラと輝く氷。ハンターはそれを口に入れ、バリバリと音を立てて噛む。その場にいた家族はみな驚くが、気付いたハンターが詫びてその場は事なきを得る。

しばらくしてハンターの妊娠がわかる。周囲は大いに喜ぶ。ハンターは義母から自分が妊娠した時に読んだ本を渡される。しかし、ハンターの気は晴れない。ある日、いつものように家事をしていたハンターは、小物入れのなかに入っていたビー玉に目が留まる。そして、それを手に取り、おもむろに口の中に入れ、飲み込む。それから数日後、トイレに入ったハンターは、排泄後便器に手を入れる。取り出したのはビー玉。ハンターはそれを洗うと鏡台の上に保管する。

やがてハンターは、衝動を抑えきれず、今度は画鋲を口に入れる。舌が傷つき、一度は吐き出すものの、意を決してもう一度飲み込む。激痛に苦しむもその行動はエスカレートしていく。金属片や電池などあらゆるものを飲み込む。しまいには義母からもらった本すらも読んだページを破って口に入れる。ここに至り、『Swallow(飲み込む)』というタイトルの意味がわかってくる。鏡台の前には排泄されたものの「コレクション」が並ぶ。

やがて産院の検診で、腹に異物が入っていることが発覚する。飲み込んだものがすべてスムーズに排泄されていたわけではないのか、腹の中のから異物が次々と取り出される。ここに至り、夫らの知るところとなる。ハンターは精神疾患と診断されるが、夫は結婚前に言うべきだとハンターを責める。反省するハンターだが、夫と義父母から精神科医に通わされることになる。さらに住み込みの看護士を雇い、ハンターの手伝いをするという名目で実質的な監視役がつく。ハンターの日常生活はさらに苦しいものになっていく・・・

人間というものは、常に満足するという事ができないのだろうかとふと思う。ハンターは家族に恵まれたとは言えない環境に育ったが、どういう経緯か金持ちでハンサムな夫と結婚し、贅沢な暮らしができる誰もが羨む生活を送っている。しかし、何もしなくても良いという環境が返って心を蝕むのか、異物を飲み込むという行為に陥っていく。象徴的なのは雇われた看護師の言葉。シリアの内戦を逃れて来たという経歴のその看護師は、生きるか死ぬかという中で心の病気になる暇などなかったと言う。もっともである。

看護師からすればハンターの状況は「贅沢病」と映るのだろうが、ハンターにすれば慣れない贅沢におかしくなったという事もできるかもしれない。そしてハンターの身を案じる夫と義理の両親の対応も返って逆効果になる。自らの出自に関するトラウマもハンターの精神を蝕んでいく。そしてハンターはついにとある行動に出る。幸せ過ぎる環境が逆に働くというのも、恵まれていない人からすれば理解できないかもしれない。ハンターに批判的だった看護師が最後にハンターに同情的になったことに少し安堵する。

ラストでハンターの取った行動。それがハンターの幸せにつながったのだろうか。ハンターの幸せをちょっと願ってしまった映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2024年07月04日

【キャラクター】My Cinema File 2872

キャラクター.jpg
 
2021年 日本
監督: 永井聡
原案: 長崎尚志
出演: 
菅田将暉:山城圭吾
Fukase:両角
高畑充希:川瀬夏美
中村獅童:真壁孝太
小栗旬:清田俊介
松田洋治:辺見敦
小木茂光:奥村豊
テイ龍進:浅野文康
中尾明慶:大村誠
岡部たかし:加藤一郎
橋爪淳:山城健太
小島聖:山城由紀
見上愛:山城綾
宮崎吐夢:本庄勇人

