
原題: The Color Purple
2023年 アメリカ
監督: ブリッツ・バザウーレ
出演:
ファンテイジア・バリーノ:セリー
タラジ・P・ヘンソン:シュグ・エイブリー
ダニエル・ブルックス:ソフィア
コールマン・ドミンゴ:ミスター
コーリー・ホーキンズ:ハーポ
H.E.R.:スクイーク
ハリー・ベイリー:若き日のネティ
<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
アリス・ウォーカーの小説を原作に、スティーヴン・スピルバーグが監督を手掛けた作品のミュージカル版リメイク。過酷な状況に置かれながらも、前向きに生きる女性の姿を描く。『ブラック・イズ・キング』などのブリッツ・バザウールが監督を務め、オリジナル版監督のスピルバーグのほか、同作に出演したオプラ・ウィンフリーらが製作を担当。ブロードウェイミュージカル版で演じたセリーをファンテイジア・バリーノが再び担当するほか、『ドリーム』などのタラジ・P・ヘンソン、ダニエル・ブルックスらが出演する。
********************************************************************************************************
『カラーパープル』というタイトルを聞いて真っ先に昔観たスティーヴン・スピルバーグ監督の作品を思い出したが、そのミュージカル版リメイクだという。スティーヴン・スピルバーグ版も良かったので、期待して鑑賞に至るもの。
時に1909年のアメリカ。南部ジョージア州のアフリカ系アメリカ人の町で、14歳のセリーは父親と妹との3人暮らし。しかし、もう妊娠しているが、なんと父親はセリーの父親。鬼畜の所業であるが、とりあえず血のつながっていない親子のようである。まだあどけないセリーは妹ネティと仲が良い。そして無事出産するが、父親は生まれた赤子をその日のうちにどこかへと連れ去ってしまう。そして実はこれが2人目の子供だというから鬼畜度はさらに高まる。
妹のネティはなかなかかわいらしく、見染めた“ミスター”と自称するアルバートが父親の下に嫁に欲しいと申し出る。しかし、父親は代わりにセリーを差し出す。先妻との間に3人の子供のいるアルバートは、背に腹は代えられないのか、セリーをもらい受けて家に連れ帰る。その家の中は荒れ放題。アルバートはさっそく掃除と夕食の支度を言いつける。嫁というよりも家政婦といったところである。
1日の家事を終えたセリーだが、そこへネティが逃げ込んで来る。セリーがいなくなり、代わりに父親が体を求めたとの事。何ともはやである。セリーはネティと再び一緒になれたことを喜ぶ。しかし、今度はアルバートがネティのベッドを襲う。かろうじて難を逃れたネティだが、激怒したアルバートはネティを追い出してしまう。泣く泣く手紙を書くと言い置いて去って行くネティ。何とも言えないやりきれなさが残る。
1917年、アルバートの息子ハーポがソフィアと結婚する。沼地に家を建てそこを酒場とする。ソフィアはセリーと仲良くなるが、気の強いソフィアはハーポを尻に敷く。1922年、人気歌手のシュグが町に帰って来る。アルバートは長年、シュグに想いを馳せている。妻であるセリーは相変わらず家政婦扱い。シュグは町の牧師の娘だったが、ブルースを歌う娘を牧師は否定し、親子関係は断絶状態である。
アルバートが酔い潰れた朝、偶然郵便配達から手紙を受け取ったシュグは、セリー宛のネティの手紙を見つける。それまでネティからの手紙が届かない事を気に病んでいたセリーだが、実はすべてアルバートが受け取ってセリーに渡さなかったのである。家探しして大量のネティの手紙を見つけるセリーとシュグ。セリーの生んだ2人の赤ん坊たちは牧師夫妻が引き取っていたが、ネティは彼らと共にアフリカに伝道に赴いている事を知る。セリーの子供たちの世話を焼いていると手紙で伝えるネティにセリーの胸は熱くなる・・・
アメリカの黒人のドラマと言えば、人種差別というキーワードが思い浮かぶ。しかし、このドラマで描かれるのは黒人社会の様子。人種差別はないが、酷い男尊女卑が人種差別と同じように胸糞が悪くなる。人種差別も皆無ではなく、セリーを誘って町に出たソフィアがその被害に遭う。出会った白人の市長夫人からメイドに雇うと強要されるのである。もともと気が強いソフィアはなんと白人市長を殴ってしまう。投獄されるのは仕方がないが、この期間が6年にも及ぶのはやはり差別のなせる業である。セリーは収監されたソフィアを幾度となく見舞う。
人種差別と男尊女卑の酷い世界で涙をこらえながら生きるセリー。そんなセリーの物語がミュージカルに色づけられて描かれる。と言ってもあまりミュージカル色は強くない。物語は1945年まで続いていく。セリーの人生もどん底が続くのではなく、少しずつ光明が差していく。傲慢だったアルバートも改心し、セリーも静かにこれを受け入れる。そんな様子が心を温めていく。この物語はフィクションであるが、似たような話はどこにでもあったように思う。
人の心を温める物語はミュージカルであろうとなかろうと不変のものがある。ラストのセリーの幸福感に包まれた表情が何とも言えない。ハッピーエンドが心地よい映画である・・・
評価:★★★☆☆