2013年07月09日

八日目の蝉

八日目の蝉.jpg

2011年 日本
監督: 成島出
出演: 
井上真央/恵理菜
永作博美/野々宮希和子
小池栄子/千草
森口瑤子/秋山恵津子
田中哲司/秋山丈博
劇団ひとり/岸田
風吹ジュン/沢田昌江

<Movie Walker 解説>
********************************************************************************************************
角田光代のベストセラー小説を映像化した深遠な人間ドラマ。
主人公は、不倫相手の子供を誘拐し4年間育てた希和子と、彼女に育てられた過去を引きずったまま大人になった恵理菜。
“母性”をテーマに、それぞれが抱える複雑な思いを、時に繊細に、時に力強く描出。
変化を遂げていく女たちの姿に引き込まれ、最後まで目が離せない。
********************************************************************************************************

冒頭、いきなり裁判のシーン。
まだ幼い我が子を誘拐され、一番かわいい盛りの4年間を奪われた母親が、犯人に憎しみをぶつける。
一方、被告となった女、希和子は静かに述べる。
「四年間、子育ての喜びを味わわせてもらったことを感謝します」と……。
この映画、何と深いシーンから始るのだろう。

被害者夫婦の間に生まれた生後6カ月の恵理菜を誘拐したのは、被害者の夫である丈博と不倫関係にあった野々宮希和子(永作博美)。
希和子は、妻帯者である丈博の子供を身ごもるが、結局中絶する。
しかもその後遺症で子供が産めない体になってしまう。

さらに希和子は、丈博から恵津子との子供のことを知らさる。
追いうちをかけるように恵津子から、子供を自慢されなじられてしまう。
思い余った希和子は、夫婦の留守宅に忍び込みこむと、一人寝ていた赤ん坊を抱かかえて雨の中を飛び出していく。
希和子は子供を薫と名づけ、人目を避け、各地を転々としながら二人で暮らす。

一方事件から月日が経ち、誘拐された赤ん坊=恵理菜(井上真央)は21歳の大学生となっている。
4歳で初めて実の両親に会い、私たちこそが正真正銘の家族だ、と言われても実感が持てず、ギクシャクした家庭に育ち、今は一人下宿生活を送っている。

知り合った妻帯者の岸田孝史(劇団ひとり)を好きになるが、やがて岸田の子供を身籠る。
そんな頃、恵理菜のバイト先にルポライターの安藤千草(小池栄子)が訪ねてくる。
千草はあの誘拐事件を本にしたいという。
そして二人で、かつて希和子と逃亡生活を送った地を訪ねて歩く…。

卵から孵った雛は、最初に目にしたものを親だと思いこむという。
この「刷り込み」という現象は、何も雛だけの話ではないかもしれない。
物心ついた時から、自分を慈しんで育ててくれる人を親だと思って懐くのは人間誰しも同じである。
そして、自分が本当にその親の子かどうかなどわかるはずもない。

映画は思い余って愛人の赤ん坊を誘拐してしまった女と、その女に4年間育てられた上で、実の親子に引き取られた娘の物語。
二人の女性の姿が、時を越えて同時並行で描かれる。
事件を起こした希和子も、被害者の妻も、当人である恵里菜も、幸せからは遠いところにいる。

4年の時を経て帰ってきた我が子であるが、4歳の子供にそんな事情などわかるはずもなく、ただ愛しいママと離れ離れになった悲しみがあるだけ。
実の母に懐かず、またそんな我が子に半狂乱になる母親。
見守る父親もすべての原因を作った諸悪の根源となれば、慰めの言葉も慰めにはならない。
そんな様子が、画面では描かれずとも自ずと脳裏に浮かんでくる。

恵里菜を取材する千草も、実は心に闇を抱えている。
恵里菜とは過去に意外な接点もある。
登場する女性たちに共通するのは「哀しみ」。
それぞれ種類は異なるが、その哀しみが観る者の心に染みいる。

犯罪者を悪人と言い切れないところが、「悪人」に相通じるところがある。
真の悪人は、実は男なのかもしれない。
原作も秀逸なのかもしれないが、日本映画の奥深さを感じさせられる映画である。


評価:★★★☆☆



    

     
    
posted by HH at 23:05 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ

2013年06月23日

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い.jpg

原題: Extremely Loud and Incredibly Close
2011年 アメリカ
監督: スティーブン・ダルドリー
出演: 
トーマス・ホーン:オスカー・シェル
トム・ハンクス:トーマス・シェル
サンドラ・ブロック:リンダ・シェル
マックス・フォン・シドー:間借人
ビオラ・デイビス:アビー・ブラック
ジョン・グッドマン:スタン
ジェフリー・ライト:ウィリアム・ブラック
ゾーイ・コールドウェル:おばあちゃん

