2025年11月18日

【正欲】My Cinema File 3088

正欲.jpg
 
2023年 日本
監督: 岸善幸
原作: 朝井リョウ
出演: 
稲垣吾郎:寺井啓喜
新垣結衣:桐生夏月
磯村勇斗:佐々木佳道
佐藤寛太:諸橋大也
東野絢香:神戸八重子
山田真歩:寺井由美
坂東希:高見優芽
宇野祥平:越川秀己
渡辺大知:西山修
徳永えり:那須沙保里
平岩瀬亮:矢田部陽
山本浩司:夏月と佳道の中学時代の担任教師
鈴木康介:右近一将

<シネマトゥデイ>
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『桐島、部活やめるってよ』の原作などで知られる朝井リョウの柴田錬三郎賞受賞作を映画化。息子が不登校になった検察官、ある秘密を抱えた販売員、心を閉ざして生活する大学生など、一見無関係な人々の人生が、ある事件をきっかけに交差し始める。『あゝ、荒野』シリーズなどの岸善幸が監督、同じく港岳彦が脚本を担当。『窓辺にて』などの稲垣吾郎、『くちびるに歌を』などの新垣結衣、『ビリーバーズ』などの磯村勇斗、『軍艦少年』などの佐藤寛太らが出演する。
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主たる登場人物は3人。最初に登場するのは会社員の佐々木佳道。その日も社員食堂で1人、昼食を取っている。飲みに行こうと誘われるも、断る佳通。その姿からは積極的に他人と交わりたくないと思っているように見える。もう1人は広島にあるショッピングモールで働く桐生夏月。接客はそつなくこなしているが、やはり人との関わりは少なく、その日も1人回転ずしで夕食を済ます。家に帰るとベットの上で寝ころび、やがてどっぷりと快楽の水に浸る。

最後の1人は横浜地方検察庁に勤める検事・寺井啓喜。妻と息子の3人家族であるが、最近息子が不登校になってしまっている。息子は、同じように不登校のユーチューバーの動画を見て、今は行きたくない学校へ行かないという選択肢があるとして、自分も動画配信をすると言い出す。しかし、検事といういわばエリートだからだろう、学校へ行くという普通のことが出来ないということが啓喜には理解できない。必然的に息子を理解しようとする妻とも衝突する。

ある日、啓喜の所に犯罪を犯した者が連れて来られる。それは万引き常習犯の女性で、取調が終わると、啓喜に書記官の越川はある事件の記事を見せる。その記事は、水道の蛇口を盗みを水を出しっぱなしにて逮捕されたフジワラサトルという人物のもの。「水を出しっぱなしにするのが嬉しかった」と供述したとするフジワラに対し、越川は水に性的興奮を得るという人物だったのではないかと言う。

そんな越川の意見を頭から否定する啓喜。エリートの啓喜には理解できないものなのだろう。そして啓喜は息子にも「僕のやっていることを理解して欲しい」と言われてしまう。場面変わってとある大学。学生の神戸八重子は、極度の男性恐怖症を抱えている。そんな八重子は学園祭に向けて、ダイバーシティフェスの企画、開催に向けて取り組んでいる。その一環でダンスサークルに出演を依頼した八重子は、そこで感情をぶつけるようなダンスを踊る諸橋大也と出会う。そしてなぜか大也に触れられても八重子は大丈夫だということがわかる。

夏月の職場に偶然、同級生の西山が夫婦で顔を出す。そして同級生の結婚式に呼ばれるが、気乗りはしないものの、佐々木佳道も出席するとわかり参加することにする。その時蘇る中学の頃の記憶。それは気になった新聞記事を発表する時間。同級生が水を出しっぱなしにして逮捕されたフジワラサトルの記事を読み上げ、クラス中が爆笑しているが、夏月は笑わない。そして担任に校舎の脇の古い蛇口を工事するから近付かないようにと言われるが、自分の欲求に従い水道に向かう。

そこにはすでに、同じクラスの佐々木佳道がいる。ほとんど話したこともない2人だったが、蛇口を壊して吹き出した水しぶきの中、びしょ濡れになりながら言葉もなく互いを理解したのである。そんな佳道と結婚式で再会を果たした夏月だが、自分には関心を見せず、あろうことか同級生の女性と食事に行き、そして家に連れていくのを見かけてしまう。電気の消えた佳道の家のガラスを割って逃げる夏月。そして大晦日の夜、車を運転していた夏月は、T字路の看板をめがけてアクセルを踏む・・・

