2016年12月10日

捨てがたき人々

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2012年 日本
監督: 榊英雄
原作: ジョージ秋山
出演: 
大森南朋:狸穴 勇介
三輪ひとみ:岡辺 京子
内田慈:吉田 和江
滝藤賢一:吉田チーフ(和江の夫)
美保純:あかね(京子の叔母)
田口トモロヲ:丸吉社長
客:佐藤蛾次郎
客:寺島進

<シネマトゥデイ>
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ジョージ秋山による原作コミックを基に、『ハゲタカ』などの大森南朋演じる生きることに飽きた男を主人公に人間の欲と業を赤裸々に描く人間ドラマ。不器量で自堕落な中年男がある女と出会い、苦悶しながらも愛と幸せを見つけ出そうと生きる姿をつづる。監督は、俳優であり監督としても『誘拐ラプソディー』などを手掛ける榊英雄。主人公の相手を、『発狂する唇』などの三輪ひとみが演じるほか、滝藤賢一、田口トモロヲといった味のある俳優たちが共演。グロテスクなまでに欲と業を表す主人公を熱演する大森の役者魂に驚嘆する。
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原作が何とジョージ秋山というこの映画、懐かしい名前を目にする。ジョージ秋山と言えば、独特の絵と暗い雰囲気のマンガが特徴的だったが、その雰囲気がよく出ている映画である。主人公は、不細工で無愛想、怠け者の狸穴勇介。どういう経緯かはわからないが、生まれ故郷の五島列島に帰ってくる。

不動産屋から紹介を受けたのは、風呂も壊れた家賃1万円の古びた家屋。とりあえず布団などの最低限のものを買い入れて暮らし始める。ある日、勇介は弁当屋で顔に痣のある女・京子と出会う。京子は、その痣がコンプレックスで恋愛を諦めていたが、新興宗教に入っていて人には笑顔で優しく接している。勇介は声をかけてきた京子に何と襲い掛かる。

偶然叔母あかねが通りかかり、難を逃れた京子。しかし、勇介が謝罪に来ると、あっさりと許し食事に行く。勇介はタタでさえ怪しげな目つきで女と見れば体を嘗め回すように見ている男。そんな勇介と食事をし、酔った挙句、あろうことか京子は勇介の家に行く。当然の成り行きとして、勇介は京子をレイプする・・・

映画を観ていてとにかく、セックスシーンが頻繁に出てくる。レイプされたにも関わらず京子は勇介としばしば会い、体を重ねる。勇介は金が尽きて包丁片手に強盗を働く寸前までいくが、京子に職を紹介されて働き始める。しかし、そこの社長は宗教法人の代表でありながら、会社の事務の人妻と浮気をしている。さらに勇介は、京子の叔母あかねまでレイプしてしまう。

そんな欲望の赴くままやりまくる勇介は、避妊などということは考えないのだろう。やがて京子に子供ができる。自分の事をクズだと認識している勇介は、そんな自分の子供など生きる価値もないだろうと生むのに反対する。それもまたしかり。そして10年後、生まれた子供は成長し、母親と喧嘩した時に、なんで生んだのかと吐き捨てる。この家族にとって生きることの意味って何だろうと真面目に思えてくる。

世の中には、どうしようもない人間というのはいるものである。しかし、一見、真面目に会社を経営している社長が、社員と浮気を繰り返す。その夫もまた社員であるが、その関係に薄々気付いたのであろうか、それとも妻との肉体関係がうまくいかないのであろうか、詳しくは描かれていないのであるが、首をつってしまう。この一見まともに暮らしていた人々は、どうしようもなくないのであろうか。タイトルが重々しく響いてくる。

勇介は、ギリギリのところで堀の外側に踏みとどまる。浮気社長の自殺によって会社は立ち行かなくなるが、夫人から退職金を強引に奪い取ると、そのあとは昔懐かしい汲み取り業に携わってまで真面目に働く。そしてこの仕事ゆえであろう、子供に嫌われるという皮肉。京子もいつしか浮気をし、勇介は叔母のあかねとみだらな関係を続ける。底辺での人間の営みというのであろうか、いろいろと感じさせてくれるところの多い映画である。

