2025年03月29日

【そして僕は途方に暮れる】My Cinema File 2988

そして僕は途方に暮れる.jpg

2022年 日本
監督: 三浦大輔
出演: 
藤ヶ谷太輔:菅原裕一
前田敦子:鈴木里美
中尾明慶:今井伸二
毎熊克哉:田村修
野村周平:加藤勇
香里奈:菅原香
原田美枝子:菅原智子
豊川悦司:菅原浩二

<シネマトゥデイ>
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映画化もされた「愛の渦」などで知られる三浦大輔が作・演出、アイドルグループ「Kis-My-Ft2」の藤ヶ谷太輔主演により2018年に上演された舞台を、三浦自身が映画化。ささいなきっかけから恋人や親友、家族などあらゆる人間関係を断ち切ろうとする青年の逃避行を描く。主演の藤ヶ谷をはじめ、前田敦子と中尾明慶が舞台版から続投し、映画版新キャストとして『純平、考え直せ』などの毎熊克哉と野村周平、『深呼吸の必要』などの香里奈、『百花』などの原田美枝子、『今度は愛妻家』などの豊川悦司らが出演する。
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この物語は日付が表示されて始まる。まずは11月19日木曜日。菅原裕一はフリーター。彼女の鈴木里美と同棲中。朝、仕事に向かう里美に眠そうに目を覚ます裕一。その夜、里美が帰宅する。実は裕一は浮気をしているのだが、スマホの画面を巧みに里美に見えなくしようとしていた態度に我慢できなくなった里美は裕一を問い詰める。里美も密かに裕一のパスワードを見抜いてチェックしていたのである。慌てた裕一はそそくさと荷物をまとめるとそのままアパートから出ていく。アパートの名義は里美になっているからと。

裕一は幼馴染の今井伸二に連絡を取り、伸二の家に転がり込む。それから1週間後の11月26日木曜日。居候の立場の裕一だが、洗濯も掃除も家事はすべて伸二がやっている。さらにトイレットペーパーが切れたことを指摘し、翌朝の仕事にそなえて寝る伸二のそばで平気でテレビを見続け、朝は起こさないように静かに出て行ってくれという裕一にさしもの伸二もキレて注意をする。するとそれが気に入らなかったのか、裕一は荷物をまとめると伸二の家を出て行く。スマホの電話帳から選んだのは、バイト先の先輩田村。

それからまた1週間後の12月3日木曜日。さすがに先輩の家とあって裕一はこまめに家事をする。これを田村は重宝し、裕一との関係も良好。しかし、やっぱりいろいろと気づまりになり、裕一はここも出る事にする。次に頼ったのは後輩の加藤。これまでの経緯を説明すると加藤は感心する。助監督を務める勇に裕一の存在自体が映画だと言われ、裕一は成り行きから泊めてくれと言えなくなる。頼れる先はあまり多くない様子。裕一は姉の香に連絡を取り、香の家を訪れる。しかし、香に金を借りに来たと勘違いされ、またしてもそこを出る。もう行く先は実家しかない。

そして12月5日土曜日。裕一はお金を節約して長距離バスとフェリーを乗り継いで北海道苫小牧にある実家に帰り着く。母は裕一のことを喜んで迎える。母はクリーニング店で働いているが、リウマチを抱えて右半身が不自由である。父は女を作って何年も前に家を出ている。不自由な体で一軒家に1人暮らしの母に申し訳なさを感じた裕一は、このまま実家で暮らすことを決める。しかし、母は新興宗教にはまっており、裕一にも入るよう勧める。裕一はそれに嫌悪感を示すと実家を飛び出す・・・

こうして1週間ごとに住みついたところを飛び出す裕一。問題が生じるとそれに向き合うことなく逃げて行く姿はいかがなものかと思わざるをえない。東京に行く前の裕一のことは描かれておらずわからないが、もともとそんないいかげんな性格だったのだろうかと思ってみたりする。それでも女性にはモテるようなので、性根がしっかりしていたら仕事もできるのではないかと言う気がする。