<シネマトゥデイ>
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『アルキメデスの大戦』などの菅田将暉と、バンド「SEKAI NO OWARI」のメンバーで本作が俳優デビューとなるFukaseが共演するサスペンス。悪を描けない漫画家が、偶然目撃した猟奇的な殺人犯を参考に漫画のキャラクターを生み出すも、それにより人生を翻弄(ほんろう)される。原案・脚本を担当するのは、漫画原作者として「MASTERキートン」などを手掛けてきた長崎尚志。監督を菅田が主演した『帝一の國』などの永井聡が務める。
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主人公は漫画家のアシスタントをしている山城圭吾。自身、漫画家を目指してコツコツと自作の漫画を描いている。それを支えるのは、同棲中の恋人・川瀬夏美。山城は画力の高さを評価されているが、新人賞で佳作を獲ったことはあるものの、デビューするまでには至っていない。これが最後と思い定めた作品を出版社の編集者大村に見せるも、あっさりとダメだしされてしまう。画力は高いが、「リアリティーがない」というのがその理由であった。「せめてリアリティーのあるキャラクターが欲しい」との要望に項垂れる山城であった。

その日、山城は従事している人気ホラー漫画家の本庄にアシスタントを辞めることを伝える。その最後の日、本庄はアシスタントたちに「誰が見ても幸せそうな家をスケッチしてくれ」と頼む。みんなが忙しそうな様子を見て、山城がこれを引き受ける。山城は幸せそうな家を探して夜の住宅街を自転車で走り回り、とある一軒家に目をつけてスケッチを始める。家の中からは大音量でオペラ音楽が流れており、しばらくして玄関のドアが開く。スケッチを咎められると思った山城は、慌てて声を掛けると返事もなくドアが閉まる。

すると隣家の住民から音楽がうるさいと苦情があり、山城はそれを伝えに家人に呼び掛ける。返事がないのを不審に思った山城は恐る恐る家の中に入っていく。すると、リビングでこの家に住む船越一家の4人が椅子にロープで縛り付けられ、滅多刺しにされて殺害されているのを発見してしまう。驚いて腰を抜かした山城は、庭に包丁を手にした男の姿を目撃する。すぐに警察と救急車が駆け付け、現場の船越家一帯は騒然とした雰囲気に包まれる。

捜査を担当するのが、神奈川県警察本部捜査第一課の清田とその上司の真壁。山城は第一発見者として事情聴取を受けるが、犯人の顔を見ていたにも関わらず、なぜか見ていないと供述する。第一発見者は容疑者の筆頭であるが、山城には被害者の死亡推定時刻にアシスタントとしてのアリバイがあり、山城は解放されて帰宅する。しかし、清田は山城が何かを隠していることを敏感に感じ取る。そして帰宅した山城は、やめるはずの漫画を一心不乱に描き始める。脳裏にあるのは、事件現場で目撃した犯人の顔。

一方、警察は捜査本部を立ち上げ、現場近くに住む辺見敦という男を調べる事にする。辺見は過去にストーカー殺人事件を起こし、医療少年院に入れられた前科があった。警察の取り調べに対し、辺見はあっさりと「私がやりました」と告白する。しかし、犯行の動機や凶器の行方、被害者との関係については「覚えていない」と繰り返す。警察は辺見を殺人容疑で逮捕するが、清田は何か納得できないものを感じている。

それから1年。山城の描いた漫画『34(さんじゅうし)』は大ヒットし、山城は一躍人気漫画家の仲間入りを果たしている。弱いと言われていたリアリティは、本物の殺人事件を目の当たりにした事で改善されたのである。一躍成功者となった山城は、夏美と結婚し、セキュリティの厳重な高級マンションに引っ越している。『34』の登場キャラクターである殺人鬼“ダガー”は、あの夜の殺人鬼の男そのものである。

その男は、警察に捕まるどころか容疑すらかけられることなく、とある山道を歩いている。どうやら乗っていた車が故障してしまったようであるが、通りかかった1台の車が男の前で止まる。車に乗っていたのは、4人家族の原一家。親切心から男を途中まで乗せることにするが、妻は不安気な様子。男は「4人家族は幸せですね」と呟き、一家の子供が読んでいた『34』を見ると、“ダガー”は自分に似ていないかと訊く。そして場面は変わり、山道脇の崖に転落した車の車中から座席に縛り付けられて殺害された原一家の4人の遺体が発見される。

事件現場にやってきたのは、所轄外の清田とその上司の真壁。管轄の刑事に疎まれながら、清田は、車の天井から凶器とみられる包丁を発見する。よく見つけたと褒める真壁に対し、清田は山城の漫画『34』を見せる。そこには今回の原一家殺害現場の様子が驚くほど克明に描かれており、車の天井から凶器が見つかるという展開も描かれた内容そのままであった。真壁と清田は、一連の事件の犯人は同一犯で、真犯人は作者の山城本人か『34』を読んだ模倣犯の可能性があると考える・・・