あらためて原作漫画も読んでみたくなった一作である・・・


評価:★★☆☆☆



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2016年11月11日

ローマの教室で

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原題: 
Il rosso e il blu
2012年 イタリア
監督: ジュゼッペ・ピッチョーニ
出演: 
マルゲリータ・ブイ: ジュリアーナ
リッカルド・スカマルチョ: ジョヴァンニ
ロベルト・ヘルリッカ: フィオリート
ルチア・マシーノ: エレナ・トガーニ
シルビア・ダミーコ: アンジェラ・モルディーニ

<シネマトゥデイ>
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全く違うタイプの3人の教師がそれぞれに事情を抱えた生徒との交流を通じ、自らの価値観を見つめ直していく学園ドラマ。『もうひとつの世界』『ぼくの瞳の光』などのジュゼッペ・ピッチョーニ監督が、現代イタリアの教育事情をリアルに描き出す。悪戦苦闘する教師たちを、『はじまりは5つ星ホテルから』などのマルゲリータ・ブイ、『あしたのパスタはアルデンテ』などのリッカルド・スカマルチョ、『夜よ、こんにちは』などのロベルト・ヘルリッカが好演する。
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 ローマにある、とある高校の3人の教師のドラマである。
女性校長ジュリアーナは、授業中に廊下で電話をかけている男子生徒を見つけて注意する。しかし、その後、体育館の片隅でその生徒が寝ているのを見つけて驚く。聞けば唯一の保護者である母親が、失踪してしまい家にも入れないのだという。咳も酷く、病院に連れて行くとそのまま入院となる。

 国語の臨時教員ジョヴァンニは、教育熱心。着任初日から帰宅早々生徒の名前を覚えるのに余念がない。授業にも工夫をし、少しでも生徒が興味を持つよう壊れた映写機を直そうと奮闘する。生徒もそれぞれ問題を抱えていて、なかでも女子生徒アンジェラは欠席も多く気にかかる。しかし、そんなジョヴァンニにジュリアーナ校長は、「教師は学校内の教育だけすればよい」と諭す。

 美術史のベテラン教師フィオリートは、教育に対する情熱が消失してしまっていて、「生徒はみんな頭が空っぽ」とジョヴァンニに語る。そんな有様なので、生徒の名前など覚えようともしない。しかし、そんなフィオリートにかつての教え子から突然電話がかかってくる。フィオリートの教育を賛辞し、再会を希望する教え子にフィオリートは戸惑いを覚える。

 ジョヴァンニが担当するクラスの生徒もなかなかのもの。みんなませていてとても高校生には見えない。授業中でもイヤホンをはずさないシルヴァーナ、挑戦的な態度を見せるサフィラ、お調子者のチャッカ、ルーマニアからの移民でクラス一番の優等生アダム、そしてずる休みを繰り返すアンジェラには、ジゴロ風の中年男がたびたび車で学校まで迎えに来る。そんなアンジェラは、父親は失業し母親は亡くなったとジョヴァンニに語るが、クラスの生徒たちは、亡くなったと言われた母親の姿を町で見たという・・・

 学園モノと言えば、洋の東西を問わず、教師と生徒とが互いの問題点を抱えながら交流するドラマとなるものであるが、この映画もその王道を行く。若いジョヴァンニは、教育熱心であるが、ベテランのフィオリートはそんな意欲をすっかり亡くしている。生徒の様子を見ていると、そんな風に当初の意欲をなくしてしまうのも無理からぬところかもしれないと思える。

 生徒の中にはジプシーの血を引くアダムがいる。ローマに一家で移民してきていて、父親はガソリンスタンドの経営で苦労して生計を立てているが、そんな父をアダムは「ペコペコして」と批判する。息子の勉強ぶりに目を細めるお父さんの心中が何となく伝わってきて、これだけでドラマになりそうである。
 
 原題は’Il rosso e il blu’で教師が使う赤と青の二色鉛筆のことらしいが、なかなかのタイトルである。特に確たるストーリーがあるというわけではないが、それぞれのドラマがそれぞれの余韻をもって終わり、そんな余韻が不思議に心地よい。何気なく観たものの、味わいのあるイタリア映画である・・・