フラフラと生きている若者にはイライラさせられるものであるが、主人公の裕一はそんな典型。先の事を考えずに流されるまま生きていく。しかし裕一には持つべき友がいる。自堕落に生きる父親は反面教師。落ちるところまで落ちた裕一は、最後にみんなに支えられて這い上がるきっかけを掴む。しかし、そこで突然思いもかけない事が起こる。タイトルはかつて流行った歌と一緒だが、最後に裕一は途方に暮れる。なかなか捻りの効いたストーリー。自分よりも酷い人間を見ると人は安心するものだろう。「俺もここまで酷くない」と。その後、裕一はどうなったのだろう。少なくとも冒頭の裕一ではないはず。そんなことを考えてみた映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年03月28日

【生きてるだけで、愛。】My Cinema File 2987

生きてるだけで、愛。.jpg
 
2018年 日本
監督: 関根光才
原作: 本谷有希子
出演: 
趣里:寧子
菅田将暉:津奈木
田中哲司:村田
西田尚美:真紀
松重豊:磯山
石橋静河:美里
織田梨沙:莉奈
仲里依紗:安堂

<映画.com>
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小説家、劇作家、演出家などマルチな活動を展開する芥川賞作家・本谷有希子の同名小説を趣里の主演で映画化。過眠症で引きこもり気味、現在無職の寧子は、ゴシップ雑誌の編集者である恋人・津奈木の部屋で同棲生活を送っている。自分でうまく感情をコントロールできない自分に嫌気がさしていた寧子は、どうすることもできずに津奈木に当たり散らしていた。ある日突然、寧子の目の前に津奈木の元恋人・安堂が現れる。津奈木とヨリを戻したい安堂は、寧子を自立させて津奈木の部屋から追い出すため、寧子に無理矢理カフェバーのアルバイトを決めてしまう。趣里が主人公・寧子役を演じるほか、津奈木役を菅田将暉、安堂役を仲里依紗がそれぞれ演じる。数々のCMやAKB48、Mr.ChildrenなどのMVなどを手がけ、カンヌ国際広告祭でグランプリなどを受賞した関根光才の長編劇映画初監督作品。
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登場人物は同棲中の寧子と津奈木のカップル。寧子はメンタルに問題を抱えており、過眠症で寝てばかりいる。帰宅した津奈木が声をかけても「うるさい!」と怒鳴り、ものを投げつける有様である。津奈木は弁当を買いに出るが、寧子は煙草がない事に気付き煙草とコーラを買ってきてと津奈木にメールを送る。自動販売機でコーラを買った津奈木は、販売機が割れているのを見て、寧子と初めて出会った日のことを思い出す。

それはとある飲み会に参加した津奈木が、酔っ払った寧子を送っていくことになる。寧子の酔い方は酷いあり様で、友人たちもいつもの事なのかあきれ顔。何も知らない津奈木に寧子を預けてさっさと去ってしまう。津奈木が親切に自動販売機で水を買って寧子に渡すと、一気に飲み干し、突然頭を自動販売機に打ち付ける。額からは血が流れてるが寧子は気にもしない。さらに心配する津奈木をよそに寧子は走り出す。酔っているとしても異常である。

そんな津奈木は、物書きになりたくて出版社に入ったものの、三流週刊誌の編集部に配属され、ゴシップ記事の執筆に追われる日々を送っている。編集長はとある女優のスキャンダラスな記事を津奈木にまわすが、津奈木も他の仕事を抱えて手一杯である。同僚の女性記者が、裏取りをしていない記事を案じるが、津奈木はしばらくしたらみんな忘れると淡々と仕事をこなす。その様子はどこか諦めている感じが漂う。

一方の寧子はバイトの面接を受けようとしたが、起きられずに面接をドタキャンする。同棲していると言っても2人の寝室は別々であり、寧子は完全なヒモ状態。さらに津奈木に対する態度も悪く、普通であれば追い出されるだろう。なぜ津奈木が根気よく付き合っているのかよくわからない。そして突然夕食を作る事を思い立ち、津奈木のリクエストを聞くとスーパーに買い物に行く。ところがミンチが売り切れていたせいで調子が狂い、卵を床に落としてしまい愕然とする。帰宅して、料理にとりかかるが、ブレーカーが落ちてしまい、どうにもならなくなって大声を上げて泣き出す。

