2025年02月14日

【ファントム・スレッド】My Cinema File 2968

ファントム・スレッド.jpg

原題: Phantom Thread
2017年 アメリカ
監督: ポール・トーマス・アンダーソン
出演: 
ダニエル・デイ=ルイス:レイノルズ・ウッドコック
レスリー・マンヴィル:シリル
ヴィッキー・クリープス:アルマ
カミーラ・ラザフォード:ジョアンナ
ジーナ・マッキー: ヘンリエッタ・ハーディング伯爵夫人
ブライアン・グリーソン:ロバート・ハーディング医師
ハリエット・サンソム・ハリス

<映画.com>
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『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・トーマス・アンダーソン監督とダニエル・デイ=ルイスが2度目のタッグを組み、1950年代のロンドンを舞台に、有名デザイナーと若いウェイトレスとの究極の愛が描かれる。「マイ・レフトフット」 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 『リンカーン』で3度のアカデミー主演男優賞を受賞している名優デイ=ルイスが主人公レイノルズ・ウッドコックを演じ、今作をもって俳優業から引退することを表明している。1950年代のロンドンで活躍するオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコックは、英国ファッション界の中心的存在として社交界から脚光を浴びていた。ウェイトレスのアルマとの運命的な出会いを果たしたレイノルズは、アルマをミューズとしてファッションの世界へと迎え入れる。しかし、アルマの存在がレイノルズの整然とした完璧な日常が変化をもたらしていく。第90回アカデミー賞で作品賞ほか6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。
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物語の舞台は1950年代のロンドン。主人公のレイノルズ・ウッドコックは、社交界のセレブや金持ちを顧客とするオートクチュールの仕立屋。独身の姉のシリルと2人で自らのファッション・ブランドを運営している。そんなレイノルズは仕事の虫。その日も朝から食事もそこそこに仕事をする。一緒に食卓についていた恋人も、甘い会話など望むべくもない。そんな態度に愛想をつかしてしまう。

ある日、郊外の別荘へ向かったレイノルズは、立ち寄ったレストランで働くウェイトレスのアルマを見染める。アルマもまんざらではない様子。そしてレイノルズはいきなりアルマを食事に誘う。仕事の虫の割には手が早い。高級レストランで食事をし、うっとりとしたアルマを別荘へと連れて行く。しかし、ベッドに直行するのではなく、仕事場へと誘い、そこでアルマの体の採寸を始める。どこまでが愛情でどこまでが仕事なのかわからないが、レイノルズはアルマを自宅へ連れ帰る。

レイノルズはそのままアルマをモデルとしてしまう。レイノルズとアルマは交際なのか仕事仲間なのか曖昧なままに関係を続ける。しかし、レイノルズの態度は変わらず、朝食時にも仕事に没頭し、アルマに対してトーストにバターを塗る音にも反応して文句を言う。されどアルマはそんなレイノルズを受け入れ、言われるままにモデルとしてショーにも登場する。ショーの後、疲れ果てたレイノルズをアルマはいたわり、やがてアルマはレイノルズのアシスタントのようになっていく。

ある時、レイノルズはバーバラという常連客に結婚式のドレスを納入する。結婚式の当日、レイノルズはアルマと共に式に出席する。しかし、その場でバーバラは酔ってしまい、醜態をさらす。それを見ていたアルマは、レイノルズにバーバラには自分たちのドレスはふさわしくないと告げる。2人は式の後バーバラの自宅に押しかけてドレスを返せと迫る。けれど当の本人はドレスを着たままベッドで酔いつぶれている。強引に押し入った2人はなんとバーバラからドレスを脱がして持ち帰る。

次にレイノルズはベルギーのプリンセス・モナのウエディングドレスの仕事を受注する。アルマは仕事のパートナーであるとともに私生活のパートナーでもあり、レイノルズを喜ばせようとサプライズの夕食を考える。それをシリルに相談するが、シリルはやめた方がいいと答える。ならばとアルマは1人で考えて準備をするが、帰宅したレイノルズはモナの仕事で不機嫌になっており、またサプライズを素直に喜ぶ性格でもない。自分のために手間暇かけて準備した事に感謝するような思いやりもない。とうとうアルマは日頃の不満をレイノルズにぶちまける・・・