<映画.com>
********************************************************************************************************
2005年に発表され、「9・11文学の金字塔」と評されたジョナサン・サフラン・フォアによるベストセラー小説を、「リトル・ダンサー」「めぐりあう時間たち」のスティーブン・ダルドリー監督が映画化。
9・11テロで最愛の父を亡くした少年オスカーは、クローゼットで1本の鍵を見つけ、父親が残したメッセージを探すためニューヨークの街へ飛び出していく。
第2次世界大戦で運命の変わった祖父母、9・11で命を落とした父、そしてオスカーへと歴史の悲劇に見舞われた3世代の物語がつむがれ、最愛の者を失った人々の再生と希望を描き出していく。
脚本は「フォレスト・ガンプ 一期一会」のエリック・ロス。
オスカーの父親役にトム・ハンクス、母親役にサンドラ・ブロックらアカデミー賞俳優がそろう。
********************************************************************************************************

主人公は10歳の少年オスカー。
父親から何かを調査するという事の面白さを教わり、今はニューヨークにある5区の他に幻の6区を探している。
父親との楽しい時間は、「最悪の日」と呼ぶ9.11で突然終わってしまう。

そして1年。
ある日思い立って入った父親のクローゼットの中で、オスカーは偶然青い花瓶に入った鍵を見つける。
それが何の鍵なのか探し当てる事で、父親との絆を取り戻せるような気がして、オスカーはそれを探す事を決意する。

大人だったら、ちょっと考えてそんなのは無理だと思うところだろう。
ところが子供は大人ほど常識に染められていない。
鍵袋に書かれていた“ブラック”という言葉。
オスカーはこれを人の名前だと思い、ニューヨークの電話帳に乗っているブラックさん427名すべてを訪ねる事を決意する。

そしてここがまた子供の強みでもあるが、突然のオスカーの訪問に、最初のアビー・ブラックは家に招き入れる。
しかもどうやら夫婦で危機的な対立の真っ最中にもかかわらず。
アビーの写真を取り、調査結果を父親に教えられた通りに丁寧にまとめていくオスカー。

途中で協力者が現れる。
おばあちゃんの家の同居人である。
口がきけない同居人は筆談でオスカーと会話しながら、彼に様々な影響を与えていく。
やがてオスカーは、同居人の正体に気がつく。
そこにもまた隠されたドラマがある。

トム・ハンクス演じる父親は、仕事も家庭も大事にする男。
心から妻を愛し、そして何よりオスカーを愛している。
オスカーのために割く時間は1秒とて無駄とは考えない。
黒煙を上げる貿易センタービルから、何度も家に電話をかける。
何かを感じつつ、オスカーと連絡をしようとするが、やがてビルは崩壊する。

同居人を演じるのは、マックス・フォン・シドー。
気がついた時にはもう老人役が多かった気がする名優であるが、ここでもいい味を醸し出している。
オスカーとの交流は何とも言えない温かみがある。

そして母親のサンドラ・ブロック。
「スピード」の印象が今も強烈だし、何となく「デンジャラス・ビューティー」や「あなたは私の婿になる」のようなコメディーから、マシンガン・トークの女という印象がある。
オスカーを取った「しあわせの隠れ場所」は比較的静かな役だったが、それでも芯の強い女という印象は大半の映画で共通しているイメージだと思う。
しかし、ここではすべて封印。
最後にオスカーに対して、とてつもなく深い愛情を示し、それが映画に強烈なインパクトを与える。

9.11をただ単に悲劇だ悲劇だというのではなく、オスカーとオスカーが抱える心の傷からの再生を助ける大人たちとの心打たれるドラマとなっている。
オスカーがどんな大人になっていくのか。
きっといい大人になるに違いないと思わせられる映画である。


評価:★★★☆☆





posted by HH at 21:12 | 東京 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ

2013年05月08日

メタル・ヘッド

メタル・ヘッド.jpg
    
原題: Hesher
2010年 アメリカ
監督: スペンサー・サッサー
出演: 
ジョセフ・ゴードン=レヴィット:ヘッシャー
ナタリー・ポートマン:ニコル
デヴィン・ブロシュー:TJ
レイン・ウィルソン:ポール
パイパー・ローリー:マドレーヌ

<Movie Walker 解説>
********************************************************************************************************
『(500)日のサマー』などで爽やかな印象を与えていたジョセフ・ゴードン=レヴィットが一転、過激なメタル男に扮し、その言動で周囲の人々を変えていく様をつづる人間ドラマ。
ナタリー・ポートマンが地味なスーパーのレジ係の女性役に加え、製作も担当。
監督は短編作などで注目を浴びた期待の新鋭スペンサー・サッサー。
********************************************************************************************************