タイトルの「正欲」とはいったいどういう意味なのか。疑問に思いつつ映画の世界に入っていく。現れたのは普通と違い、水に関心を持つ主人公の2人。中学生の頃、水道から噴き出す水を浴びてびしょびしょになりながら互いに共感しあった夏月と佳道。そして不登校の息子の気持ちが理解できない寺井啓喜。男性恐怖症の八重子、そして実はやはり水に興奮する大也。どこか普通の感覚と違う、そして普通の感覚過ぎて違うものが理解できない人々。だから、「正しい欲」なのだろうか。

誰でも多かれ少なかれ、「フェチ」と言えるものはあるのかもしれない。みんなが同じ趣味という事もないだろうし、人と違っているのは考えてみれば当たり前なのであるが、みんな同じと考えてしまう。夏月の友人はしばしば夏月の職場にやってくる。そしてその友人にとっては、結婚して子供を育てるのが普通で、いつまでも独り身で恋人もいない夏月に世話を焼こうとする。しかし、夏月にとってはそれはうっとうしいことでしかない。後半、互いに同じ感覚で理解しあった夏月と佳道。そこに普通の感覚の啓喜が関わってくる。

自分の理解できないものを「社会のバグ」と言い放つ啓喜に「水フェチ」など理解できるはずもない。両者の感覚がわかるだけに、そのわかりあえなさがわかり過ぎてしまう。実に深い物語である。原作小説もあるようだからこれは是非読んでみたいと思わされる。秘めて満足できるならフェチも大いにかまわないだろう。小児愛などの危ないフェチはなおさらである。危ないフェチは別として、「人の趣味」にとやかく言うものではないことは大事だと改めて思う。理解されない者同士が出会って理解し合える幸せも、このドラマでは一瞬で壊れてしまう。

なかなか深い物語。原作も読んでみたいと思わされる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年11月08日

【アンダー・ザ・シルバーレイク】My Cinema File 3085

アンダー・ザ・シルバーレイク.jpg

原題: Under the Silver Lake
2018年 アメリカ
監督: デビッド・ロバート・ミッチェル
出演: 
アンドリュー・ガーフィールド:サム
ライリー・キーオ:サラ
トファー・グレイス:サムの友達
ゾーシャ・マメット:トロイ
キャリー・ヘルナンデス:ミリセント・セヴェンス
パトリック・フィッシュラー:コミック・マン
グレイス・バン・パタン:バルーン・ガール
ジミ・シンプソン:アレン

<映画.com>
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「イット・フォローズ」で世界的に注目を集めたデビッド・ロバート・ミッチェル監督が、『ハクソー・リッジ』 『沈黙 サイレンス』のアンドリュー・ガーフィールド主演で描いたサスペンススリラー。セレブやアーティストたちが暮らすロサンゼルスの街シルバーレイク。ゲームや都市伝説を愛するオタク青年サムは、隣に住む美女サラに恋をするが、彼女は突然失踪してしまう。サラの行方を捜すうちに、いつしかサムは街の裏側に潜む陰謀に巻き込まれていく。「私たちは誰かに操られているのではないか」という現代人の恐れや好奇心を、幻想的な映像と斬新なアイデアで描き出す。サラ役に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のライリー・キーオ。
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舞台はロサンゼルスの東部シルバーレイク。主人公のサムは無職で収入がなく、それでも焦る様子もなくダラダラした毎日を送っている。大家からは家賃滞納を責められ、数日内に払わないと退去になってしまう。にもかかわらず、職探しをするのでもなく、ベランダに出ては隣人を双眼鏡で眺めたりしている。特にオウムを飼っている中年の女性はいつも半裸で胸を露にしており、サムの覗きの格好のターゲットである。

そんなある日、アパートのプールに犬を連れた美女がやってくる。当然ながらサムは興味を覚える。時を同じくして、テレビでは富豪のジェファソン・セヴンスが失踪したというニュースが流れている。サムは“シルバーレイクの下に”というタイトルの同人誌を愛読しており、その内容は、シルバーレイクで起きる殺人や失踪事件の真相について、作者が独自の推論を展開するというもの。サムは作者と話したいと本屋の店員に取り次ぎを依頼する。