主人公のレイノルズは、オートクチュールの仕立屋。腕が良いそうで評判を得ているが、性格は気難しい。時代の男のあり方もあるのかもしれないが、仕事以外に興味を示さず、女性との付き合いにおいてもお世辞でも相手を喜ばそうなんてしない。それでもモテるのは、ファッションという女性を毒する世界に君臨しているからなのかもしれない。そのオートクチュールであるが、1950年代のその様子は、『ミセス・ハリス、パリへ行く』(My Cinema File 2881)とまったく同じである。

『ミセス・ハリス、パリへ行く』(My Cinema File 2881)では、主人公のミセス・ハリスはパリのオートクチュールの代表クリスチャン・ディオールに憧れてお金を貯めてパリに行くが、同じロンドン市内の他の国内オートクチュールには魅力を感じなかったのだろうか、などと思ってみたりした。ビジュアル的にはじいさんに入るレイノルズを愛するアルマは、その愛が高じてとんでもない行動に出る。歪んだ愛の形とでも言えるだろう。この映画は、いったいどういう映画なのだろうか、恋愛映画なのかサスペンスなのか。

鬼気迫る様相で仕事に没頭するレイノルズと鬼気迫る内面の激しい愛でレイノルズに向かうアルマ。2人はとうとう結婚するが、それは純愛とは程遠い。一昔前のロンドンを舞台にした狂気的な愛の物語。アルマ役のヴィッキー・クリープスはあまり美人とは言えないが、狂気の愛を見せる迫力は十分である。原題は「幻の糸」とでも訳すのであろうか。ストーリーを合わせ考えると意味深さを感じさせる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2024年06月22日

【アムステルダム】My Cinema File 2869

アムステルダム.jpg

原題: Amsterdam
2022年 アメリカ
監督: デビッド・O・ラッセル
出演: 
クリスチャン・ベイル:バート・ベレンゼン
マーゴット・ロビー:ヴァレリー・ヴォーズ
ジョン・デビッド・ワシントン:ハロルド・ウッドマン
クリス・ロック:ミルトン・キング
ラミ・マレック:トム・ヴォーズ
マイク・マイヤーズ:ポール・カンタベリー
ロバート・デ・ニーロ:ギル・ディレンベック
テイラー・スウィフト:リズ・ミーキンズ

<MOVIE WALKER PRESS解説>
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ある殺人事件の容疑者にされてしまった3人の男女が巨大な陰謀に迫っていくクライムサスペンス。『アメリカン・ハッスル』のデヴィッド・O・ラッセルが史実を基に、ほぼ実話の物語を描いた。容疑者となる3人を、『ザ・ファイター』のクリスチャン・ベール、『スーサイド・スクワッド』のマーゴット・ロビー、『TENET テネット』のジョン・デビッド・ワシントンが演じるほか、アニャ・テイラー=ジョイ、マイケル・シャノン、ラミ・マレック、ロバート・デ・ニーロら豪華キャストが脇を固める。
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時は1930年代のニューヨーク。第1次世界大戦に参戦し、戦傷を負った医師バートは、自分と同じ復員兵に寄り添った治療をする医院を開いている。治療にくる復員兵たちに対し、バートは薬品を惜しげもなく差し出し、新薬と称して国が承認していない薬も作り出して治療にあたっている。そんなバートには戦友がいる。ある日、その一人である黒人弁護士のハロルドから呼び出される。軍隊で世話になったミーキンズ将軍が亡くなり、娘リズからその死因に不信なところがある事から解剖してほしいと頼まれたと言う。

世話になったこともあり、バートはミーキング将軍の死体の解剖を引き受ける。そして解剖の結果を受け取るが、胃の中の内容物から何者かの手によって殺害された可能性があるとわかる。さっそくリズに報告すべく、バートとハロルドは待ち合わせ場所へ向かうが、なぜかリズは2人を避けようとする。なんとかリズを捕まえた2人だが、リズは誰かに脅かされたようで怯えている。そして話の途中で、突然現れた男がリズを車道に突き飛ばし、リズは走ってきた車にひかれて死んでしまう。