評価:★★☆☆☆






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2016年11月01日

女が眠る時

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2016年 日本
監督: ウェイン・ワン
出演: 
ビートたけし:佐原
西島秀俊:健二
忽那汐里:美樹
小山田サユリ:綾
新井浩文:石原
渡辺真起子:恭子
リリー・フランキー:飯塚

<シネマトゥデイ>
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『スモーク』などのウェイン・ワン監督がメガホンを取り、スペイン人作家ハビエル・マリアスの短編小説を映画化したミステリー。海辺のホテルを舞台に、偶然出会った男女の私生活をのぞかずにはいられない主人公の異様な心象風景を描写する。ビートたけしを筆頭に西島秀俊、忽那汐里といった豪華キャストが勢ぞろい。次第に狂気を宿していく主人公のカオスのような日々が目に焼き付く。
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 北野武主演ということで興味を惹かれて観たこの映画、評価は難しい。というのも、淡々としたストーリーでどこが面白いのかという感じがするのだが、「つまらない」と断じてしまうには、ちょっと抵抗がある。どことなく、奥深さを感じさせる映画なのである。

作家の健二は妻の綾を伴い、リゾートホテルで1週間の休暇を過ごしにきている。健二は、処女作がヒットしたもののその後ヒットに恵まれず、ついには就職することに決めている。作家を続けて欲しいと願う妻との仲は、なんとなくぎくしゃくしている。そんな中、健二はプールサイドにいた初老の男佐原と若い女美樹のカップルに興味を惹かれる。どう見ても親子ではない。映画を観ている自分にも不倫の匂いが漂ってくる。

二人に興味を惹かれた健二は、外出した二人をつけ、一軒の居酒屋へと入る。そこにいたのは、リリー・フランキー演じる癖のある店主。その怪しげな店主ぶりは、怪演と言えなくもない。そして健二は、とうとう佐原に話しかける。佐原の話がまた奇妙。佐原は夜な夜な美樹の寝姿をビデオに撮っている。しかもそれをもう10年も続けていると。ただ、寝姿だけを淡々とである。

これが健二の好奇心にさらに火をつける。毎夜、佐原の部屋を覗きに行く健二(佐原の部屋は1階なのである)。二人の関係を巡る妄想は、果てしなく広がり、とうとう二人の不在時に部屋に忍び込んでビデオを観るに至る。怪しげなカップルに魅了されてしまった健二の行動に、観ているこちらもハラハラさせられる。

そんな危うい行動を取る健二。妻の綾は編集者であるが、毎日会いに行く作家(綾は旅行と仕事を兼ねているようである)は72歳という話であったが、実は若い作家だったとわかる。登場人物たちの行動が謎めいていて、健二の心境もよく伝わってくる。居酒屋のリリー店主の言動にはイラッとくるし、刑事の言動もしかり。妻の綾でさえも諸々の疑惑が隠し切れない。なかなかの心理戦だと思う。

期待していた北野武であるが、やっぱりどこか異常なところがある人物には適しているなと改めて思う。バイオレンスでなくてもそれは同じである。それにしても、今回は随分と腹も出て、中年太りが目立っていた。それもまた役柄に色味を加えていると言えば言えるのであるが、ご立派な腹部である。

人によっては、「つまらない」と思う映画であろう。そういう意見を聞いたとしても違和感は持たない。ただ、観終わったあと、じわじわと湧いてくる余韻が個人的には何とも言えない映画である・・・


評価:★★☆☆☆





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2016年10月20日

フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ

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原題: Fifty Shades of Grey
2015年 アメリカ
監督: サム・テイラー=ジョンソン
出演: 
ダコタ・ジョンソン: アナ・スティール
ジェイミー・ドーナン: クリスチャン・グレイ
ジェニファー・イーリー: カーラ・メイ・ウィルクス
エロイーズ・マンフォード: ケイト・キャヴァナー
ヴィクター・ラスク: ホセ・ロドリゲス

