
原題: Swallow
2019年 アメリカ・フランス
監督: カーロ・ミラベラ=デイビス
出演:
ヘイリー・ベネット:ハンター・コンラッド
オースティン・ストウェル:リッチー・コンラッド
エリザベス・マーヴェル:キャサリン・コンラッド
デヴィッド・ラッシュ:マイケル・コンラッド
ライト・ナクリ:ルアイ
デニス・オヘア:ウィリアム・アーウィン
ザブリナ・ゲバラ:アリス
<シネマトゥデイ>
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異物を飲み込み続けることで、自分を取り戻していく女性を描くスリラー。孤独に苛(さいな)まれた主人公が、ガラス玉などを飲み込むことで、痛みと同時にこれまで感じたことのない快楽と充足感を得る。『KRISTY クリスティ』などのヘイリー・ベネットが製作総指揮と主演を務め、カーロ・ミラベラ=デイヴィスが監督と脚本を担当。『セッション』などのオースティン・ストウェル、ドラマシリーズ「HOMELAND」などのエリザベス・マーヴェルらが出演する。
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主人公のハンターは、ニューヨーク郊外の贅沢な邸宅に引っ越し、夫リッチーと共に新生活をスタートさせる。夫は父親の経営する会社の役員を務め、ハンターはリッチで誰もが羨む生活を送っている。しかし、そんな贅沢な暮らしでも不満というものは沸いてくる。部屋のカーテンについて夫に相談しても「好きなようにしていいよ」と優しく答えてくれる。入念に夕食の準備をし、着飾って帰宅した夫を出迎えても仕事の電話に応じる夫。夫の立場から見ればやむを得ないが、ハンターには物足りなさが残る。
夫の両親やその家族らの集まりは、上流階級のエレガントな集いとなるが、ハンターには疎外感が付きまとう。話を振られたハンターが話し始めるも、そのペースにイラついたのか、父親は話を遮って話題を変えてしまう。途方に暮れたハンターの目に止まったのはキラキラと輝く氷。ハンターはそれを口に入れ、バリバリと音を立てて噛む。その場にいた家族はみな驚くが、気付いたハンターが詫びてその場は事なきを得る。
しばらくしてハンターの妊娠がわかる。周囲は大いに喜ぶ。ハンターは義母から自分が妊娠した時に読んだ本を渡される。しかし、ハンターの気は晴れない。ある日、いつものように家事をしていたハンターは、小物入れのなかに入っていたビー玉に目が留まる。そして、それを手に取り、おもむろに口の中に入れ、飲み込む。それから数日後、トイレに入ったハンターは、排泄後便器に手を入れる。取り出したのはビー玉。ハンターはそれを洗うと鏡台の上に保管する。
やがてハンターは、衝動を抑えきれず、今度は画鋲を口に入れる。舌が傷つき、一度は吐き出すものの、意を決してもう一度飲み込む。激痛に苦しむもその行動はエスカレートしていく。金属片や電池などあらゆるものを飲み込む。しまいには義母からもらった本すらも読んだページを破って口に入れる。ここに至り、『Swallow(飲み込む)』というタイトルの意味がわかってくる。鏡台の前には排泄されたものの「コレクション」が並ぶ。
やがて産院の検診で、腹に異物が入っていることが発覚する。飲み込んだものがすべてスムーズに排泄されていたわけではないのか、腹の中のから異物が次々と取り出される。ここに至り、夫らの知るところとなる。ハンターは精神疾患と診断されるが、夫は結婚前に言うべきだとハンターを責める。反省するハンターだが、夫と義父母から精神科医に通わされることになる。さらに住み込みの看護士を雇い、ハンターの手伝いをするという名目で実質的な監視役がつく。ハンターの日常生活はさらに苦しいものになっていく・・・
人間というものは、常に満足するという事ができないのだろうかとふと思う。ハンターは家族に恵まれたとは言えない環境に育ったが、どういう経緯か金持ちでハンサムな夫と結婚し、贅沢な暮らしができる誰もが羨む生活を送っている。しかし、何もしなくても良いという環境が返って心を蝕むのか、異物を飲み込むという行為に陥っていく。象徴的なのは雇われた看護師の言葉。シリアの内戦を逃れて来たという経歴のその看護師は、生きるか死ぬかという中で心の病気になる暇などなかったと言う。もっともである。
看護師からすればハンターの状況は「贅沢病」と映るのだろうが、ハンターにすれば慣れない贅沢におかしくなったという事もできるかもしれない。そしてハンターの身を案じる夫と義理の両親の対応も返って逆効果になる。自らの出自に関するトラウマもハンターの精神を蝕んでいく。そしてハンターはついにとある行動に出る。幸せ過ぎる環境が逆に働くというのも、恵まれていない人からすれば理解できないかもしれない。ハンターに批判的だった看護師が最後にハンターに同情的になったことに少し安堵する。
ラストでハンターの取った行動。それがハンターの幸せにつながったのだろうか。ハンターの幸せをちょっと願ってしまった映画である・・・
評価:★★☆☆☆