津奈木が戻ると、真っ暗な部屋で寧子がうずくまっている。肉親であればまだしも、他人の女であれば自分ならとても耐えられない。そして物語は動いていく。寧子がいつものように昼過ぎまで寝ていると、見知らぬ女が訪ねてくる。女は安堂といい、かつて津奈木とつき合っていたと言う。津奈木を見かけて尾行したという安堂は、どうやら津奈木と復縁する事を望んでいる。津奈木の性格からして寧子をいまのまま追い出すことはできないので寧子に働いて自立するように求める。

突然やってきて、彼氏を横取りすると宣言し、寧子を知り合いのカフェバーにバイトとして紹介する。寧子も寧子なら、この安堂も安堂である。しかし、このカフェバーのオーナーは心が広く、さして理由も聞かずに寧子を迎え入れる。とは言え、突然しっかり者になるわけでもなく、寧子は失敗の連続で、きちんと起きられず遅刻ばかりしてしまう。津奈木は津奈木で、たくさんの仕事を押し付けられ、夜遅くまで働くことが増えて次第に疲弊していく。寧子は調子がよくなり津奈木に話しかけるが、今度は津奈木にそれを聞くゆとりがない。そして事件が起こる・・・

社会の片隅で不器用に生きる2人。女はメンタル不調で、行動は怪しい。男の立場からすると、付き合うどころかそばにも寄って欲しくないタイプである。トイレのウォシュレットのことが心配という話を真面目にされても引くだけである。本人も苦しんでいて、「生きているだけで本当にしんどい」と寧子は語る。そしてあまりにもしんどくなって、店を飛び出した寧子は、走りながら服を脱ぎ、マンションの屋上でとうとう全裸になってしまう。タイトルの意味がこのあたりでわかってくる。

すぐにブレーカーが落ちてしまう部屋で暮らす2人。その姿は本当に「生きているだけで、愛」である。こんな女の近くには寄りたくないと心から思うも、映画だからいいとも言える。寧子には幼い頃、母親が全裸で踊っていた記憶がある。それは遺伝なのであろうか。だとすれば、2人の子もまた寧子のようになるのだろうか。そんなことを考えながら観終わった映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2025年03月23日

【ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅】My Cinema File 2985

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅.jpg

原題: Nebraska
2013年 アメリカ
監督: アレクサンダー・ペイン
出演: 
ブルース・ダーン:ウディ・グラント
ウィル・フォーテ:デイビッド・グラント
ジューン・スキッブ:ケイト・グラント
ステイシー・キーチ:エド・ピグラム
ボブ・オデンカーク:ロス・グラント
アンジェラ・マキューアン:ペグ・ナギー

<映画.com>
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『ファミリー・ツリー』「サイドウェイ」のアレクサンダー・ペイン監督が、頑固者の父親と、そんな父とは距離を置いて生きてきた息子が、旅を通して心を通わせる姿をモノクロームの映像で描いたロードムービー。モンタナ州に暮らす大酒飲みで頑固な老人ウディのもとに、100万ドルを贈呈するという明らかに胡散臭い手紙が届く。すっかり信じ込んでしまったウディは、妻や周囲の声にも耳を貸さず、歩いてでも賞金をもらいにいくと言って聞かない。そんな父を見かねた息子のデイビッドは、無駄骨と分かりつつも父を車に乗せてネブラスカ州を目指すが、途中で立ち寄ったウディの故郷で両親の意外な過去を知る。ウディを演じた主演のブルース・ダーンが、2013年・第66回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。
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車が走りすぎる幹線道路を1人の老人がとぼとぼ歩いている。やがてパトカーが老人を保護する。老人はウッドロウ・グラント。その言う事には、100万ドルが当選したとの手紙を受け取り、ネブラスカ州までもらいに行くのだと言う。警察から連絡を受けた息子のデイビッドが父を迎えに来る。明らかにうさん臭い手紙に息子はやめろと諭すも父は聞かない。家に連れ帰るが、父は再び徒歩でネブラスカに行こうとする。

母親は口やかましく文句を言う。デイビッドには兄がいるが、兄もそんな父にあきれている。止めても聞かない父にデイビットは諦めて付き合う事にする。仕事を休んで父を車に乗せる。100万ドルの話は嘘だとわかりきっているが、高齢者はしばし判断力が衰え、愚かな行為を犯すものである。下手に説得を試みてもダメなら納得するまでやらせるというのはいい方法である。こうして親子2人のドライブに出る。目的地はネブラスカ。