<シネマトゥデイ>
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主婦が趣味で執筆しインターネットにアップした小説が評判を呼び、全世界でベストセラーとなった官能小説を映画化。巨大企業の若き起業家である男前のCEOと、恋愛未経験の女子大生の倒錯した恋愛模様が展開する。メガホンを取るのは、『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』の女性監督サム・テイラー=ジョンソン。CEOにファッションモデル出身で『マリー・アントワネット』などのジェイミー・ドーナン、ヒロインには『ニード・フォー・スピード』などのダコタ・ジョンソンがふんする。
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 主人公のアナスタシア・スティールはワシントン州立大学バンクーバー校で英文学を専攻する平凡な女子大学生。卒業試験を目前に控えたある日、熱を出したルームメイトに代わり、学生新聞の記者としてシアトルにある大企業グレイ・エンタープライズ・ホールディングスの創始者でありCEOのクリスチャン・グレイにインタビューすることになる。若く魅力的なクリスチャンにアナは心惹かれる。

 ある日、アナのアルバイト先にクリスチャンが突然現れる。話の中でアナは、学生新聞用にケイトがクリスチャンの写真を撮りたがっていることを話す。クリスチャンは快諾し、二人は後日また会うことになる。撮影終了後クリスチャンはアナを誘い、カフェへと向かう。そしてアナの元に、クリスチャンからアナの好きなトーマス・ハーディの作品である『ダーバヴィル家のテス』の初版本が届く。あまりに高価なものが届き、アナは困惑する。

 その晩、バーで飲んでいたアナは酔ってクリスチャンに電話をする。アナが酔っていると察知したクリスチャンは、バーに現れると泥酔したアナを自分が泊まっているホテルへ連れて帰る。何事もなく一夜を過ごした二人であるが、これを機に二人の距離は縮まる。そしていよいよ一戦を越えようとする時、クリスチャンからアナにある提案がなされる。

 若くして成功したクリスチャンの姿は、男なら誰もが羨むものである。アナもすぐに彼に心惹かれる。アナを迎えにきたクリスチャンは、屋上に止めたヘリにアナを誘うと、自らコクピットに座ると夜の街の上空を自らが住むシアトルへと向かう。スケールの違うことと言ったらない。これで落ちない女などいないだろう。実に羨ましい。

 されど何事も夢のようにはいかない。クリスチャンには実は特殊な性癖があって、それは平たく言えばSM。なんとクリスチャンはアナに「奴隷契約」を持ちかける。しかも愛はないとの但し書き付である。それ以外は贅沢三昧できるのであるが、女性の立場としてはどうなのであろう。ここからストーリーは目眩く性の世界へと入っていく。お子様には見せられない映像の世界。

 かつてトム・クルーズ主演の「アイズ・ワイド・シャット」という映画があったが、この映画もそれと同様。官能映画と言えば官能映画であるが、そこはさすがハリウッド。アダルトビデオとは遥かにかけ離れた美しき芸術性が漂う。二人の大胆な絡みも、見ていて美しい。クリスチャンの提案に、アナは驚きつつも断るでもなく真剣に検討する。どんな「プレイ」を可とするかの契約条項をビジネスが如く打ち合わせする姿は、なんとも言えない。

 それにしてもクリスチャンも堂々としたもので、「愛はない」と初めからはっきり宣言。なのにアナは離れるでもなく、契約するか否か最後まで検討し続ける。「プレイ」については好みもあるので何とも言えないが、揺れ動くアナの心境が観る者にも伝わってきて、ストーリーに引き込まれてしまった。難を言えば、クリスチャン役のジェイミー・ドーナンがもう少し2枚目だったらと思わなくもない。まぁこれも好みかもしれないが、イマイチ感情移入しにくいところであった。

原作には続編もあるようだし、そのあたり映画でも期待したいと思う作品である・・・


評価:★★☆☆☆



posted by HH at 21:07 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ

2016年09月20日

歩いても歩いても

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2008年 日本
監督: 是枝裕和
出演: 
阿部寛 - 横山良多
夏川結衣 - 横山ゆかり(良多の妻)
YOU - 片岡ちなみ(良多の姉)
高橋和也 - 片岡信夫(義兄 ちなみの夫)
田中祥平 - 横山あつし(ゆかりの連れ子である良多の息子)
樹木希林 - 横山とし子(良多の母)
原田芳雄 - 横山恭平(良多の父)
野本ほたる - 片岡さつき(ちなみと信夫の娘)
林凌雅 - 片岡睦(ちなみと信夫の息子)
寺島進 - 小松健太郎(松寿司店長)
加藤治子 - 西沢ふさ(横山家の隣人)