プールにやってきた美女・サラがすぐそばに越してきたと知り、積極的に動くサム。サラの犬をだしにして部屋に招かれて良いムードになる。無職のくせに度胸があって手際が良い。しかし、そこへ2人の女と男がやってくる。サラにまた明日来てほしいと言われ、その日は仕方なく帰る。ところが翌朝、再びサラを訪ねるが、部屋の中はからっぽであり、大家が言うには昨晩、早急に引っ越ししていったと説明される。藪蛇でサムは滞納している家賃を払わなければ出て行ってもらうと警告を受けてしまう。

経緯からして納得がいかないサムは、彼女の部屋に忍び込むが、クローゼットにガラクタが残されているのみ。しかし、しばらくすると1人の女が現れ、残されていたガラクタを持っていく。藁をもすがる思いのサムは、女のあとを追いかけていく。女はガラクタを昨夜現れた男に渡す。そして続いて女は“イエスとドラキュラの花嫁たち”というバンドのライブ会場へと行く。サムは女に接触し、サラの行き先を尋ねるが、女に蹴り飛ばされてしまう。そんな時、ジェファソン・セヴンスが遺体で発見されたとニュースで報じられる。車ごと焼死しており、同乗していた女性の遺体もあり、そこにサラが被っていた帽子があるのを見てサムは愕然とする・・・

どんな映画か事前に先入観を排して観ているから、いったいどんな物語なのかわからないまま観ていく。タイトルの“シルバーレイクの下に”はとあるマイナー作家の同人誌。そこには、誰もが知らないところで陰謀が蠢いているというもの。サムがサラの部屋にあった不思議な記号の話をすると、その作家は、それは暗号で“静かにしてろ”という意味だと教える。さらにサムは暗号ガイドまでもらう。

その陰謀というのは、平たく言えばカルト教団のようなもの。よくよく知れば人畜無害であり、危険性はない。サムにとってはせっかく仲良くなりかけた美女との関係を進展させたかっただけなのであろうが、不思議なカルトや陰謀論を吹聴する作家が登場して主人公が不思議な世界に巻き込まれるという内容は、どうにも陳腐。さらに内容もよくわからない。『夢の涯てまでも ディレクターズカット』(My Cinema File 3064)も近未来の不思議な話であったが、この映画はSFではないが、どうにも似たようなテイストである。

こうしたテイストの話が好きな人であれば問題はないが、個人的には好きではない。主演のアンドリュー・ガーフィールドもいい映画に出ているので躊躇なく観ることにしたが、「出演作に外れはない」というところまではいかない。ラストに至る展開も理解できない芸術作品を見せられているような気分になる。どうにもこうにもこういう「芸術作品」は苦手感が否めない。唯一理解できたのはラストで部屋を追い出されることになったサムの行動だろうか。陰謀論と無縁にうまく流されながら生きるサムの姿にやるじゃないかとニヤリとさせられた映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年11月04日

【市子】My Cinema File 3084

市子.jpg
 
2023年 日本
監督: 戸田彬弘
出演: 
杉咲花:川辺市子
若葉竜也:長谷川義則
森永悠希:北秀和
倉悠貴:田中宗介
中田青渚:吉田キキ
石川瑠華:北見冬子
大浦千佳:山本さつき
渡辺大知:小泉雅雄
宇野祥平:後藤修治
中村ゆり:川辺なつみ

<映画.com>
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「僕たちは変わらない朝を迎える」「名前」などの戸田彬弘監督が、自身の主宰する劇団チーズtheaterの旗揚げ公演として上演した舞台「川辺市子のために」を、杉咲花を主演に迎えて映画化した人間ドラマ。
川辺市子は3年間一緒に暮らしてきた恋人・長谷川義則からプロポーズを受けるが、その翌日にこつ然と姿を消してしまう。途方に暮れる長谷川の前に、市子を捜しているという刑事・後藤が現れ、彼女について信じがたい話を告げる。市子の行方を追う長谷川は、昔の友人や幼なじみ、高校時代の同級生など彼女と関わりのあった人々から話を聞くうちに、かつて市子が違う名前を名乗っていたことを知る。やがて長谷川は部屋の中で1枚の写真を発見し、その裏に書かれていた住所を訪れるが……。
過酷な境遇に翻弄されて生きてきた市子を杉咲が熱演し、彼女の行方を追う恋人・長谷川を「街の上で」「愛にイナズマ」の若葉竜也が演じる。
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2015年8月。とあるアパート。恋人の長谷川と慎ましくも幸せな日々を送る市子は、長谷川からプロポーズを受ける。嬉し涙を流して喜ぶ市子。しかしその翌日、市子は突如失踪する。長谷川が帰宅する前に慌てて窓から逃げ出す有様で、荷物を詰めた鞄も持ち出せず、着の身着のままでいずこかへと走って行く。失踪の理由に心当たりはなく、途方に暮れる長谷川。それは観る者も同じ。一体何があったのだろうか。大いなる謎を秘めたイントロである。