旅の一日目の夜。モーテルの部屋でウッドロウがつまずいて頭を怪我する。病院で診てもらうと、傷が深いため入院を勧められる。しかし、ウッドロウは金曜日までにリンカーン州まで行きたいと主張する。やむなくデイビッドは、道中にある伯父宅に週末までそこに滞在しようと提案する。月曜にはネブラスカに到着できると言うと、父は渋々納得する。そうしてデイビッドと父は伯父宅にやって来る。父とともに父の知人がマスターを勤めたバーに入る。

デイビッドは思うところがあり、トイレに行く際、100万ドルの話はするなと父にくぎを刺す。しかし、デイビッドがトイレから戻ってくると、父は旧知の知人たちと100万ドルの話で盛り上がっている。デイビッドが一生懸命否定するが、周りは信じない。驚く事にその話は伯父の家族にも知れわたる。途端に手のひらを返してにこやかに振る舞う伯父一家。現金と言えば現金。金に群がる亡者のようである。

狭い田舎の町のこと、ウッドロウの100万ドルの話はあっと言う間に町中に広まる。挙句に新聞社からからも使いを任された少年がウッドロウの写真を撮りに来る。頭を抱えたデイビッドは、記事を阻止するために新聞社を訪れる。経営者のペグに当選話は父の勘違いだと伝えると、ペグはすんなり理解する。驚く事に、ペグは若い頃父と付き合っていたとわかる。ペグの話では、父は朝鮮戦争から帰還した後、酒に溺れるようになったと言う。父の若かりし頃の写真を見たデイビッドは何かを思う。

100万ドル騒動は続く。すり寄って来る者もいれば、昔の恩を盾に露骨に金を要求して来る者もいる。それなりにウッドロウが迷惑をかけたこともあるとはいうものの、デイビッドは嫌気がさす。100万ドルなど嘘だといくら言っても信用しない。それは親戚すら同様で、デイビッドが100万ドルの話を否定しても、親戚の者は誰も本気にしない。それどころか貸した金を返してくれという。人間の浅ましさだろうか。

デイビッドは父と100万ドルを受け取りに向かう。結果はわかっているが、父が納得するまで付き合うデイビッドの優しさが、ドラマの裏でゆっくり流れる。父ウッドロウが100万ドルにこだわる理由も不甲斐ない自分なりに家族の事を考えてのもの。ラストで父と子2人で家路につくが、デイビッドの行動は心温まるもの。ウッドロウが得意満面の表情でトラックを運転する姿は何よりも心に響いてくる。普通はあきれて相手にしないかもしれない父親に最後まで付き合う息子。

金に群がる人々の滑稽さと対照的な息子の姿に老親を持つ自分もかくありたいと思わされる。予想外に心に優しく響いてきたのは、ウッドロウの姿が、この頃衰えを見せている私の父親に重なるからかもしれない。全編モノクロ映像と相まって心に優しい映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2025年03月14日

【湯道】My Cinema File 2982

湯道.jpg

2023年 日本
監督: 鈴木雅之
出演: 
生田斗真:三浦史朗
濱田岳:三浦悟朗
橋本環奈:秋山いづみ
小日向文世:横山正
天童よしみ:小林良子
クリス・ハート:竜太
戸田恵子:高橋瑛子
寺島進:高橋大作
厚切りジェイソン:アドリアン
笹野高史:堀井豊
吉行和子:堀井貴子
ウエンツ瑛士:DJFLOW
吉田鋼太郎:太田与一
窪田正孝:梶斎秋
夏木マリ:夙子
角野卓造:二之湯薫明
柄本明:風呂仙人