呆然とするバートとハロルドだが、リズを突き飛ばした男は2人を指さし、2人が彼女を突き飛ばしたと叫び始める。明らかな濡れ衣であるが、明確な目撃者もなく、2人は不利な状況になる。警察も来て騒ぎも大きくなり、2人はあわてて逃げ出す。逃げながらバートは初めてハロルドと出会った時のことを思い出す。バートが部隊に派遣された時、黒人兵たちが平等に扱えと当時の部隊の上官に申し立てており、騒ぎをききつけたミーキンズ将軍がこれを認めてバートを上官に指名する。ハロルドはこの時の黒人兵の中心であった。

ハロルドはバートたちと激戦を闘い、ともに負傷して病院に担ぎ込まれる。そこで看護師として働いていたヴァレリーは、2人の手当を担当する。バートは片目を失い、背中に大けがを負う。ハロルドもまた左頬に醜い傷跡が残る。やがて2人は退院するが、以後2人はヴァレリーと意気投合し、3人は信頼のおける友人同士となる。片目を失ったバートに対し、アムステルダムに義眼を作るいい技師がいるとヴァレリーが言い、3人はアムステルダムへ行く。

アムステルダムでの療養生活は3人にとってとても楽しいものとなる。義眼を得たバート、ヴァレリーのハートを射止めたハロルドと、2人は心行くまで身体と心の傷を癒す。やがて傷が癒えたバートは、アメリカに帰国することにする。しかし、アメリカに帰国したバートがモルヒネ依存症になってしまったのを知り、ハロルドも彼を救うためにアメリカへ帰ることを決意する。それにヴァレリーを連れて行こうとするが、なぜかヴァレリーは置手紙をして姿を消してしまう・・・

『アムステルダム』というタイトルがついているものの、アムステルダムが物語の中心というわけではない。ストーリーの中心は何かの陰謀であり、それによって主人公が敬愛する将軍とその娘が殺されている。その陰謀を主人公が探っていくというもの。医師と弁護士という社会的に信頼が置ける職を持つ2人だが、殺人犯との汚名をきせられて警察から追われる。追われながらも黒幕を求めて東奔西走する。主人公のバートは名家の子女を妻に迎えるが、歓迎されていない。戦争に行ったのも従軍したのも高邁な理想というよりも厄介払いの感がある。

そんな主人公を演じるのは、クリスチャン・ベール。それだけでも観る価値はある。マーゴット・ロビー、ジョン・デビッド・ワシントンという共演陣も豪華であり、楽しみにして観たのではあるが、ストーリー自体のインパクトは今ひとつというところ。ただ、ラミ・マレックやロバート・デ・ニーロ、あげくにテイラー・スウィフトといった大物が脇役として登場するという豪華さに何とも言えない贅沢感がある。

アムステルダムは3人がひたすら楽しく過ごした町。またそこに行こうとバークを誘うハロルドとヴァレリー。その気持ちが良く伝わってくる。そういう意味では、タイトルにも含みのある事がわかる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2024年05月06日

【RUN/ラン】My Cinema File 2853

RUN/ラン.jpeg
 
原題: Run
2020年 アメリカ
監督: アニーシュ・チャガンティ
出演: 
サラ・ポールソン:ダイアン・シャーマン
キーラ・アレン:クロエ・シャーマン
パット・ヒーリー:郵便配達人トム
サラ・ソーン:看護師

