2025年02月07日

【カラーパープル】My Cinema File 2965

カラーパープル.jpg

原題: The Color Purple
2023年 アメリカ
監督: ブリッツ・バザウーレ
出演: 
ファンテイジア・バリーノ:セリー
タラジ・P・ヘンソン:シュグ・エイブリー
ダニエル・ブルックス:ソフィア
コールマン・ドミンゴ:ミスター
コーリー・ホーキンズ:ハーポ
H.E.R.:スクイーク
ハリー・ベイリー:若き日のネティ

<シネマトゥデイ>
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アリス・ウォーカーの小説を原作に、スティーヴン・スピルバーグが監督を手掛けた作品のミュージカル版リメイク。過酷な状況に置かれながらも、前向きに生きる女性の姿を描く。『ブラック・イズ・キング』などのブリッツ・バザウールが監督を務め、オリジナル版監督のスピルバーグのほか、同作に出演したオプラ・ウィンフリーらが製作を担当。ブロードウェイミュージカル版で演じたセリーをファンテイジア・バリーノが再び担当するほか、『ドリーム』などのタラジ・P・ヘンソン、ダニエル・ブルックスらが出演する。
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『カラーパープル』というタイトルを聞いて真っ先に昔観たスティーヴン・スピルバーグ監督の作品を思い出したが、そのミュージカル版リメイクだという。スティーヴン・スピルバーグ版も良かったので、期待して鑑賞に至るもの。

時に1909年のアメリカ。南部ジョージア州のアフリカ系アメリカ人の町で、14歳のセリーは父親と妹との3人暮らし。しかし、もう妊娠しているが、なんと父親はセリーの父親。鬼畜の所業であるが、とりあえず血のつながっていない親子のようである。まだあどけないセリーは妹ネティと仲が良い。そして無事出産するが、父親は生まれた赤子をその日のうちにどこかへと連れ去ってしまう。そして実はこれが2人目の子供だというから鬼畜度はさらに高まる。

妹のネティはなかなかかわいらしく、見染めた“ミスター”と自称するアルバートが父親の下に嫁に欲しいと申し出る。しかし、父親は代わりにセリーを差し出す。先妻との間に3人の子供のいるアルバートは、背に腹は代えられないのか、セリーをもらい受けて家に連れ帰る。その家の中は荒れ放題。アルバートはさっそく掃除と夕食の支度を言いつける。嫁というよりも家政婦といったところである。

1日の家事を終えたセリーだが、そこへネティが逃げ込んで来る。セリーがいなくなり、代わりに父親が体を求めたとの事。何ともはやである。セリーはネティと再び一緒になれたことを喜ぶ。しかし、今度はアルバートがネティのベッドを襲う。かろうじて難を逃れたネティだが、激怒したアルバートはネティを追い出してしまう。泣く泣く手紙を書くと言い置いて去って行くネティ。何とも言えないやりきれなさが残る。

1917年、アルバートの息子ハーポがソフィアと結婚する。沼地に家を建てそこを酒場とする。ソフィアはセリーと仲良くなるが、気の強いソフィアはハーポを尻に敷く。1922年、人気歌手のシュグが町に帰って来る。アルバートは長年、シュグに想いを馳せている。妻であるセリーは相変わらず家政婦扱い。シュグは町の牧師の娘だったが、ブルースを歌う娘を牧師は否定し、親子関係は断絶状態である。

アルバートが酔い潰れた朝、偶然郵便配達から手紙を受け取ったシュグは、セリー宛のネティの手紙を見つける。それまでネティからの手紙が届かない事を気に病んでいたセリーだが、実はすべてアルバートが受け取ってセリーに渡さなかったのである。家探しして大量のネティの手紙を見つけるセリーとシュグ。セリーの生んだ2人の赤ん坊たちは牧師夫妻が引き取っていたが、ネティは彼らと共にアフリカに伝道に赴いている事を知る。セリーの子供たちの世話を焼いていると手紙で伝えるネティにセリーの胸は熱くなる・・・

アメリカの黒人のドラマと言えば、人種差別というキーワードが思い浮かぶ。しかし、このドラマで描かれるのは黒人社会の様子。人種差別はないが、酷い男尊女卑が人種差別と同じように胸糞が悪くなる。人種差別も皆無ではなく、セリーを誘って町に出たソフィアがその被害に遭う。出会った白人の市長夫人からメイドに雇うと強要されるのである。もともと気が強いソフィアはなんと白人市長を殴ってしまう。投獄されるのは仕方がないが、この期間が6年にも及ぶのはやはり差別のなせる業である。セリーは収監されたソフィアを幾度となく見舞う。