<MOVIE WALKER PRESS解説>
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小山薫堂が入浴行為を日本の文化の一つと捉え、提唱した「湯道」を基に、お風呂を通した人間模様を描いた群像劇。『おくりびと』の脚本を担当した小山が自らオリジナル脚本を手掛け、『HERO』シリーズの鈴木雅之がメガホンをとった。主人公の三浦史朗を「土竜の歌」シリーズの生田斗真、史朗の弟、悟朗を『ヒメアノ〜ル』の濱田岳、銭湯の看板娘を『キングダム』の橋本環奈がそれぞれ演じる。
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主人公は東京で建築家として活動する三浦史朗。独立したものの、仕事はどうやら厳しいらしく、机の上には督促状が山となしている。その中に実家からの手紙が入っており、史朗は父親が亡くなったことを知る。とある考えを抱いた史朗は、実家に帰省する。史朗の実家はまるきん温泉という銭湯を営んでおり、父亡き後は弟の悟朗が後を継いでいる。悟朗は住み込みのアルバイトの秋山いづみとふたりで経営を続けている。田舎の寂れた銭湯であり、史朗は売却して自分の相続分をもらい受けたいと考える。

そんな思惑を心に秘め、史朗は実家に滞在する。父親の葬儀にも帰郷しなかった兄に対し、悟朗もいい顔はしない。史朗はとりあえず銭湯の仕事を手伝うことにする。客は近所の住人であるが、風呂仙人と呼ばれる男がいて、湯を焚く廃材を持って来る代わりに無料で入浴している。一方、郵便局の横山は風呂に入る事が趣味であり、それが高じて「湯道」の道場に通っている。ここは茶道のように湯に入る作法を重視し、湯を嗜む事を目的としているようである。作法に従って入浴する様はなかなか面白い。

史朗は、悟朗にまるきん温泉を売却し、マンションを建てるアイディアを打ち明ける。たった一人でまるきん温泉を守ってきた悟朗はこれに激怒し、マンションの設計図をボイラーの火に投げ入れる。それをきっかけに兄弟は取っ組み合いの喧嘩になる。この時、散乱した廃材に引火してし、消火しようとした悟朗はやけどを負って入院する。まるきん温泉はやむなく臨時休業する。

翌日、ボイラー室に風呂仙人が来ており、彼は壁に書かれた文字を一心に見つめている。そして「自分の都合で商売するな」と呟く。その壁には父が残した「風呂で人を幸せにする」という文字と家族の名前が連ねてあった。亡き父の姿を思い出し、1人でまるきん温泉を続けてきた悟朗を思い、史朗はその日から風呂仙人に風呂の焚き方を教わり始める。その史朗の姿を見たいづみは、安堵していつも通りの開店準備を始める。しかし、やがて退院してきた悟朗は、そんな史朗の姿を見て、父の遺書を史朗に見せる。そこには、まるきん温泉は継がずに売却しろと書かれていた・・・

『湯道』とはなんぞやと思って観たが、田舎の寂れた銭湯を巡る兄弟の物語。しかし、そこにサイドストーリーとして茶道ならぬ湯道を説く家元が登場する。真面目ぶって湯に入る作法があって、恭しく入浴する様は滑稽である。また、源泉かけ流し至上主義の温泉評論家なる者が登場し、「温泉」と名打っているものの、通常湯のまるきん温泉を批判する。兄弟の物語を縦糸に、湯道を提唱する家元や温泉評論家の話を横糸に物語は進む。考えてみれば、自分も含めて日本人は風呂好きだと思うし、風呂にまつわる諸々に考えさせられることも多い。

史朗と悟朗は、山奥にある「くれない茶屋」の風呂に入る。そこは五右衛門風呂で、川から水を汲んできて沸かすため、無茶苦茶手間暇がかかる。それでも自然の中、湯船に浸かるのは気持ち良さそうである。まるきん温泉も昔ながらの銭湯で、昭和の空気が漂う。家庭風呂が普及した現在であっても、大浴場には家庭風呂にない良さがある。湯道も真面目にあってもおかしくはない(実際、提唱している人もいるらしいし)。温泉もいいし、銭湯もいいと思う。

昔ながらの銭湯を守る兄弟の姿に共感するし、金には代えられないものを見つけた史朗の姿にも心地よさを感じさせる。どんなに家庭風呂が普及したとしても、銭湯はなくなってほしくない日本の文化だと思う。観終わって大浴場に入りたくなる映画である・・・


評価:★★★☆☆








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2025年02月22日

【52ヘルツのクジラたち】My Cinema File 2972

52ヘルツのクジラたち.jpg
 
2024年 日本
監督: 成島出
原作: 町田そのこ
出演: 
杉咲花:三島貴瑚
志尊淳:岡田安吾
宮沢氷魚:新名主税
小野花梨:牧岡美晴
桑名桃李:少年
金子大地:村中真帆
西野七瀬:品城琴美
真飛聖:三島由紀
池谷のぶえ:藤江
余貴美子:岡田典子
倍賞美津子:村中サチエ