ひょんな事から殺人事件の現場を目撃してしまった漫画家志望の主人公。画力はいいが、ストーリーにリアリティがないとして日の目を見れずにいる。それが本物の殺人事件の現場を目撃してしまった事から運命が変わる。実際の事件はリアリティそのもの。弱点が克服されて殺人鬼が登場する漫画を大ヒットさせる。しかし、今度は犯人がその漫画を見てなぞるように事件を起こす。そして山城に共感した犯人が、今度は山城に接触してきて「共作」を申し出る。こうして山城は不本意な形で殺人鬼に付きまとわれるようになる・・・

実際の殺人現場と殺人犯とを目撃してしまった山城。それまでの不遇を抜け出すチャンスとばかりに事件をベースに漫画を描きあげ、そしてこれが成功する。その心境はよくわかる。もしも自分が山城の立場だったら同じことをするだろう。だが、犯人を目撃したことは警察に打ち明けても良かっただろうと観ていて思う。自分だったらそうした上で漫画にしただろう。そうすれば、山城の身に起こったようなことは避けられていたかもしれない(そうしたら映画にもならなかっただろう)。

やがてずうずうしく山城に接触してくる犯人。そうするとその先の展開も少し見えてくる。山城も勇気を振り絞り行動に移す事で犯人と対峙することになる。菅田将暉、高畑充希、中村獅童、小栗旬とそれだけで観たくなるようなキャスト。犯人役は「SEKAI NO OWARI」のFukase。と言ってもあまり興味のない身には初めて観るが、狂気とどこかネジの外れた言動がなかなかいい感じであった。最後の瞬間まで楽しめ、そしてほっとした後、山城の目に何か違う色が宿るのを観た気がした。

先が読めそうで読ませてくれなかったストーリー展開。なかなか楽しめた一作である・・・


評価:★★★☆☆








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2024年03月21日

【TITANE チタン】My Cinema File 2832

TITANE チタン.jpeg

原題: Titane
2021年 フランス・ベルギー
監督: ジュリア・デュクルノー
出演: 
アガト・ルセル:アレクシア/アドリアン
ヴァンサン・ランドン:ヴァンサン
ギャランス・マリリエ:ジュスティーヌ
ライス・サラーマ:ライアン
ドミニク・フロ:マカレナの女性
ミリエム・アケディウ:アドリアンの母
ベルトラン・ボネロ:アレクシアの父

<シネマトゥデイ>
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幼少期に交通事故に遭い、頭部にチタンプレートを埋め込まれた女性の数奇な運命を描いた異色スリラー。『RAW 少女のめざめ』などのジュリア・デュクルノーがメガホンを取り、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールに輝いたほか、数々の映画賞で高い評価を獲得した。キャストには『ティエリー・トグルドーの憂鬱』などのヴァンサン・ランドンをはじめ、アガト・ルセルらが名を連ねる。
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父と娘が車に乗っている。後部座席に座っている娘のアレクシアは、声を上げたりシートを蹴とばしたりして運転中の父親をイラつかせる。挙句にシートベルトを外したため、父が叱ろうとした途端、事故を起こしてしまう。アレクシアは頭に大怪我を負い、大手術の末、頭蓋骨にチタンプレートがはめ込まれる。リハビリを終えて退院したアレクシアは、車に駆け寄ってチタンプレートの入った頭を車に静かにつけるのであった。

そして月日が流れる。アレクシアは、美しく成長した今でもなお側頭部に大きな傷跡を残している。モーターショーのショーガールとして働いているが、ある夜のショーのあと、1人の男が駐車場でアレクシアを待ち伏せして声をかけてくる。追い払うのが難しいと判断したのか、アレクシアは男にキスをする。男としてはこれに応じて熱烈なキスになる。ところが、アレクシアは長い金属のヘアピンを髪から抜き取ると、おもむろにこれを男に突き立てる。