警察に捜索願を出したのであろう。アパートを訪ねてきた刑事から長谷川は川辺市子という女性は存在しないと告げられる。テレビでは生駒山で身元不明の白骨化した若い女性の遺体が発見されたことを報じている。これが実は物語に後ほど絡んでくる。諦めきれない長谷川は市子の行方を追う。と同時に市子の過去が並行して描かれていく。それは市子が小学生時代の東大阪から始まる。

市子の母はシングルマザーの川辺なつみ。スナックに勤めながら市子とその妹のふたりの娘と団地で暮らしている。実は長女の市子には戸籍がない。DV夫との離婚後まもなく新しいパートナーの子を妊娠したため、「離婚後300日問題」で出生届が出せなかったと説明される。さらに
次女の月子は筋ジストロフィーという難病にかかっている。月子の担当のソーシャルワーカー小泉はなつみと深い関係になり、川辺家に入り浸るようになっている。

市子の幼馴染を訪ねる長谷川。そこで聞かされるのは小学生時代の市子が“月子”と名乗っていた事。そして高校生となった市子は同級生と付き合う。しかし、同じ同級生の北秀和は市子に好意を持ち、市子と付き合っている同級生の反発を買って虐められる。それでも北の市子に対する熱烈な想いは消えず、いつしかストーカーとなっていく。そしてある日、市子の家までついて行って窓から室内を覗き込んだ北は、そこでとんでもないものを目撃する・・・

冒頭で同棲相手からプロポーズされ、涙を流して喜んでいた主人公の女性がその相手から着の身着のままで逃げ出してしまう。いったいなぜ、という疑問とともに物語は始まる。物語は主人公市子の過去と現在が並行して描かれる。プロポーズした相手が行方をくらませたら当然、探すだろう。市子を探す長谷川は市子にかかわる様々な人に会い、話を聞くことによって次第に隠されていた市子の事情を知っていく。それは無戸籍という問題。

戸籍がなければ国民として得られる権利も得られない。それは学校教育から始まり、医療もあり、そして当然結婚にも影響する。しかし、市子は学校に通っている。そこにはとんでもないからくりが隠されている。それは難病に罹って酸素吸入、痰の吸引、排泄の介助など24時間介護が必要な妹月子の存在。母親のなつみは生活のために働き、介護はすべて市子に重くのしかかる。生活にゆとりはなく、夏の暑い日でもエアコンはない。そんなある日、なつみが仕事に行っている間に、市子は月子の酸素吸入器を止めてしまう。帰宅したなつみはそれを知っても何も言わない。なんと切ない過去であろうか。

高校生になった市子にも不遇はついて回る。体が大人になった市子になつみの交際相手の小泉が迫る。そうした中で起きる事件。そしてそれを目撃したことから、同級生の北との関係ができる。そこから始まる市子の逃亡人生。普通の家庭に生まれていたら、市子も普通に育っていただろう。家庭環境というのは、子供にとってかくも大きな存在。一時はパティシエを目指す友人と将来一緒にケーキ屋を開こうという夢を持つ市子だが、それすら無情にも消えていく。ラストは少し解釈が難しかった。そこは観る者に委ねられているのだろうか。

一見、謎に包まれて始まった物語は、市子という不幸な環境から必死に浮かび上がろうとしてもがく女性の姿を描き、無戸籍という起こりうる問題を浮かび上がらせる。すべて事情を話せば長谷川が一緒に解決に動いてくれたのではないかと男としては思うが、それが目の前で壊れることの方が市子にとっては恐ろしかったのだろう。その後、市子はどうなったのだろうか。ラストの真相にもよるが、自然と想像してみた映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2025年10月15日