<映画.com>
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2021年本屋大賞を受賞した町田そのこの同名ベストセラー小説を、杉咲花主演で映画化したヒューマンドラマ。
自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性・三島貴瑚。ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年と出会う。貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれたアンさんとの日々を思い起こしていく。
杉咲が演じる貴瑚を救おうとするアンさんこと岡田安吾を志尊淳、貴瑚の初めての恋人となる上司・新名主税を宮沢氷魚、貴瑚の親友・牧岡美晴を小野花梨、「ムシ」と呼ばれる少年を映画初出演の桑名桃李が演じる。「八日目の蝉」「銀河鉄道の父」の成島出監督がメガホンをとり、「四月は君の嘘」「ロストケア」の龍居由佳里が脚本を担当。タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く、世界で1頭だけの孤独なクジラのこと。
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大分の海沿いの町に1人の女性が越してくる。そんな田舎に女性が1人となると、何か「訳アリ」かと思ってしまう。事実、長く使われていなかったらしいその家の修繕に来た地元の業者の若者は、「都会で風俗嬢をしていたという噂は本当ですか?」と訪ねて先輩に叩かれる。問われた女性貴瑚(キコ)も笑うしかない。貴瑚にとって、その家は祖母がかつて住んでいた家。祖母もまた芸者をしていて、地元の夫人たちに悪く言われていた過去がある。

1人でいる貴瑚は時折「アンさん」と心の中で語りかける。やはり過去に何かあったようである。そして港で1人の少年と出会う。髪が長く、まるで少女のような少年。そして貴瑚には腹に傷跡があり、ちょっとした拍子に激痛が走る。そして物語は、貴瑚の過去へと遡る。幼少期から母親からの虐待を受ける。さらに高校を卒業して以来、母親の再婚相手の介護に明け暮れる。再婚相手も介護という年齢だったのかよくわからないが、付きっきりの介護は若い貴瑚にとっては虐待の延長に等しい。

そして介護に明け暮れる日々を送るが、ある日義父は誤嚥を起こし、肺炎も加わり救急搬送される。この事態に母は貴瑚を罵倒する。身も心も疲弊した貴瑚は、ふらりと病院を出て街を彷徨い車に轢かれそうになる。そこに偶然通りかかったのが、高校時代の親友・牧岡美晴と彼女の同僚だった岡田安吾(アンさん)であった。事情を聞いたアンさんは、貴瑚を救うために奔走する。義父の介護施設の資料を集め、貴瑚の母の元に向かう。余計な口出しをなじる母に構わずアンは貴瑚を家から連れ出す。

貴瑚は、しばらくの間、美晴の友人である美音子とルームシェアする。美音子は貴瑚に「52ヘルツのクジラの声」を聴かせる。その声に心を落ち着かせた貴瑚は、それ以降52ヘルツのクジラの声を聴くようになる。そうした経緯から、いつしかアンに思いを寄せる貴瑚であるが、アンはそんな貴瑚の気持ちに気づきながらも貴瑚の気持ちに応えようとはしない。やがて貴瑚はある会社に就職するが、そこでその会社の跡取り息子であり、専務の新名主税(にいなちから)に見初められる。

物語はそんな貴瑚の過去と現在の物語とを描いていく。港で出会った少年もまた実の母親から虐待を受けている。自らの体験もあり少年に寄り添う貴瑚。それにしても、子供を持つ親として、どうして虐待なんかできるのだろうかと思ってしまう。フィクションであるのはわかっていても虐待を受ける2人の子供の様子に心が痛む。タイトルにある“52ヘルツのクジラ”とは、他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴くクジラのこと。世界に1頭だけしかいない52ヘルツのクジラの声は誰にも届かないとされる。虐待を受ける子供たちを52ヘルツのクジラにたとえたストーリーは胸を打つものがある。

貴瑚と少年がその後、どんな人生を歩んでいくのか。その幸せを心から願いたくなる映画である・・・


評価:★★★☆☆








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