<シネマトゥデイ>
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娘を溺愛する母親の愛情が狂気へと変貌するサイコスリラー。生まれながらの病気で車椅子生活を余儀なくされている娘と、彼女に病的な愛情を注ぐ母親の危うい関係を描く。『search/サーチ』などのアニーシュ・チャガンティが監督・脚本、同作でも組んだセヴ・オハニアンが製作・脚本を担当。母親に疑念を抱く娘をオーディションで選出されたキーラ・アレン、娘への愛を暴走させていく母親をドラマシリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」などのサラ・ポールソンが演じる。
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冒頭、病院で苦しむ妊婦。かろうじて出産した母は、保育器の中で横たわる我が子を見つめ、力なく微笑む・・・そして物語は現代へと飛ぶ。冒頭で登場した母ダイアンは、娘クロエに愛情のすべてを注ぎこんでいる。クロエは不整脈、血色素症、喘息、糖尿病、下肢の筋無力症といった慢性の病気を抱えており、車椅子での不自由な生活を母の甲斐甲斐しいサポートを受けて暮らしている。目標は、大学への進学。現在はその合格通知を一日千秋の思いで待っている。

母は学校の集いに参加する。そこでは、進学のために家を出て行く我が子の喪失感に耐えられない親の相談会が開催されているが、ダイアンは何でもない喜ばしいことと気丈な発言をする。振り返ってみれば意味深なシーンである。血糖値の調整のため大好きなチョコレートを制限されているクロエは、ある日母の買い物袋の中のチョコレートを母の目を盗んでくすねる。
その時、クロエは、袋の中に見慣れない薬を発見する。薬瓶には、ダイアンの名が記されている。

クロエが何も考えない女性であれば、この物語もまったく違うものになっていただろう。しかし、クロエの感受性は高い。その見慣れぬ緑色の薬が自分に新しい薬として母ダイアンから渡された事から、小さな疑惑が芽生える。翌日、例の薬を改めて確認するクロエ。薬瓶には自分の名前が記されているが、少し浮いている薬瓶のラベルを剥がしてみると、その下にはやはり母親の名前が記された別のラベルが隠されている。クロエの疑念はますます強まっていく。

クロエは密かにその薬について調べようとするが、こっそり使おうとしたパソコンはネット接続がなされていない。スマホも持たされていないからそれ以上調べようがない。クロエは、薬を飲まずに保管し、チャンスを窺う。そして母に映画を一緒に観に行こうと誘う。そして映画の上映中、「トイレへ行く」と偽って映画館を離れ、薬局へと向かう。そこでその薬は、動物用の筋弛緩作用を持つ薬であり、少なくとも下肢の筋無力症を抱えるクロエが飲んではいけないものであることを薬剤師から聞かされる。

実の母親がなぜ娘に劇薬を飲ませようとするのか。にわかには信じ難い展開。クロエは受け入れがたい事実にショックを受けるが、クロエを探しに来たダイアンに注射され、意識を失ったところで家に連れて帰らされる。自室で目を覚ましたクロエは、部屋のドアが外から鍵がかけられて閉じ込められていることに気付く。そして母ダイアンが外出中だとわかると、何とか逃げ出そうとする・・・

何気なく観た映画ではあるが、意外な展開に物語の世界に引き込まれていく。普通は母親と言えば、我が子に対する愛情の絶対的な存在である。ところが、この映画では、あろうことか娘に劇薬を飲ませようとする。しかし、殺害しようとまではしない。そこで、我が子の喪失ロスを嘆く母親の集いが思い起こされる。クロエも大学に合格すれば家を出ることになる。毎日合格通知を心待ちにする姿は、傍から見れば微笑ましいが、どうやらダイアンにとっては許されざる所業らしい。

そしてそこからクロエの脱出劇が始まる。何せクロエは車椅子であり、移動には制限がある。『RUN/ラン』(原題も同じ)というタイトルとは裏腹に、クロエには普通に歩いて逃げる事すらできない。そんなクロエが閉じ込められた2階の自室から脱出する。さらに閉じ込められた地下室から脱出しようとする。その孤軍奮闘が物語を盛り上げる。さらに地下室には母が隠していた大学入学の合格通知書類があり、昔の新聞記事の切り抜きが保管してある。それは信じていた母が隠してきた知りたくない真実。