自動車事故で母を失い、心に大きな傷を負った13歳の少年TJ。
そして、妻の死から立ち直れない父親ポール。
人生を見失い、スーパーのレジ係として働く女性ニコル。
そんな3人の前に突然現れたのは、長髪で半裸の謎の男ヘッシャー。

ずかずかとTJの祖母の家に勝手に上がり込み、洗濯を始める。
家主の事など眼中にない堂々たる立居振舞いで、そのまま強引に住みつくヘッシャー。
ヘッシャーはとにかく破天荒。
大音響でヘヴィメタルを流しながら、下品で乱暴な言動を繰り返す。
TJをいじめる友人に対しては、車に火をつける過激振り。

TJは死んだ母親を恋しがり、事故を起こした車の処分を止めようとする。
父も生きる気力を無くしたような日々を送り、老いた祖母はそんな彼らをどうする事もできず、家の中は死んだような雰囲気。
スーパーでレジを打つニコルは、駐車場で殴られているTJを助けた事から彼と仲良くなるが、お金もなく目標もなくその日暮らし。

とにかく、暗い雰囲気なのである。
そこにハチャメチャなヘッシャーが割り込んでくるが、3人はそれに対しなす術もない。
にも関わらず、そんなヘッシャーの行動が、3人の中にある何かを変えていくというお話。

ヘッシャーを演じるのは、ジョセフ・ゴードン=レビット。
「インセプション」「ダークナイト・ライジング」などでお目にかかっていたが、何となく線の細い男役というイメージがあった。
ここではイメージを一新し、挑発にイレズミだらけの半裸スタイルという強烈な姿で登場。
最初から最後まで、何をやらかすかわからない様子を堪能させていただいた。
ただ強烈なだけでなく、心の底に優しいものを秘めているところも印象的だった。

邦題は何だかよくわからないが、原題はそのものずばりでわかりやすい。
ナタリー・ポートマンファンとしても、楽しめる映画である。


評価:★★☆☆☆


        
posted by HH at 23:05 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ

2013年05月02日

ペーパーバード 幸せは翼に乗って

ペーパーバード.jpg

原題: Pajaros de papel
2010年 スペイン
監督: エミリオ・アラゴン
出演: 
イマノル・アリアス:ホルヘ
リュイス・オマール:エンリケ
ロジェ・プリンセプ:ミゲル
カルメン・マチ:ロシオ
フェルナンド・カヨ:モンテロ

<Movie Walker 解説>
********************************************************************************************************
2010年モントリオール世界映画祭で観客賞を受賞した、心あたたまる人間ドラマ。
スペイン内戦で妻子を失い、生きる希望をなくした喜劇役者が、ひとりの孤児との触れ合いを通して、再び笑顔を取り戻していく。
伝統ある喜劇役者の家系に生まれた作曲家で俳優のエミリオ・アラゴンが監督に初挑戦。
********************************************************************************************************

日本では洋画と言えばハリウッドモノが大半。
されど他の国々でも映画は作られている。
すべてを観る事はできないが、この映画のように賞を取ったりしたものは日本でも観る事ができるわけで、こういう機会を利用して観る事にしている。

物語は、内戦下のスペイン・マドリード。
スペインでは第2次大戦前夜に内戦があり、有名なフランコ総統が内戦に勝利して独裁権力を握る。
ファシスト党でありながら、第2次大戦ではドイツら枢軸国とともに参戦しなかったために、“難を逃れ”戦後も長期政権となった。

そんな内戦下、喜劇役者のホルヘは妻マリア、息子ラファと幸せに暮らしていたが、ある日、舞台を終えたホルヘは帰宅途中爆撃に遭う。
帰宅すると、そこはがれきの山となっており、妻子はその下敷きになっていた。
深い悲しみの中、ホルヘは姿を消す。

1年後、内戦が終わり、ホルヘは劇団に戻る。
戦争で両親を失った少年ミゲルを引き取っていたエンリケと再会し、一緒に暮らすことになる。
ホルヘは、息子と同じ年頃のミゲルを冷たく突き放してしまう。
それでもミゲルはホルヘを慕い、芸を覚えようとする。
一方、反体制派に対して厳しい弾圧を行っていたフランコ政権は、行方不明になっていた1年間の間に反フランコ政権の襲撃事件に関与していたとして、ホルヘを要注意人物としてマークする・・・

物語はホルヘが舞台に復帰し、エンリケやミゲル少年との交流を続けていく姿を追う一方、独裁者フランコ総統の厳しい弾圧が回りに及ぶ様子が描かれて続いて行く。
豊かな社会では人々は娯楽にお金を使い、そこに携わる人たちも潤う。
しかし、内戦で疲弊した社会では、そうもいかない。
物語の背景には、そんな貧乏一座の苦労がある。