人種差別と男尊女卑の酷い世界で涙をこらえながら生きるセリー。そんなセリーの物語がミュージカルに色づけられて描かれる。と言ってもあまりミュージカル色は強くない。物語は1945年まで続いていく。セリーの人生もどん底が続くのではなく、少しずつ光明が差していく。傲慢だったアルバートも改心し、セリーも静かにこれを受け入れる。そんな様子が心を温めていく。この物語はフィクションであるが、似たような話はどこにでもあったように思う。

人の心を温める物語はミュージカルであろうとなかろうと不変のものがある。ラストのセリーの幸福感に包まれた表情が何とも言えない。ハッピーエンドが心地よい映画である・・・


評価:★★★☆☆









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2024年03月30日

【シンデレラ】My Cinema File 2836

シンデレラ.jpeg

原題: Cinderella
2021年 アメリカ
監督: ケイ・キャノン
出演: 
カミラ・カベロ:シンデレラ / エラ
イディナ・メンゼル:ヴィヴィアン
ミニー・ドライヴァー:ベアトリス女王
ニコラス・ガリツィン:ロバート王子
ピアース・ブロスナン:ローワン王

<映画.com>
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「ピッチ・パーフェクト」のケイ・キャノンが監督・脚本を手がけ、おとぎ話として誰もが知るシンデレラの物語を、1980年代から現代までの世界的大ヒットポップソングで彩りながら、新たに描いたミュージカル。米ガールズグループ「フィフス・ハーモニー」の元メンバーで、グループ脱退後にはソロアーティストとして躍進し、グラミー賞にもノミネートされたシンガーソングライターのカミラ・カベロが主演。真実の愛を求めるだけでなく、自分の夢を実現させるために邁進する新たなシンデレラ像を体現した。継母役を『アナと雪の女王』のイディナ・メンゼル、国王役をピアース・ブロスナン、女王役をミニー・ドライバー、王子役を「ハートビート」のニコラス・ガリツィンが演じる。Amazon Prime Videoで2021年9月3日から配信。
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「シンデレラ」は子供の頃から様々な形で慣れ親しんできた物語。実写版の『シンデレラ』も記憶に新しい。そんな「シンデレラ」をミュージカル風にアレンジした新解釈の映画である。

昔々、あるところにある王国。その王国の街外れにある一軒の家から物語は始まる。家主は2人目の夫に先立たれたヴィヴィアン。ヴィヴィアンには3人の娘がいる。マルヴォリアとナリッサ、そして継娘のエラである。エラは地下の部屋に住み、義姉たちからは灰まみれという意味の「シンデレラ」と呼ばれている。そんなシンデレラには夢がある。自分で仕立てたドレスを売りたいという元祖のストーリーにはない夢である。

しかし、現実主義・現金主義者の継母ヴィヴィアンは、何不自由のない生活を送るために、3人の娘たちに早く金持ちの男を捕まえて結婚するようにと言っている。それに対し、シンデレラは、ドレスを作る仕立屋として成功したいという長年の夢を叶えるため、今日も地下室でドレスづくりに励む。そんな庶民の生活とはかけ離れた城のお触れ役タウン・クライヤーが陽気な楽器隊を従えて、王国の民たちに衛兵の交代の式典を知らせる。式典には国王と女王、王子と王女ら国王一家が勢揃いするという。

そして衛兵交代式当日、シンデレラは王国民が城に集まるため、自分が作ったドレスを売り込むチャンスと思うが、ヴィヴィアンに怒られてしまう。女が商売なんてという世の風潮なのである。一方宮殿では、ローワン国王が息子のロバート王子のことで頭を痛めている。王子が名家の王女との縁談を断り続けているのである。王位継承という点で王子に早く結婚してほしい。そんな父王の心知らずか、ロバート王子は縁談よりも親友のウィルバー伯爵ら友人たちと遊んでいる方が楽しいのである。

そんなロバート王子の行動をローワン国王が許せるはずもなく、花嫁探しの舞踏会への出席を命令する。憂鬱な気分で臨んだ衛兵交代式で、ロバート王子が宮殿のバルコニーから見たのは、ローワン国王の肖像によじ登って観覧するシンデレラの姿であった。ローワン国王に注意されても臆さず、堂々とした振舞いを見せて去っていくシンデレラに、ロバート王子は一目で恋に落ちる。これも元祖にはないオリジナルのストーリーである。