これまでも捕らわれていた環境から逃げる映画(たとえば『ルーム』(My Cinema File 1932)など)はあったが、逃げる相手が母親というのがこの映画の味噌。クロエも歩けないハンディを追いながら創意工夫で逃げる。この方法はなかなかのもの。そしてどこへも逃げ場のない地下室の倉庫に追い込まれたクロエは、究極の捨て身作戦で脱出を図る。状況と相手の考えを読んだ見事な方法である。しかし、母の執念もまた凄まじい。それがこの映画の面白さに彩りを添える。途中、まったく目が離せない。

最後までハラハラさせる逃走劇。「走れない」という状況をうまく利用したスリラー。思わず「RUN!」と叫びたくなる映画である・・・


評価:★★☆☆☆









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2024年02月10日

【羊たちの沈黙】My Cinema File 2813

羊たちの沈黙.jpeg

原題: The Silence of the Lambs
1991年 アメリカ
監督: ジョナサン・デミ
出演: 
ジョディ・フォスター:クラリス・スターリング
アンソニー・ホプキンス:ハンニバル・レクター
スコット・グレン:クロフォード主任捜査官
テッド・レヴィン:バッファロー・ビル
アンソニー・ヒールド:チルトン医師
ケイシー・レモンズ:マップ
ダイアン・ベイカー:マーティン上院議員
ブルック・スミス:キャサリン・マーティン
フランキー・R・フェイソン:バーニー
ロジャー・コーマン:FBI長官

<映画.com>
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FBIアカデミーの優秀な訓練生クラリスは連続誘拐殺人事件の捜査スタッフに組み込まれ、犯罪者として収監されているレクター博士と面会する。それは、天才的な精神科医でありながら、自らの患者を次々と死に追いやったレクターこそ事件の謎を解く鍵になると見込んでのことだった。レクターはクラリスに興味を示し、捜査の手がかりを与える。ふたりが次第に心を通わせていく一方、新たな誘拐事件が。そしてレクターは脱獄を図り……。ジョナサン・デミ監督の代表作となったサイコサスペンス。1991年6月に日本公開。2001年3月にはニュープリント版が公開された。
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折に触れて昔観た映画を観ている。この映画もかつて観て深く印象に残っている作品である。主人公は、FBIの訓練生であるクラリス。女性ではあるが成績優秀である。訓練中のある日、上司に呼ばれる。その理由はとある凶悪な連続殺人事件に関する調査。それはバッファロー・ビルと呼ばれる犯人による犯行で、若い女性のみを狙いその皮を剥ぎ、遺体は川に捨てるという残虐的な犯行。警察は総力を挙げて犯人を追跡しているが、いまだに犯人の目星もつけられず、捜査は難航している。

クラリスが呼ばれたのは、州立精神病院に収監されているやはり異常な犯罪歴のある人物に事件のヒントになりそうな事を聞く事。さっそくクラリスはその病院に向かう。そこで案内されて対面したのは、元精神科医でもあるハンニバル・レクター博士。レクター博士は、かつて自身の患者を9人も殺害して食べたという異常な犯行歴を持っている。内心の動揺を隠して接触するクラリスに興味を持ったレクターは、クラリスが自分の過去を一つ明らかにする度に、事件に対して一つ助言を与えるという約束を交わす。

レクターがまず求めたクラリスの過去は、クラリスのトラウマについて。クラリスは自身の出来事をレクターに話し、そしてレクターは与えられた捜査資料から、「バッファロー・ビルはかつての自分の患者を思わせる」と意味深なコメントを残す。レクターも必要な情報をストレートによこさず、哲学問答のようなやり取りになる。会話を終えて帰るクラリスに隣の房の男が精子を投げつける。牢獄に隔離されているとは言え、若い女性にはなかなか過酷な場所である。

その頃、とある若い女性が誘拐される。誘拐したのはバッファロー・ビル。そして誘拐されたのは上院議員の娘。警察は威信をかけて早期事件解決に向けて総力を挙げる。クラリスはふたたびレクターの下に通う。2度目に行った時、クラリスに精子を投げつけた男は自殺していた。レクターに言葉攻めに遭い、自殺に追い込まれたという。そんなクラリスの姿を見た病院の院長チルトン博士はレクターの存在価値に気がつく。彼はレクターを出世の足掛かりに利用しようとする。