突然の行為に観ている方も驚かされるが、アレクシアは男の死体をトランクに入れると何食わぬ顔で帰宅する。平然とシャワーを浴びるアレクシア。するとどこかから何かの音が響いてくる。それはガレージに止められたマッスルカー。その車に裸で乗り込むアレクシア。直後に車は、上下に激しく振動する。それはまるで車との性行為のよう。この映画はしばしば意味の分からないシーンが多々出てくる。

そのアレクシアは、医者である父親に不調を訴える。父は大したことはないと診断するが、アレクシアは、自分が妊娠したことに気づく。トイレで下腹部に異常を感じたアレクシアは、出血に気づく。しかし、その血は真っ黒である。それはまるでオイルのよう。これも意味不明のシーンである。そしてなんとアレクシアは、男を刺殺したヘアピンを陰部に突き入れる。無理やり堕胎を行おうとするも失敗する。なんともグロいシーンである。

その夜、アレクシアは同僚のジャスティンの家に行く。そしてレズ行為に及ぶが、ふとしたきっかけからまたもや凶器のヘアピンを使ってジャスティンを殺害する。すると家人が気が付くが、見られたからにはとばかりにこれも殺害する。そして家人も1人ではない。次から次へと現れるので、アレクシアもうんざりしながら殺し続ける。しかし、すべてを殺害することはできず、とうとうひとりの女性が逃げだし通報する。

警察から追われる身となったアレクシアは実家に戻ると、今度は両親を寝室に閉じ込めて家に火を放つ。一体、どういうストーリーなんだろうと訝しく思う。チタンの頭蓋骨の影響なのか、アレクシアは車と交わり、オイルの血を流す。さらに妊娠による母乳もオイルであり、これはどう解釈すればいいのかと戸惑うばかり。ホラーなのか、連続殺人鬼の物語なのか。そして後半は失踪した少年に成りすまして少年の家族のもとに潜り込む。

タイトルにあるチタンがストーリーにどう影響しているのかは結局わからず。意味不明な連続殺人もまたしかり。意味はわからないが、妊娠も進んでアレクシアの腹はどんどん大きくなり、やがて出産の時を迎える。失踪少年の父親の行動はわからなくもないが、生まれた子供もまた意味不明である。意図的なのかどうなのか。意味不明を盛り込んで観る者を混乱させることだけが目的なのか。そこはよくわからない。

ホラーのようでもあり、バイオレンスのようでもあり、SFと言えなくもない。なんだかそれらがすべてごちゃまぜのような展開なのである。まるで前衛芸術なのかもしれないが、それがわからない者には理解不能な展開である。はたして一体この映画は何を表現しようとしたのか。芸術映画の理解力に乏しい身には極めて厳しい映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2024年02月19日

【アビリティ 特殊能力を得た男】My Cinema File 2817

アビリティ.jpeg

原題: DOE
2018年 アメリカ
監督: ジャスティン・フォイア
出演: 
ティモシー・デイヴィス:ジョン・ハットン
タチアナ・アリ:レイチェル
マシュー・セント・パトリック:カール
アーロン・ファーブ:ルーカス
ミラ・ソルヴィノ

公園のベンチで1人の男が目を覚ます。男には過去の記憶が全くなく、男はその場で混乱する。それから8年の歳月が流れる。男はジョン・ハットンと名乗り、結婚して子宝にも恵まれ、幸せな暮らしを送っている。過去の記憶はないままだが、なんと37カ国語を流ちょうに話すことができ、そのおかげで言語学の教師の職を得ている。妻は探偵をしているカールの妹レイチェル。カールは元警官であり、8年前に身元不明だったジョンの身元捜しを手伝ったことがどうやら契機となったようである。

ある日、いつものように講義を終えたジョンの前にルーカスと名乗る男が現れる。ルーカスの言動は混乱していて意味がわからない。しかし、ルーカスには数学者並みの才能があるという。そして過去の記憶がない。実は表向き37カ国語を話せると言っているが、実際は100以上という驚異的なもの。さらに近頃めまいや鼻血などの異変が頻発していたが、その症状もルーカスと共通している。気になったジョンは、後日ルーカスを訪ねて行くが、錯乱したルーカスはジョンの目の前で自殺してしまう。