ロバート王子は一計を案じ、舞踏会への出席の条件として「舞踏会には身分を問わず、国中の若い女性を招待する」ことを国王に認めさせる。そしてロバート王子は、自らシンデレラを舞踏会へ招待するため、変装して街へ繰り出し市場で自作のドレスを売ろうと奮闘するシンデレラを見つける。市場はシンデレラに冷たく、女性の商いということで見下され、挙句に自作のドレスを盗んだものと言われる始末。そんなシンデレラの姿を見ていたロバート王子は、シンデレラが作った亡き実母の形見であるブローチをつけたドレスを高値で買い取る・・・

元祖とは異なるストーリー展開に戸惑う部分もあるが、お約束の舞踏会はきちんと城で開かれる。しかし国民の間では、ロバート王子は問題を起こすだけの役立たずでマザコンと噂され、王室を支えているのはキレ者のグウェン王女とされており、シンデレラからは舞踏会へは行かないと言われてしまう。慌てた王子は、「舞踏会で世界中から集まってくる女性に偏見を持たない大金持ちを紹介する」と取り繕ってシンデレラを舞踏会に誘う。このあたりのオリジナルストーリーは面白い。

そして紆余曲折を経てシンデレラは、自作のドレスを着て舞踏会に出席する。お約束の魔法使いは蜘蛛に食べられそうだった幼虫が羽化した蝶が変身した姿。シンデレラと一緒に地下に住んでいた3匹のネズミが馭者に変身する。ガラスの靴を履き、かぼちゃではなく、庭に置かれた木箱が馬車になる。「時計の針が12時をさしたら、魔法が解ける」というのもお約束。こうしてシンデレラは舞踏会へ出席する。

しかし、ここでもオリジナルのストーリーが展開される。それは男女平等の現代らしいストーリー展開。おそらく「将来の夢はお嫁さん」という夢を見る少女が大半だった時代には受け入れられなかったであろうストーリーである。白馬にまたがった王子様の姿はなく、主人公は自らのドレスを売りたいという夢を追うシンデレラ。ロバート王子にもその昔、鎧をまとって戦いに赴く父親の勇敢な姿に憧れ、国王になりたいと思ったことがある。

12時の鐘が鳴る。魔法が解けかかっているシンデレラは、走りにくいガラスの靴を宮殿前で脱ぎ捨て、馬車に乗ってその場を立ち去る。シンデレラにキツくあたっていたヴィヴィアンにも誰にも話したことがない夢があったことがわかる。ロバート王子の行動はローワン国王の考えをも変える。「このガラスの靴の持ち主を探せ。結婚するかしないかはお前の好きにしろ」とロバート王子に告げ、ロバートは元祖のストーリーにはなかった選択をする。

全般にわたってミュージカル仕立ての映画。しかも80年代の懐かしい曲が中心。歌詞とストーリーが一体となったものは『マンマミーア!』(My Cinema File 553)の如し。元祖のストーリーとは異なる現代のシンデレラストーリー。めでたしめでたしだけは変わらない映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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2023年11月18日

【ウエスト・サイド・ストーリー】My Cinema File 2771

ウエストサイド・ストーリー.jpeg

原題: West Side Story
2021年 アメリカ
監督: スティーブン・スピルバーグ
出演: 
アンセル・エルゴート:トニー
レイチェル・セグラー:マリア
デヴィッド・アルヴァレス:ベルナルド
アリアナ・デボーズ:アニータ
リタ・モレノ:バレンティーナ
マイク・ファイスト:リフ
ジョシュ・アンドレス:チノ
コリー・ストール:シュランク警部補
ブライアン・ダーシー・ジェームズ:クラプキ巡査

<映画.com>
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スティーブン・スピルバーグ監督が、1961年にも映画化された名作ブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド物語」を再び映画化。1950年代のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドには、夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていた。社会の分断の中で差別や貧困に直面した若者たちは同胞の仲間と集団をつくり、各グループは対立しあう。特にポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していた。そんな中、ジェッツの元リーダーであるトニーは、シャークスのリーダーの妹マリアと運命的な恋に落ちる。ふたりの禁断の愛は、多くの人々の運命を変えていく。『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴートがトニー、オーディションで約3万人の中から選ばれた新星レイチェル・ゼグラーがマリアを演じ、61年版でアニタ役を演じたリタ・モレノも出演。『リンカーン』のトニー・クシュナーが脚本、現代アメリカのダンス界を牽引するジャスティン・ペックが振付を担当。2022年・第94回アカデミー賞では作品、監督賞ほか計7部門にノミネートされ、アニータ役を演じたアリアナ・デボースが助演女優賞を受賞した。
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「ウエスト・サイド物語」のリメイク映画。名作のリメイクとなると、プレッシャーは大きいと思うが、スティーブン・スピルバーグがそれを手掛けるとなると、一段と興味をそそられる。