チルトン博士は上院議員とのコネクションを作る為に、レクターに取引を持ちかける。レクターには病院内での待遇改善を約束し、上院議員に情報提供するように要求する。しかしレクターの方が1枚上手。厳重な警備下ではあったが、病院の職員たちの一寸の隙をつき、職員を襲う。駆けつけた警官たちが見たものは、惨殺された職員の死体と瀕死の重傷を負った職員。警官隊は慌ててレクターの行方を追う。しかし、瀕死の重傷を負っていたかに見えた職員こそがレクター自身。なんと職員の顔の皮を剥いでなりすましていたのである。まんまと救急車に運び込まれたレクターは、そのまま救急隊員を襲って逃走してしまう・・・

一方クラリスも、それ迄にレクターから受けた助言と自身で調査した内容を元に最初の犠牲者と思われる遺族の下へと向かう。上司であるジャックもまた犯人と思しい人物を突き止め現場へと向かう。そしてバッファロー・ビルは監禁していた上院議員の娘に最後の仕上げに臨もうとする・・・年齢のせいか、最近観たはずの映画でも忘れてしまうことも多いが、印象深い映画というのは、時間が経ってもその内容はかなり記憶に残っている。

主演のクラリスを演じるのは、ジョディ・フォスター。若い頃は今見ても美形である。あまり数多くの作品を観ているわけではないが、やはりアカデミー賞(主演女優賞)に輝いたこの作品が代表作なのだと思う。一方、異常者ハンニバル・レクターを演じるのは、アンソニー・ホプキンス。こちらは多数の出演作品があるが、ハンニバル・レクターはこのあと2本も続編が作られているし、同じくアカデミー賞(主演男優賞)を獲得しているし、こちらも代表作と言えると思う。

異常な殺人鬼であるのに、どこか嫌悪できないところがあるハンニバル・レクター。逆に彼を出世のために利用しようとして失敗し、後に逃走したレクターから命を狙われる羽目になるチルトン博士の姿に人間の卑小さと小者ぶりとその後に想像される運命に滑稽な哀れさを誘われてしまった。アカデミー賞では、主要5部門(ビックファイブ)を制覇したこの作品。やはり何度観てもスリリングさは変わらない。記憶に残るのも当然の一作である・・・


評価:★★★☆☆








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2023年09月30日

【ある男】My Cinema File 2753

ある男.jpeg

2022年 日本
監督: 石川慶
原作: 平野啓一郎
出演: 
妻夫木聡:城戸章良
安藤サクラ:谷口里枝
窪田正孝:「谷口大祐」〈ある男X〉
清野菜名:後藤美涼
眞島秀和:谷口恭一
真木よう子:城戸香織
柄本明:小見浦憲男
きたろう:伊東
河合優実:茜
カトウシンスケ:柳沢
でんでん:小菅

<シネマトゥデイ>
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映画化もされた『マチネの終わりに』などで知られる平野啓一郎の小説を映画化。死後に別人と判明した男の身元調査を依頼された弁護士が、他人として生きた男の真実を追う。監督は『蜜蜂と遠雷』などの石川慶、脚本は『マイ・バック・ページ』などの向井康介が担当。主人公を石川監督作『愚行録』などの妻夫木聡、彼に調査を依頼する女性を『百円の恋』などの安藤サクラ、彼女の亡き夫を『初恋』などの窪田正孝が演じるほか、眞島秀和、仲野太賀、真木よう子、柄本明らが共演する。
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平野啓一郎原作の『ある男』の映画化作品。人気作家になると、原作が映画化されるケースが多い。東野圭吾などもこの傾向があるが、本も映画もそれぞれ味わいがあるから、前向きに捉えている。