一体、なぜ自分には驚異的な能力が備わっているのか。そして自分はどんな人間だったのか。時折、ジョンは白ウサギを抱えた夢を見る。そしていつも目にする不思議なマーク。これらが意味するものは何なのか。ジョン自身の過去を探って物語は進んでいく。目が覚めたところが過去の記憶を失っており、しかも常人にはない能力を身につけているという設定は、『ジェイソン・ボーン』(My Cinema File 1608)とまったく同じ。過去探しの中で知られざる過去が明らかになっていくという謎解きの要素がある。

しかし、ジョンには並外れた格闘技術があるわけではなく、次々に敵に襲われることもない。ただ、鼻血が出てめまいがするというもの。カールの助けを得て調べるうちに、ルーカスだけではなく、他にも自分と同じ境遇の謎の天才がいたことがわかってくる。いずれも記憶を失った状態で発見され、最後は自殺していた。さらに身体に紫外線を当てると浮かび上がる刺青を発見し、それを辿り、マーカス・リデルという人物を割り出す。それは死刑囚であり、既に刑も執行されていることがわかる。

『ジェイソン・ボーン』(My Cinema File 1608)と違い、ただの謎解きだけの物語。それゆえにインパクトが弱い。37カ国語を操れるといっても、調べたインプラントがブラジルで製造されており、詳細を聞くためにスペイン語で電話してスムーズに聞けたという程度で、この能力のインパクトも弱い。記憶を奪った組織にしても、何の目的でとなると疑問に思ってしまう。それなりに意義はあると思うが、「映画化するほどのものか」と思ってしまう。

ジェイソン・ボーンは「特殊能力」をふんだんに駆使してくれたから、その能力がなぜもたらされたのかという謎解きの面白さがあった。しかし、この映画のジョンの「特殊能力」にはそれがない。ほんの言い訳程度に話すだけで、組織がなぜそんな特殊能力を身につけさせたのかという部分も、単なるボランティアなのかと思えてしまう。残念ながら、途中まで盛り上げてはくれたが、尻すぼみに終わった感が強い。ちょっと残念な一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年09月18日

【ミッドサマー】My Cinema File 2749

ミッドサマー.jpeg

原題: Midsommar
2019年 アメリカ
監督: アリ・アスター
出演: 
フローレンス・ピュー:ダニー・アルドール
ジャック・レイナー:クリスチャン・ヒューズ
ウィル・ポールター:マーク
ウィリアム・ジャクソン・ハーパー:ジョシュ
ヴィルヘルム・ブロングレン:ペレ
アーチ・マデクウィ:サイモン
エローラ・トルキア:コニー

<映画.com>
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長編デビュー作「ヘレディタリー 継承」が高い評価を集めたアリ・アスター監督の第2作。不慮の事故により家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人でスウェーデンを訪れた。彼らの目的は奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」への参加だった。太陽が沈むことがないその村は、美しい花々が咲き誇り、やさしい住人たちが陽気に歌い踊る、楽園としか形容できない幸福な場のように思えた。しかし、そんな幸せな雰囲気に満ちた村に不穏な空気が漂い始め、妄想やトラウマ、不安、そして恐怖により、ダニーの心は次第にかき乱されていく。ダニー役を「ファイティング・ファミリー」のフローレンス・ピューが演じるほか、『トランスフォーマー ロストエイジ』のジャック・レイナー、『パターソン』のウィリアム・ジャクソン・ハーパー、『レヴェナント 蘇えりし者』のウィル・ポールターらが顔をそろえる。
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主人公は心理学を専攻する大学生のダニー。このところ精神障害をわずらっている妹に心を煩わされている。恋人のクリスチャンが頼りで、相談をしたり思いをぶつけたりしているが、当のクリスチャンはそれを内心重荷に感じている。友人たちからも別れたらと言われているが、ダニーの気持ちを思うと別れを切り出せずにいる。そうしたある日、とうとう妹は両親を道連れに一酸化炭素中毒で無理心中してしまう。ダニーはショックを受け、心に深い傷を負う。