場所はニューヨークのウエスト・サイド。再開発の対象となっているこの地域では、2つの不良グループが対立している。リフ率いるポーランド系アメリカ人のジェット団と、ベルナルド率いるプエルトリコ系アメリカ人のシャークであり、日々小競り合いを繰り返している。リフは元ジェット団のリーダーで兄貴分のトニーに何かと頼っている。何とかジェット団に戻って欲しいと考えているが、トニーは服役後であり、今は足を洗ってドクの店でまじめに働いているため、リフの頼みは聞き流す。

一方、シャーク団のベルナルドには妹マリアがいる。マリアには許嫁のチノがいるが、マリアはチノに心惹かれず、チノの一方通行になっている。そんな折、ダンスパーティーが開催される事になる。ジェット団とシャーク団の若者双方ともこのダンスパーティーに集う事になっている。リフはこの場でシャーク団に決闘を申し込む腹積りであり、トニーを強引に誘う。マリアはマリアで純粋にダンスパーティーを楽しみに会場にやってくる。そんな2人が運命的に出会う。

妹を案じるベルナルドは、マリアとトニーの接近に激怒し、マリアを家に帰す。アメリカとは言え、この時代まだまだ封建的家長制が生きている。そしてその勢いで、ジェット団とシャーク団の決闘が決まる。そんな動きとは別に、トニーとマリアは互いに気になる存在となる。しかし、ジェット団とシャーク団との対立が2人の行く末に暗雲をもたらす。ジェット団とシャーク団は、決闘の打ち合わせをするため、深夜にドクの店で落ち合う。一方、トニーは人目を忍んでマリアに会いに行く・・・

元はブロードウェイのミュージカルだというが、ストーリーは極めてシンプル。対立する2つの組織とそれぞれの組織の関係者が恋に落ちてしまう。それは組織的には許されざることであるが、恋する2人には組織の対立は迷惑でしかない。現代の「ロミオとジュリエット」と言われる通り、構図はまさに「ロミオとジュリエット」そのものである。恋の始まりは誰にとってもウキウキとするもの。明るい人生が目の前に広がる。しかし、2人の前にジェット団とシャーク団との対立が暗雲をもたらす。

基本はミュージカルなので、歌と踊りが随所で披露される。ジェット団、シャーク団それぞれのメンバーが見事な調和で歌い踊る様はこの映画の見どころの1つだろう。そして、トニーとマリアの恋の場面でも、トニーの歌う『マリア』は良く知られた曲でもある。トニーがマリアの部屋の外の階段を上って会いに行くシーンは、まさに本家『ロミオとジュリエット』のワンシーンのようでもある。それぞれの思いが交錯する中、決闘の時間が刻一刻と迫っていく。

1961年版の『ウエスト・サイド物語』の印象は鮮烈で、リメイク版との違いはあまりよくわからない。プエルトリコ系とポーランド系の対立だったかなと唯一思った程度。ただ、リメイク版となると、何が違うというのがないと、「ただ役者を変えだけ」という印象が強くなる。名画とされる前作とどう違うのか。残念ながらスティーブン・スピルバーグの名をもってしても、そのあたりの好印象は持てなかった。

とは言っても、つまらないという事ではない。元ネタは名作の質を備えており、歌も踊りも楽しめるもの。観なければ良かったという事はない。ただ、本家と肩を並べても超えることはないという事だろうか。これはこれで、十分堪能できる映画である・・・


