
2023年 日本
監督: 岸善幸
原作: 朝井リョウ
出演:
稲垣吾郎:寺井啓喜
新垣結衣:桐生夏月
磯村勇斗:佐々木佳道
佐藤寛太:諸橋大也
東野絢香:神戸八重子
山田真歩:寺井由美
坂東希:高見優芽
宇野祥平:越川秀己
渡辺大知:西山修
徳永えり:那須沙保里
平岩瀬亮:矢田部陽
山本浩司:夏月と佳道の中学時代の担任教師
鈴木康介:右近一将
<シネマトゥデイ>
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『桐島、部活やめるってよ』の原作などで知られる朝井リョウの柴田錬三郎賞受賞作を映画化。息子が不登校になった検察官、ある秘密を抱えた販売員、心を閉ざして生活する大学生など、一見無関係な人々の人生が、ある事件をきっかけに交差し始める。『あゝ、荒野』シリーズなどの岸善幸が監督、同じく港岳彦が脚本を担当。『窓辺にて』などの稲垣吾郎、『くちびるに歌を』などの新垣結衣、『ビリーバーズ』などの磯村勇斗、『軍艦少年』などの佐藤寛太らが出演する。
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主たる登場人物は3人。最初に登場するのは会社員の佐々木佳道。その日も社員食堂で1人、昼食を取っている。飲みに行こうと誘われるも、断る佳通。その姿からは積極的に他人と交わりたくないと思っているように見える。もう1人は広島にあるショッピングモールで働く桐生夏月。接客はそつなくこなしているが、やはり人との関わりは少なく、その日も1人回転ずしで夕食を済ます。家に帰るとベットの上で寝ころび、やがてどっぷりと快楽の水に浸る。
最後の1人は横浜地方検察庁に勤める検事・寺井啓喜。妻と息子の3人家族であるが、最近息子が不登校になってしまっている。息子は、同じように不登校のユーチューバーの動画を見て、今は行きたくない学校へ行かないという選択肢があるとして、自分も動画配信をすると言い出す。しかし、検事といういわばエリートだからだろう、学校へ行くという普通のことが出来ないということが啓喜には理解できない。必然的に息子を理解しようとする妻とも衝突する。
ある日、啓喜の所に犯罪を犯した者が連れて来られる。それは万引き常習犯の女性で、取調が終わると、啓喜に書記官の越川はある事件の記事を見せる。その記事は、水道の蛇口を盗みを水を出しっぱなしにて逮捕されたフジワラサトルという人物のもの。「水を出しっぱなしにするのが嬉しかった」と供述したとするフジワラに対し、越川は水に性的興奮を得るという人物だったのではないかと言う。
そんな越川の意見を頭から否定する啓喜。エリートの啓喜には理解できないものなのだろう。そして啓喜は息子にも「僕のやっていることを理解して欲しい」と言われてしまう。場面変わってとある大学。学生の神戸八重子は、極度の男性恐怖症を抱えている。そんな八重子は学園祭に向けて、ダイバーシティフェスの企画、開催に向けて取り組んでいる。その一環でダンスサークルに出演を依頼した八重子は、そこで感情をぶつけるようなダンスを踊る諸橋大也と出会う。そしてなぜか大也に触れられても八重子は大丈夫だということがわかる。
夏月の職場に偶然、同級生の西山が夫婦で顔を出す。そして同級生の結婚式に呼ばれるが、気乗りはしないものの、佐々木佳道も出席するとわかり参加することにする。その時蘇る中学の頃の記憶。それは気になった新聞記事を発表する時間。同級生が水を出しっぱなしにして逮捕されたフジワラサトルの記事を読み上げ、クラス中が爆笑しているが、夏月は笑わない。そして担任に校舎の脇の古い蛇口を工事するから近付かないようにと言われるが、自分の欲求に従い水道に向かう。
そこにはすでに、同じクラスの佐々木佳道がいる。ほとんど話したこともない2人だったが、蛇口を壊して吹き出した水しぶきの中、びしょ濡れになりながら言葉もなく互いを理解したのである。そんな佳道と結婚式で再会を果たした夏月だが、自分には関心を見せず、あろうことか同級生の女性と食事に行き、そして家に連れていくのを見かけてしまう。電気の消えた佳道の家のガラスを割って逃げる夏月。そして大晦日の夜、車を運転していた夏月は、T字路の看板をめがけてアクセルを踏む・・・
タイトルの「正欲」とはいったいどういう意味なのか。疑問に思いつつ映画の世界に入っていく。現れたのは普通と違い、水に関心を持つ主人公の2人。中学生の頃、水道から噴き出す水を浴びてびしょびしょになりながら互いに共感しあった夏月と佳道。そして不登校の息子の気持ちが理解できない寺井啓喜。男性恐怖症の八重子、そして実はやはり水に興奮する大也。どこか普通の感覚と違う、そして普通の感覚過ぎて違うものが理解できない人々。だから、「正しい欲」なのだろうか。
誰でも多かれ少なかれ、「フェチ」と言えるものはあるのかもしれない。みんなが同じ趣味という事もないだろうし、人と違っているのは考えてみれば当たり前なのであるが、みんな同じと考えてしまう。夏月の友人はしばしば夏月の職場にやってくる。そしてその友人にとっては、結婚して子供を育てるのが普通で、いつまでも独り身で恋人もいない夏月に世話を焼こうとする。しかし、夏月にとってはそれはうっとうしいことでしかない。後半、互いに同じ感覚で理解しあった夏月と佳道。そこに普通の感覚の啓喜が関わってくる。
自分の理解できないものを「社会のバグ」と言い放つ啓喜に「水フェチ」など理解できるはずもない。両者の感覚がわかるだけに、そのわかりあえなさがわかり過ぎてしまう。実に深い物語である。原作小説もあるようだからこれは是非読んでみたいと思わされる。秘めて満足できるならフェチも大いにかまわないだろう。小児愛などの危ないフェチはなおさらである。危ないフェチは別として、「人の趣味」にとやかく言うものではないことは大事だと改めて思う。理解されない者同士が出会って理解し合える幸せも、このドラマでは一瞬で壊れてしまう。
なかなか深い物語。原作も読んでみたいと思わされる一作である・・・
評価:★★☆☆☆