【評決のとき】My Cinema File 3075

評決のとき.jpg

原題: A Time to Kill
1996年 アメリカ
監督: ジョエル・シュマッカー
原作: ジョン・グリシャム
出演: 
マシュー・マコノヒー:ジェイク・タイラー・ブリガンス
サンドラ・ブロック:エレン・ロアーク
サミュエル・L・ジャクソン:カール・リー・ヘイリー
ケヴィン・スペイシー:ルーファス・バックリー
ドナルド・サザーランド:ルシアン・ウィルバンクス
オリヴァー・プラット:ハリー・レックス・ボナー

<映画.com>
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人種差別問題が絡んだ事件の裁判を通して、正義と真実の問題に取り組む人々の姿を描いたサスペンス・タッチのヒューマン・ドラマの感動作。「ペリカン文書」「依頼人」などのベストセラー作家、ジョン・グリシャムが新米弁護士時代の体験に基づく処女小説(邦訳・新潮文庫)を、自ら製作も兼ねて映画化。これまでのグリシャム映画と同様、法廷サスペンスのスタイルを取りながらも、重いテーマをエンターテインメントと両立させる手腕が見事。監督には原作者自身に指名によって「依頼人」のジョエル・シュマッカーが再登板し、脚本も同作のアキヴァ・ゴールズマン。製作は『ヒート』のアーノン・ミルチャン、「依頼人」のマイケル・ネイサンソン、グリシャムの共同。撮影は「ダイ・ハード3」のピーター・メンジーズ・ジュニア、音楽は「バットマン・フォーエヴァー」のエリオット・ゴールデンサル、美術は「フォーリング・ダウン」のラリー・フルトン、編集は「ザ・ファーム 法律事務所」のウィリアム・スタインカンプ、衣裳は「依頼人」のイングリット・フェリン。主演には「ボーイズ・オン・ザ・サイド」の新星マシュー・マコノヒーが大抜擢され、「ダイ・ハード3」のサミュエル・L・ジャクソン、「恋する泥棒」のサンドラ・ブロック、『ユージュアル・サスペクツ』「セブン」のケヴィン・スペイシー、「アウトブレイク」のドナルド・サザーランド、「三銃士(1993)」のキーファー・サザーランドとオリヴァー・プラット、『ヒート』のアシュレイ・ジャッドら多彩な顔ぶれも見もの。
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ジョン・グリシャムの原作も読んでいるが、この映画もかつて観ている。原作も映画も印象深いものであり、時を経て再度の鑑賞に至るもの。物語はミシシッピ州のクラントンで始まる。ガラの悪い2人の白人がビールを飲みながら車で移動している。一方、貧しい村の商店で買い物を終えた少女トーニャは歩いて家に帰るところである。そこに白人2人組の車が通りかかる。男たちは車を止めるとトーニャに襲い掛かる。南部といえばいまだ人種差別が根強く、また白人といえどもみなが裕福なわけではない。白人の2人はおそらく学があるわけでもなく、失業中でもあったのだろう。

2人組にレイプされ、激しい暴行を受けたトーニャは病院に運び込まれる。知らせを受けた父親のカール・リーは、そこで変わり果てた姿になったトーニャと対面し、激しいショックを受ける。トーニャは一命を取り留めたものの、医師の診断では将来子供を産めない体になってしまったとのこと。やがて犯人の2人組はすぐに逮捕される。カールは以前兄の弁護をしたことのあるジェイクの元へ足を運び、2人の量刑に関して話を聞く。しかし、ジェイクによれば人種差別が根強いこの地域では犯人の2人は無罪になる可能性があると聞かされる。

カールはその後、ジェイクに犯人殺害をほのめかす電話をする。ジェイクはカールを止めるも、心情がわかるだけに複雑である。そしていよいよ裁判開始の日、警察官ルーニーに連れられて犯人の白人2人が裁判所にやってくる。隠れて密かに機を伺っていたカールは、2人に向けて発砲し、これを殺害する。その際、ルーニーも流れ弾に当たって右足を負傷し、後に切断する羽目になる。カールは即刻逮捕され、殺人罪と傷害罪で起訴される。そしてカールはジェイクに弁護を依頼する。