評価:★★☆☆☆







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2021年09月25日

【銀座カンカン娘】My Cinema File 2463

銀座カンカン娘.jpeg
 
1949年 日本
監督: 島耕二
出演: 
高峰秀子:お秋
笠置シヅ子:お春
灰田勝彦:武助
古今亭志ん生:新笑
浦辺粂子:おだい
岸井明:白井哲夫

<映画.com>
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製作は「流星」「グッドバイ(1949)」の青柳信雄、脚本は「春の戯れ」につぐ山本嘉次郎と元日活協同プロダクション、プロデューサー、朝鮮映画製作部長をしていた中田晴康が戦後初の協同執筆、監督は「今日われ恋愛す」「グッドバイ(1949)」の島耕二、キャメラは「グッドバイ(1949)」の三村明がそれぞれ担当する。出演は「花くらべ狸御殿」「我輩は探偵でアル」につぐ灰田勝彦「グッドバイ(1949)」の高峰秀子のほか岸井明「結婚三銃士」の笠置シヅ子らが共演している。
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『銀座カンカン娘』と言えば、軽快なメロディーが脳裏に蘇る。戦後大ヒットを飛ばした映画と歌というイメージを持っていたが、映画の方は観たことがない。そうしたところ、Netflixで観ることができるとわかり、鑑賞に至るもの。

戦後間もなくの昭和29年、物語は郊外の一軒の家で始まる。郊外と見えたのだが、ひょっとしたら東京近郊かもしれない。当時はちょっと山手線の外側へ出ればこんな光景が広がっていたのかもしれない。その家の主人は、落語家の新笑。いまは引退して妻のおだいと、甥の武助と孫とささやかな生活を営んでいる。そしてその家には、新笑が昔世話になったという恩人の娘お秋と、お秋の友人のお春が居候として暮らしている。詳しくは語られないが、まだ戦後の傷も癒えない当時だから、物悲しい事情があるのかもしれない。

2人の娘達は朝から歌をうたって気楽な様子。家計を預かるおだいは、働かない2人にイライラしている。武助は会社で合唱隊を組織して歌を楽しみ、お春は声楽家、お秋は画家と、いずれも芸術を楽しんでいる。しかし、一文なしの娘達には、絵の具もピアノも買うことは出来ず、だからと言ってブラブラと遊んでいる訳にもいかない。そこでお秋が職さがしに出かけようとすると、おだいに飼っている犬のポチを捨ててきてくれと頼まれる。犬の餌さえ大変なのだろう。

やむなく、ポチをつれたお秋が捨てる場所に困ってウロウロしていると、映画のロケに出食わす。ちょうど撮影用の犬を探しており、行きがかり上、ポチと一緒にエキストラとして出演することになる。撮影は進行していくが、主演女優が池の中に放り込まれることを拒否し、やむなくディレクターが代役を探すことになる。この機会にお秋はお春を呼びよせて代役を務めさせる。それで2人は1,000円という大金を手にする。

そのエキストラには白井哲夫という男がいて、なんでもバーで歌をうたって一晩で1,000円も稼げるという。もとより歌が好きなお秋であり、白井哲夫とお秋とお春とでバーからバーへと歌い歩くことになる。そこで歌われるのが、タイトルの「銀座カンカン娘」。軽快な音楽であり、観ていて楽しい感じである。映画は半分ミュージカルでもある。当時の銀座もこんな感じだったのかと想像するのも面白い。

一方で、ストーリーもきちんと進んで行く。新笑の家では、相変わらず生活も苦しく、しかも家賃も溜まっていたのか、10万円払う必要が出てくるが、恩返しはこの時とばかり3人で稼いだお金で新笑の家の苦境を救う。そしてそのころ、武助も失業したことから、3人に加って武助も夜の銀座で歌うことになる。明るさが求められていたのか、映画は徹底的に希望に満ちている。軽快な音楽と、ストーリーの明るさが、復興を担う人たちに希望を与えたのかもしれない。

それにしても新笑の家では、しばし朝食のシーンが出てくるが、ご飯と味噌汁とおそらく漬物だけの質素なもの。やっぱり当時は大変だったのだろうなと伺わせてくれる。古い映画ではあるが、いろいろと想像しながら観ると楽しみも増すというもの。主演の高峰秀子がこんなに若かったんだとも思う。たまには古き良き時代に親しみたくなる一作である・・・


評価:★★☆☆☆








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2020年12月31日

【キャッツ】My Cinema File 2334

キャッツ.jpg

原題: Cats
2019年 イギリス・アメリカ
監督: トム・フーパー
出演: 
フランチェスカ・ヘイワード:ヴィクトリア
ジェニファー・ハドソン:グリザベラ
ジュディ・デンチ:オールドデュトロノミー
ジェームズ・コーデン:バストファージョーンズ
スティーブン・マックレー:スキンブルシャンクス
ジェイソン・デルーロ:ラム・ラム・タガー
レベル・ウィルソン:ジェニエニドッツ
イアン・マッケラン:ガス
イドリス・エルバ:マキャヴィティ
テイラー・スウィフト:ボンバルリーナ

