
原題: Arthur Newman
2012年 アメリカ
監督: ダンテ・アリオラ
出演:
コリン・ファース:ウォレス
エミリー・ブラント:マイク
アン・ヘッシュ:ミナ
ルーカス・ヘッジス:ケヴィン
<映画.com>
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『英国王のスピーチ』のコリン・ファースと『プラダを着た悪魔』のエミリー・ブラント主演、過去を捨てた男女の奇妙な2人旅を描いたロードムービー。失敗だらけの人生に嫌気が差した中年男性ウォレスは、偽造IDで別人に生まれ変わることを決意する。水死を装って今までの自分と決別したウォレスは、アーサー・ニューマンという名前で新たな人生を送りはじめる。そんな矢先、ひょんなことからマイクという変わり者の女性と知りあったウォレスは、成りゆきでマイクと一緒に旅することになる。共演に「6デイズ/7ナイツ」のアン・ヘッシュ。「セブン・イヤーズ・イン・チベット」の脚本家ベッキー・ジョンストンが脚本と製作を手がけた。
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人は誰でも生まれ変われたらと思うものであろう。この映画の主人公ウォレスもそんな1人。妻とは離婚し、離れて暮らす息子は自分に対し口もきこうとしない。自分の存在意義に疑問を持っていたところ、偶然知り合ったゴルフ場オーナーからレッスンプロに招かれ、これを機にまったく新しく人生をやり直そうと計画する。偽造IDで新しい名前を手に入れ、自分は自殺したように装い、新しい名前で新しい車を買い、全財産を持って新天地に向かう。
途中で知り合ったのは、どう見てもイカれた女マイク。ふとしたきっかけから知り合い、一緒に旅することになる。新婚の壮年カップルを見かけた2人は、カップルの後をつける。カップルが家に戻り、そして新婚旅行に出かけていくとその家に忍び込むマイク。初めは躊躇していたウォレスも、しまいに一緒に忍び込んでその家の一時主人の立場を楽しむようになる。
タイトルになっているアーサー・ニューマンとは、ウォレスが選んだ新しい名前。その名の通り「ニューマン」である。かつてはゴルフプロとしてツアーにも参加経験があるが、極度のあがり症で本番に弱く、実力を発揮できないままリタイア。子どもが口をきいてくれないのも、かつて多忙を理由に接触を避けていたから。そんな過去が次第に明らかになっていく。
一方で、ウォレスが失踪し、しかも自殺の疑いがあると分かった時、それまで冷たかった恋人は改めてウォレスへの気持ちに気づき、口もきかなかった息子も父親に興味を示すようになる。人間は、失ってからそれがいかに大事なものであったかに気がつくものなのである。こうして新しい人生を手に入れようとした主人公と、彼に対する思いに気がつく恋人と息子とが並行して描かれていく。マイクにも同情すべき身上がある。
新しい名前で、過去を捨てて新しい人生を歩もうとしたウォレス。同じように心に傷を抱えてあてどもなく生きていたマイク。本当は父親との絆がもっと欲しかった息子。それぞれの物語の結末が心地よい。それにしても今の時代、ネットも発達していて、まったく新しい人生というのも簡単には手に入らないものだと思う。ウォレスのプロとしての経歴も、ちょっと検索すればアーサー・ニューマンなどというプロが存在しないことがわかってしまう。それは裏を返せば、息子からすると知らなかった父親のプロの時代を見ることができるということでもある。いいのか悪いのかは別として、今はそういう時代だと強く感じる。
静かなドラマではあるが、心に染みる心地よい再生のドラマである・・・
評価:★★☆☆☆