ジェイクは成り行き上、弁護を引き受けるが、荷の重い弁護であり、恩師のルシアンを訪ねて相談する。人種差別が根強いクラントンでの裁判では陪審員に占める白人の割合が高くなることが予想され、極刑の可能性が高い。そこで裁判初日にすぐさま裁判所の変更を裁判長に申し入れるも却下されてしまう。情勢はますます不利になるが、その時、ジェイクは裁判地変更が許可された判例の資料を受け取る。書類をまとめて渡したのは法学生のエレン。エレンは死刑制度に反対であり、父親は有名な弁護士。エレンはジェイクに裁判の手伝いを申し入れ、ジェイクはこれを受け入れる。

こうして始まったカールの裁判。予想通り陪審員は白人が多数を占め、圧倒的に不利。しかもジェイクは貧乏弁護士。助手は法学生のエレンのみという陣営。一方、ルーファス検事は極刑を求める立場で強気である。また、射殺された犯人の1人の弟であるフレディは、黒人であるカールを恨みKKKに近づく。そして、なんとフレディはクラントンでのKKK支部長を任され、ジェイクやエレンに嫌がらせを始める。それはジェイクの元で働いていた女性エセルの家族にも及び、ジェイクの家は放火されるに至る。

ジェイクは貧乏弁護士で、重大な裁判の弁護を引き受けるが、カールも黒人労働者であり金など持っていない。経費の支払いにも事欠くジェイクは、困難な裁判に勝ってもとても報酬は期待できない。さらに人種差別が根強い地域では初めからカールを有罪と決めてかかる陪審員もいる。家族を避難させたとは言え、身の危険もある裁判に臨むジェイク。そんな裁判が物語の主軸になる。日本人は基本的に判官びいきのところがあり、圧倒的に不利なジェイクに肩入れして観てしまう。

対峙するルーファス検事だが、人種差別意識は表面上は見せないが、純粋に検事としては腕がいいのだろう、ジェイクを追い込んでいく。ジェイクの味方は、法学生のエレンと恩師と同僚、そして黒人教会を中心としたカールの住んでいる地域の黒人たちだけ。裁判の展開は息詰まるもの。ルーファス検事の追及も厳しく、裁判はジェイクたちに不利なまま最終弁論を迎える。アメリカの陪審員裁判はあくまでも陪審員が有罪か無罪かを決める。そこが映画的にも面白さがある。すなわち、最終弁論でひっくり返すことも可能なのである。

クライマックスもしたがって最終弁論となる。不利な展開の裁判。陪審員も多くが有罪に傾いている中、ジェイクは最終弁論の弁舌にすべてをかける。それは陪審員1人1人の心に訴えかけるもの。観ている方もいつの間にかジェイクの弁論に引き込まれていく。見方を変えれば同じものでも違う姿に見えてくる。それは確かにその通りであるが、得てして人はそれに気が付かない。ラストでカールの娘トーニャとジェイクの娘が一緒に遊ぶ。それはクライマックスでまさにジェイクが語ったこと。

すべてを賭けてカールの弁護にあたったジェイク。その信念と行動に心を打たれる。再鑑賞だが面白さは色褪せない。原作の再読もしてみたいと思う。まさに「観て良し、読んで良し」の一作である・・・


評価:★★★☆☆








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2025年09月15日

【パリ、テキサス】My Cinema File 3063

パリ、テキサス.jpg

原題: Paris, Texas
1984年 西ドイツ・フランス
監督: ヴィム・ヴェンダース
出演: 
ハリー・ディーン・スタントン:トラヴィス
ナスターシャ・キンスキー:ジェーン
ハンター・カーソン:ハンター
ディーン・ストックウェル:ウォルト
オーロール・クレマン:アン