<映画.com>
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1981年にロンドンで初演されて以来、観客動員数は世界累計8100万人に達し、日本公演も通算1万回を記録するなど、世界中で愛され続けるミュージカルの金字塔「キャッツ」を映画化。『レ・ミゼラブル』 『英国王のスピーチ』のトム・フーパーが監督、スティーブン・スピルバーグが製作総指揮を務め、英国ロイヤルバレエ団プリンシパルのフランチェスカ・ヘイワードのほか、ジェームズ・コーデン、ジェニファー・ハドソン、テイラー・スウィフト、ジュディ・デンチ、イアン・マッケランら豪華キャストが共演した。人間に飼いならされることを拒み、逆境の中でもしたたかに生きる個性豊かな「ジェリクルキャッツ」と呼ばれる猫たち。満月が輝くある夜、年に一度開かれる「ジェリクル舞踏会」に参加するため、街の片隅のゴミ捨て場にジェリクルキャッツたちが集まってくる。その日は、新しい人生を生きることを許される、たった一匹の猫が選ばれる特別な夜であり、猫たちは夜を徹して歌い踊るが……。
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「キャッツ」と言えば、国内でも劇団四季が上演した世界的に有名なミュージカル。かねてから映画とミュージカルの相性は良くないと思っていて、ミュージカルの映画版には疑問に思うところも少なくないが、この映画の印象はまずまずと言える。

物語の舞台はある街。満月の夜、一台の車がゴミ捨て場で止まると、降りてきた人間が一つの袋を捨てて行く。人間が立ち去ると、そのあたりに住む猫たちが興味深げに寄ってくる。そして袋の中から白く美しい猫が姿を現す。捨て猫の名前はヴィクトリア。ヴィクトリアを取り囲んだ猫たちは、自らをジェリクルキャッツと称している。要は野良猫であるが、人間に飼い慣らされていないという誇りをもっているようである。

その夜はジェリクルキャッツにとって特別な日。舞踏会が開かれ、歌と踊りを競い合う猫たちの中から、たった1匹の猫が選ばれる事になっている。選ばれた猫は、天上の世界で新しい生活を始める権利を得られる。選ぶのは長老猫オールドデュトロノミー。どの猫も権利を得ようと歌と踊りに磨きをかける。もともと飼い猫だったヴィクトリアは、戸惑いながらもそんな様子を眺めている。

そして登場するジェリクルキャッツたち。怪しい猫マキャヴィティ、おばさん猫のジェニエニドッツ、イケメン猫のラム・タグ・タガー、リッチ猫のバストファージョーンズ。ミュージカルだけあって、それぞれの猫たちの様子が歌と踊りで紹介されていく。猫たちを演じるのはみんな人間であるが、ふと気がつくとサイズは通常の猫のサイズ。そのあたりの視覚効果は映画ならではである。

ミュージカルらしく猫たちの歌と踊りが続いていく。そして舞踏会の刻限が近づき、長老猫のオールドデュトロノミーがやって来る。この長老猫には誰もが敬意を表するが、この様子を遠くから伺うのはグリザベラ。もとは美しい猫だったが、娼婦に身を落とし、仲間の猫たちからは蔑まれている。そしてこのグリザベラが名曲「メモリー」を歌う。これは何と言ってもこのミュージカルの最大の見せ場であるが、ここはまずジャブといったところ。

この「メモリー」はのちにもう一度歌われる。長老猫が決断する前、グリザベラの歌声が本物だと思ったヴィクトリアが長老猫の前にグリザベラを連れてくる。他の猫たちは嫌悪感を示したりするが、さすが長老猫は歌うよう促す。そしてみんなの視線を浴びながらグリザベラは「メモリー」を熱唱する。ここはなかなか心震わされるシーンである。

ストーリーはあってなきが如し。ミュージカルとはそういうものである。町の裏寂れた一角で、こんな猫の世界があるとしたらちょっと楽しいかもしれない。歌と踊りに加え、独自の猫の扮装もなかなかと言える。気がつけばジュディ・デンチやイアン・マッケラン、イドリス・エルバといったメジャーな俳優さんが出演している。それぞれ「見分ける」のも一興である。

劇団四季のミュージカルは鑑賞したが、舞台と映画のどちらがいいかは微妙なところ。それぞれの良さはあるかもしれない。心震える「メモリー」を聞きながらの年越し。2020年最後の映画としては満足いく映画である・・・


評価:★★☆☆☆








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