物語の舞台は、宮崎県のとある町にある誠文堂文具店。店番をしているのは、離婚して息子を連れて戻ってきたこの家の娘、里枝。店番をしつつも、遠くを見つめそっと涙を流す。そのわけは後ほどわかる。そこへやってきた1人の客。雨の中、見慣れない男。スケッチブックを買っていくが、それを機にその後もしばしば画材を買いに来るようになる。別のある日、訪れたその男に店にいておしゃべりをしていた近所の人が、絵を描いているのを見たが、こんどそのスケッチブックを見せてくれと軽口をたたく。

田舎の狭い社会のこと、男は谷口大祐という伊香保温泉の老舗旅館の次男で、いまはこの地で林業の会社に勤めているということを里枝は知る。また別の雨の日にやってきた大祐は、いつものように画材を買うと里枝にスケッチブックを差し出す。そこには公園で遊ぶ息子の悠人らしき子供の姿も描かれている。そして大祐は、おもむろに里枝に向かって友だちになって欲しいと口にする。里枝は、買物しなくていいからいつでも絵を見せにくるようにと返事をする。

その後2人の仲は接近し、一緒に食事をするようになる。そこで里枝の涙の理由は、2歳のときに病気で亡くなった子供のことだとわかる。治療方針をめぐって対立したのが前夫との離婚原因であり、今でも大きな悔いとして里枝の心に残っている。やがて2人はつき合い始めるが、車の中でぎこちなくキスを交わそうとした大祐が窓ガラスに映った自分の顔に異常に反応し取り乱す。そんな彼を里枝はやさしく抱きしめるが、大祐にも何か事情がありそうである。

やがて2人は結婚し、花という女の子が生まれる。悠人も中学生になり、大祐によく懐き、その様子はどこから見ても実の親子の様。その日、大祐は里枝に内緒で学校に行こうとしていた悠人を山に連れて行く。2人はそうしてしばしば一緒に過ごしていたが、チェンソーで木に切り込みを入れたところで誤って転倒した大祐の上にその木が倒れてくる。下敷きになった大祐はそのまま帰らぬ人となってしまう。

1年が経ち、大祐が疎遠にしていた兄の恭一が一周忌の法要にやってくる。不義理を詫びる里枝に対し、恭一は「こんなところで死ぬなんて親不孝だ」と発言し列席者の怒りを買う。しかし、仏壇に遺影がないと恭一が言い出す。そして里枝が大祐の写真を指差すと、それは弟の大祐ではないと言う。おかしな空気がその場に漂う。そこで初めて、夫だった男が伊香保温泉の老舗旅館の次男であった谷口大祐という人物とは別人だということが判明する・・・

生きていればまだしも、死んでしまった後では本人に問い詰めるわけにもいかない。死んだ夫は一体誰なのか。里枝は離婚のとき世話になった弁護士の城戸に相談し、城戸が故人の身元を調査するという形で物語は進んでいく。城戸にも物語はあり、横浜のマンションで妻の香織、息子の颯太と3人で暮らしているが、城戸には在日三世という出自がある。何気なく在日の問題が織り込まれていく。

城戸は谷口大祐と名乗っていた男の身元を調べて行く。手掛かりは、本物の谷口大祐。大祐の元恋人を訪ね、「戸籍交換」という情報をつかみ、その仲介人を訪ねて大阪刑務所を訪れて小見浦憲男という男に会う。そして新たに「曾根崎義彦」という名前を知る。こうした過程は推理小説のようで、謎解きの面白さがある。やがて谷口大祐だった男の正体が判明する。そこに隠されていた真実、そして自分の顔を見ると動揺していた事情もわかる・・・

映画の面白さは、原作と変わらない。それはそもそものストーリーの面白さによる。安藤サクラや妻夫木聡が出演しているが、そうでなかったとしても面白い映画だっただろう。「わかってしまえば、本当のことを知る必要なかった」と里枝は最後に語る。真実というものはえてしてそういうものだろう。ラストで城戸は見知らぬ客に自分の話をするが、それは伊香保の温泉旅館の次男坊というもの。そこに秘められた胸中をいろいろと想像させられる。終わってもなお、いろいろと考えさせてくれる映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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