<映画.com>
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ヴィム・ヴェンダース監督が、テキサスの荒野を放浪する男の妻子との再会と別れを、ライ・クーダーの哀愁漂う音楽に乗せて描き、1984年・第37回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた傑作ロードムービー。
荒野をひとりさまよっていた男が、ガソリンスタンドで気絶した。記憶を失っている男の持ち物を手がかりに連絡を受けたウォルトは、男が4年前に失踪した兄トラヴィスだと確認する。トラヴィスはテキサス州の町パリに所有する土地を目指していた。徐々に記憶を取り戻したトラヴィスは、4年ぶりに再会した幼い息子とともに、妻を探す旅に出る。
主人公トラヴィスをハリー・ディーン・スタントン、妻をナスターシャ・キンスキーがそれぞれ好演。俳優サム・シェパードと「ブレスレス」のL・M・キット・カーソンが脚本を手がけた。
1985年に日本初公開。2021年11月、特集上映「ヴィム・ヴェンダース レトロスペクティブ ROAD MOVIES 夢の涯てまでも」で2Kレストア版で公開。2025年1月、「12ヶ月のシネマリレー 2024-2025」にて4Kレストア版で公開。
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この映画は一度観た映画であるが、主演のナスターシャ・キンスキーのイメージしかなく、もう一度観てみたいと鑑賞に至る。冒頭、テキサスの荒涼たる砂漠を1人の男が歩いている。持っていた水も尽きたところで1軒の酒場にたどり着く。そこで水を飲んだ男は力尽きて気絶する。病院に運ばれて医者の診察を受けるが、男は口をきかない。医師が持ち物を探すとかろうじて電話番号がわかり、そこへ連絡をしたところ対応したのはウォルトというこの男の弟。そこで本人の名前はトラヴィスで、4年前に妻子を置いて蒸発し、今まで消息不明だったことがわかる。

ウォルトは突然の連絡にもかかわらず、すぐにテキサス州の病院へトラヴィスを迎えに行く。しかし、わざわざ弟が迎えに来たにもかかわらず、トラヴィスは何も話さない。その態度に観ているこちらがイライラさせられる。トラヴィスの息子のハンターはウォルト夫婦が育てている。ウォルトはトラヴィスを自宅に連れ帰ろうとする。しかし、ウォルトが気を許すとトラヴィスはいずこかへ行こうとする。ウォルトは気を抜けない。トラヴィスはどこへ行こうとしているのか。

押し黙っていたトラヴィスだが、ウォルトと移動するうちにようやく口をきくようになる。ウォルトに見せた1枚の写真。それはテキサス州のパリという町にある空き地の写真で、そこはトラヴィスが購入した土地であった。映画のタイトルであるが、ここで「パリ」とはフランスの首都ではなく、テキサスにある同名の土地の名であるとわかる。いまになってわかる意外な真実だと思うが、当初観た時にわかったはずだから単に忘れていただけだろう。

ウォルトの自宅はロサンゼルスにある。着いたトラヴィスはそこで7歳になったハンターと再会する。実の父子だが、離れていたこともあり、会話はぎこちない。やがてトラヴィスは、妻のジェーンがハンターのために毎月生活費を送っていることを知らされる。振り込みはヒューストンの銀行で毎月決まった日に行われている。そこでトラヴィスはジェーンを探しにゆくことを決意する。それを知ったハンターも一緒に行きたいと告げる。急速に親子関係を修復していくかのごとき2人。かくして2人はヒューストンへと車を走らせる。

探すと言っても、実態は張り込み。振り込みが行われるであろう同日、銀行の前で別れて見張る。するとはたして、銀行からジェーンらしい女性が出てくる。見つけたのはハンター。慌ててジェーンの後をつけると、とあるビルに入っていく。そのビルを見てトラヴィスはハンターに車の中で待つように伝える。実はそこは「のぞき部屋」と呼ばれる風俗店だったのである。中に入ってジェーンを探すトラヴィス。しかし、見当たらない。そこでそれらしき容姿を伝えて客として部屋に入る。入ってきたのは、狙い通りジェーンであった・・・

40年前の作品であり、観た記憶だけはしっかり残っていたが、内容は忘却の彼方。ほとんど初めて観る映画という感覚である。ナスターシャ・キンスキーの出演という印象だけは強く残っていたが、そのナスターシャ・キンスキーも『テス』の方がより強い印象が残っているくらいである。内容は、崩壊した家族が再生へ向けて動いていくもの。どんな理由で崩壊したのかよくわからない。子供は弟夫婦が引き取り、母親は我が子を思いつつ、遠く離れた地で風俗店で働いて仕送りをしている。

それぞれに秘められた思いがある。翻ってみれば、冒頭でいずこかへ向かって黙々と歩いていたトラヴィス。そこにあるのは家族への思い。風俗店で働きながら仕送りをしていたジェーンもまた息子への思いがある。マジックミラー越しにジェーンと再会したトラヴィスの思いも伝わってくる。子はかすがいというが、それはここでも同じ。ラストでの再会が何とも言えない。まだアメリカにもこういう物語があったんだなと思わせてくれる40年前の作品である・・・


評価:★★☆☆☆








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