しばらくして、ダニーはクリスチャンと一緒にパーティに参加する。そこで彼女は、クリスチャンが友人のマーク、ジョシュと一緒に、スウェーデンからの留学生ペレの故郷であるホルガ村を訪れる予定であることを知る。ペレはみんなに自分の一族の故郷で、90年に1度だけ開催される夏至祭を見に来てはどうかと誘っていたのである。大学で文化人類学を専攻するクリスチャンたちは、学問的関心もあってホルガ行きを決めたが、実はダニーには話しておらず、その負い目もあり、ダニーも誘う。意外な事に、ダニーは一緒に行くという。

こうして5人はスウェーデンへ渡り、ペレの案内でヘルシングランド地方に位置するコミューンであるホルガを訪れた。車で数時間、自然の中を走り、着いたところは森に囲まれた草原。幻想的な風景と、白い服を着た親切な村人たちに一行は魅了される。一行とは別に、ペレの兄弟分のイングマールに誘われたサイモンとコニーというカップルもロンドンからやってきている。ダニーはさっそくイングマールからマジックマッシュルームを勧められる。恐る恐る手を出したダニーは妹の幻を見る。

村には夜が訪れるが、白夜のために昼のような明るさのままである。翌日から始まる夏至祭はただの祝祭ではなく、村に伝わる特別な祭り。草原のテーブルで村人全員がそろって食事をし、そして一行は崖の下に集まる。すると、崖の上に1人の老女が姿を現し、おもむろに身を投げる。身を投げた老女は岩の上に落下して即死。顔が潰れ、ダニーたちはショックを受ける。さらにもう1人の老人が崖の上に現れ、同じように身を投げる。ところが足から落下したため、息があり苦しむ。村人たちの代表が静かに苦しむ老人の下に行くと、なんとハンマーで頭を叩き潰してとどめを刺す。

いくら映画とは言え、なかなか衝撃的なシーンである。村人たちは誰1人騒ぐことなく平然とこの事態を受け入れるが、外部から来たダニーたちは混乱する。村の長老はダニーたちに説明をするが、ロンドンから来たサイモンは直ちに帰ると宣言する。ダニーたちはペレの懇願もあり、とりあえずは落ち着く。さらに文化人類学の論文を控えているジョシュはこの出来事を論文にしようとする。そしてクリスチャンも同様に思い立ち、テーマが重なった事から2人は口論となる。

異常な展開の映画であるが、いったいどこへ行くのだろうかと思いながら観ていく。まずはサイモンのパートナーのコニーが、サイモンがいないことに気づく。村人から1人で駅に向かったと説明されるも、コニーはサイモンが自分を置いていくはずがないと納得しない。さらにマークは村の神聖な木にそうとは知らずに立小便をしてしまい、村人の怒りを買う。一方、論文で対立したジョシュは、クリスチャンを出し抜くためか長老に頼んで村の聖なる書を見せてもらう。写真に撮りたいと頼むが断られてしまい、ジョシュはその夜密かに写真を撮るために忍び込む・・・

地方の村によって独特の風習があるのは不思議ではない。しかし、この村では老人が崖から飛び降りて死ぬという風習があり、これは現代の感覚からいくと異常である。さらにそれを見て帰ると言い出したカップルや立小便をしたマークやジョシュが姿を消す。このあたりで不穏な空気を感じる。閉ざされた村であり、そのままでは近親相姦が進む。そこで目をつけられたのはクリスチャン。男としては、願ってもない「据え膳」であるが、それも結局秘め事ではなく儀式であり、とてもうらやましいというものではない。

やがてその村の真の姿が浮かび上がる。それは外部の者には信じ難いもの。村全体が一体化しており、気がついた時にはもう遅い。どういうドラマかと思っていたら、これは一種のホラーかもしれない。映画『ウィッカーマン』(My Cinema File 347)のような未開の地であれば、我々の常識を超えた慣習があってもおかしくはないが、現代社会の、しかもスウェーデンという先進国でそのような村があるとは思えないが、それでもそんな村がもしかしたらあるかもしれないという気にもなる。登場人物たちもまさかという思いがあったに違いない。

狂気のような村で、ひょっとしたら正常だと思っている自分たちが異常なのかもしれないという錯覚に陥るかもしれない。妹の精神異常から両親を巻き込んでの自殺という気も狂わんばかりの経験をしたダニー。ラストシーンの笑みが何とも言えない後味を残す。恐ろしくもあり、美しくもあるラストの映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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