激動の歴史の中、時として流れは個人の思いとは違う方向に流れていく。
抗う事のできない流れの中で、懸命に明日を生きようとする人たち。
スペインの歴史を多少なりとも理解してから観た方が、よりわかりやすいのではないだろうか。
年老いたミゲル少年の想いが最後にじんわりと伝わってくる映画である・・・


評価:★★☆☆☆


     

     
posted by HH at 23:21 | 東京 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ

2013年04月20日

ウィンターズ・ボーン

ウィンターズ・ボーン.jpg


原題: Winter's Bone
2010年 アメリカ
監督: デブラ・グラニック
出演: 
ジェニファー・ローレンス:リー・ドリー
ジョン・ホークス:ティアドロップ・ドリー
ケヴィン・ブレズナハン:リトル・アーサー
デイル・ディッキー:メラブ
ギャレット・ディラハント:シェリフ・バスキン

<Movie Walker他 解説>
********************************************************************************************************
ダニエル・ウッドレルの同名小説を映画化。
2010年サンダンス映画祭でグランプリを受賞し、第83回アカデミー賞で作品賞、主演女優賞ほか4部門にノミネートされたヒューマンドラマ。
『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』でミスティーク役に抜擢された新進女優ジェニファー・ローレンスが、たった1人で家族を守る17歳の少女を等身大で好演し、観る者の涙を誘う。
********************************************************************************************************

ミズーリ州南部のオザーク山脈に住む17歳の少女リーは、12歳の弟と6歳の妹をかいがいしく世話し、その日暮らしの生活をどうにか切り盛りしている。
ドラッグ・ディーラーの父ジェサップは長らく不在で、辛い現実に耐えかねて精神のバランスを崩した母親は言葉を発することすらほとんどない。

そんなある日、リーは地元の保安官から、警察に逮捕され懲役刑を宣告されたジェサップが、自宅と土地を保釈金の担保にして失踪、もしこのまま翌週の裁判に彼が出廷しない場合、リーたちの家は没収されると聞かされる。
そんな事言われても、お金はない。
住む家を失ったら、幼い兄弟を抱え生きていく術がなくなる。
やむなく、リーは父親を捜しに行く事になる。

貧しい地域である事は、雰囲気として伝わってくる。
これと言った産業があるわけではなく、暇を持て余した男たちは酒を飲むかその金欲しさに良からぬ事をするか。
リーが訪ね歩く一軒一軒の家は、どこも荒んだ雰囲気が漂う。
頼った親友は、同じ年なのに結婚して子供がいるが、旦那は良きマイホームパパとは程遠い。

やがてどうやら父親は殺されたらしいとわかってくる。
しかし、失踪は失踪。
死んだとわかれば保釈も無効となり、保釈金の担保も不要となる。
家も失わなくて済む事になる。
リーは現実的な選択として、「死体捜し」を選ぶ。
「誰が殺したかは興味ない」というリーのセリフ。
17歳の背中には重すぎる。

お金に困ったリーが、陸軍事務局に行くシーン。
4万ドルがもらえるという理由で入隊しようとするリーだが、18歳未満は親の承諾が必要と説明され困惑する。
ストーリーとは関係ないが、こういう理由で入隊する若者はけっこう多いのではないかと思う。

お金で兵を集める事が良いか悪いかは別として、男でも女でも何の取柄がなくとも軍隊に入ればお金がもらえる。
お金を求める人からすれば、それは立派な雇用機会である。
ただ4万ドルが支給されるのは、入隊して数週間後の不特定時期だとの説明もなされる。
「お金をもらってドロン」を避けるためであろうが、実にリアルだ。

やがてリーの元に父親に関する情報がもたらされる。
17歳で孤軍奮闘する少女に、さすがに同情したのであろうが、そこから先の展開はまた過酷なもの。
どうやら父親は村の掟に背いたために殺されたらしいのだが、リーはその先もその村で幼い兄弟と母親を養っていかなければならない。
だから事件の真相には目をつぶらないといけない。

17歳でこんな体験をしたら、この女の子はどんな大人になるのだろう。
ふとそんな事が脳裏をよぎった。
きちんとした産業(働く場所)があって、大人は家族のために働くことができる社会というのが、いかに大切なのかというのがわかる気がする。
それは子供がいつまでも子供でいられる社会でもある。

アカデミー賞ではなくても、映画祭でグランプリを取ったというのも頷ける。
骨太のヒューマンドラマである。


評価:★★★☆☆




    
posted by HH at 22:58 | 東京 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