<シネマトゥデイ>
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『誰も知らない』『花よりもなほ』の是枝裕和が、家族の情景を鋭くとらえ、しんみりと描いたホームドラマ。15年前に死んだ兄と比較されて育ち、実家に居心地の悪さを抱いている男を阿部寛がユーモアと悲哀を込めて演じる。そのほか、夏川結衣、樹木希林、原田芳雄などが家族にふんし、家族の何でもない会話や日常を絶妙な間合いで表現する。
ストーリー:夏のある日、横山良多(阿部寛)は妻のゆかり(夏川結衣)と息子のあつし(田中祥平)とともに実家に帰省した。この日は、15年前に他界した兄の命日。しかし、失業していることを口に出せない良多にとって、両親(原田芳雄、樹木希林)との再会は苦痛でしかなかった。
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 ある夏の日、横山良多は、再婚したばかりの妻ゆかりとゆかりの連れ子のあつしとともに電車で実家に向かう。実家では既に姉夫婦が二人の子供を連れて来ている。母は息子の良多の結婚相手が子連れの再婚であることが気に入らない。開業医を引退した父は、日課である散歩に出かけていく。医者に誇りを持っている父は、息子の良多が医者にならなかったことで、二人の関係はギクシャクしている。さらに良多は失業中であり、それについては家族にかん口令を敷いている。

 良多が実家へ帰ったこの日は、横山家の長男、純平の命日。純平は父の跡を継いで医者になったが、海で溺れた少年を助けようとして命を落としたのであった。特にナレーションがあるわけでもなく、一族の会話から、その状況が浮かび上がってくる。連れ子のあつしは、良多を嫌っているわけではなさそうであるが、良多を父とは呼ばず「りょうちゃん」と呼ぶ。
母のゆかりは、せめて実家ではそう呼ばないようにと諭す。

 姉のちなみ夫妻は、実家で両親と同居することを計画している。しかし、母とし子は、良多が戻って来にくくなるという配慮から、これに対しては乗り気ではない。墓参りから戻ると、かつて純平が海で溺れたところを助けた青年が、線香をあげに来ている。青年が帰ると、父は悪態をつき、良多はそれに反発する。母とし子の態度にゆかりは良多に不満をもらし、さらにとし子はとげのある言葉をゆかりに投げかける。

 父は子供が生まれた時、人並みに喜び、そして自分自身が誇りを持っている医師という職業に息子たちをつかせようと思ったのであろう。されど次男の良多にはそれが負担であり、いつしか反発へと繋がったのだと想像できる。そして意思表現が不器用な父の態度がそれに輪をかける。良多が意地でも失業しているという事実を隠そうとするところにもそれが表れている。

 母とし子は、青年が焼香にくることに居心地の悪さを感じているのは承知しているが、一年に一度その居心地の悪さを感じさせるために、「来年も来てくれ」と青年に声をかける。直接恨み言を言えない陰湿な思いが伺える。さらに良多には子供を作るのかと聞きつつ、別れる前提で作らないほうがいいという。そしてそれをさり気ない形でゆかりにも言う。こういうことが嫁姑の争いにつながるものであるが、恐ろしいくらいさり気なく描かれる。

 何気ない家族の一日であるが、行間にそれぞれの思惑が入り混じる。対立する父と子、母の息子たちへの思い、娘の母への思いが、決してきれいな形ではなく、むき出しに描かれる。ほんわかファミリードラマにしなかったところが、現実感溢れている。そんな「作り物」感のないリアリティが、ある種心地よい。実際の家族は、外見上親しそうでもどこもそれぞれが様々な思惑を抱えているものである。

 特に母親のとし子は、己の感情に正直である。息子の嫁には子連れの再婚女など嫌であり、長男の事故死の原因となった青年にはただ恨みの感情しかない。暖かいファミリードラマではなく、あえてリアリティのある家族ドラマにしたところが、この映画の妙である。地味ながら、唸らせられる映画である・・・
 
評価:★★☆☆☆




posted by HH at 21:28 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | ドラマ