
原題: The King's Man
2021年 アメリカ
監督: マシュー・ボーン
出演:
レイフ・ファインズ:オーランド・オックスフォード公
ハリス・ディキンソン:コンラッド・オックスフォード
ジャイモン・フンスー:ショーラ
ジェマ・アータートン:ポリー・ワトキンズ
リス・エバンス:グリゴリー・ラスプーチン
トム・ホランダー:イギリス国王ジョージ5世/ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世/ロシア皇帝ニコライ2世
チャールズ・ダンス:キッチナー伯爵
マシュー・グード:モートン
ダニエル・ブリュール:エリック・ヤン・ハヌッセン
バレリー・パフナー:マタ・ハリ
ジョエル・バズマン:ガブリロ・プリンツィプ
フアーロン・ボドボス:フェリックス・ユスポ
アーロン・テイラー=ジョンソン:アーチー・リード
ブランカ・カティチ:アレクサンドラ皇后
イアン・ケリー:ウッドロウ・ウィルソン
<シネマトゥデイ>
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『キングスマン』シリーズの第3弾。第1次世界大戦前夜のヨーロッパを舞台に、スパイ組織キングスマンの誕生秘話と、彼らが巨大な陰謀に立ち向かう姿が描かれる。前2作に引き続きメガホンを取るのはマシュー・ヴォーン。『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』などのレイフ・ファインズ、『マレフィセント2』などのハリス・ディキンソンのほか、リス・エヴァンスらが出演する。
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『キングスマン』(My Cinema File 1751)、『キングスマン:ゴールデン・サークル』(My Cinema File 1951)と続いてきたシリーズの第3弾である。と言ってもいわゆる「続編」ではなく、前日譚とでも言うべきもの。時は1902年、オーランド・オックスフォード公爵は、息子のコンラッドと妻のエミリー、執事のショーラと共に捕虜が収容されたキャンプを訪問する。到着時、オーランド暗殺を狙った狙撃手が発砲。エミリーが流れ弾を受けて撃たれ、命を落とす。
そして12年の月日が流れる。コンラッドは、オーランドから飛行機の操縦技術を学び、ショーラに格闘術を叩きこまれ、たくましく成長する。血気にはやるコンラッドは、軍隊に志願し戦場に出ることを望むが、平和主義者のオーランドは、それを認めない。オーランドは、コンラッドを説得するため、まずは紳士の振る舞いを教えようとセヴィル・ローにあるテーラー「キングスマン」に連れて行く。オーランドは、コンラッドにスーツを仕立てさせるが、そこでイギリスの陸軍大臣であるキッチナーと、陸軍の将軍であるモートンと出会う。キッチナーは、オーランドにイギリス国王であるジョージ5世の相談に乗ってほしいと伝える。
ジョージ5世は、いとこであるドイツ皇帝ヴィルヘルム2世とロシア皇帝ニコライ2世との関係が悪化し、戦争が起きる可能性に頭を痛めている。命を受けてセルビアを訪問したオーランドだが、皇太子と移動中、なんと皇太子を暗殺されてしまう。この事件はやがてそれを端として第一次世界大戦へとつながっていく。暗殺者はセルビア人の青年だが、謎の指輪をはめていたことで、暗躍する組織の存在に気付く。それは「羊飼い」と呼ばれる謎の男を中心にした秘密結社。「羊飼い」の目的は、戦争を仕掛けイギリスを壊滅させること。そしてロシアにはラスプーチンを派遣し、ニコライ2世を操ってロシアを戦争から撤退させようと目論んでいる。
邦題にはめずらしく丁寧な解説がついている。「ファースト・エージェント」とあるように、これは前2作の時代の前にあたる。まだ「キングスマン」という組織はできていない。セヴィル・ローにあるテーラーの「キングスマン」は純粋なテーラーで、秘密の会議室もない。そこで主人公のオーランドは陸軍のモートン将軍としばし密談を行い、後の秘密の拠点になる伏線となっていく。そしてオーランドの屋敷には多数の使用人がおり、中でもポリーとショーラが中心になる。ポリーは諜報、ショーラは格闘担当という感じである。
背景には第一次世界大戦へと向かう時代の流れがある。謎の「羊飼い」は遥か高台の上に居住し、往来には人力エレベーターが必要である。そこに配下の者を集めて指揮を取るが、そのメンバーには皇太子を暗殺したセルビアの青年がおり、ラスプーチンがいる。ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の側近もいる。主要国に配下の者を送り込み、世界を裏から操っている。それによって第一次世界大戦を引き起こし、ロシアを戦線から離脱させ、アメリカの参戦を阻んでイギリスの崩壊を狙う。
その計画を阻止するのが、オーランドであるというのが、縦糸のストーリー。横糸にはオーランドの子息コンラッドとの親子間の問題が描かれる。コンラッドは時代の熱気に煽られ、軍隊に入隊せんと血気にはやる。しかし、この若者の興奮を知る父のオーランドはあの手この手で入隊を阻止しようとし、阻止できないとなると人脈を生かして後方の配属になるようにする。しかし、コンラッドは父親の手配を逃れて最前線の塹壕に臨む。そしてそこで本当の戦争の姿に気づくが、父親の気持ちに気づいた時には既に死と隣り合わせにある・・・
軽快なテンポ感のあった前2作と比べると少し異質な雰囲気が漂うのは、まだ「キングスマン」が発足していないからなのかもしれない。いとこ同士であったイギリス国王ジョージ5世、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世、ロシア皇帝ニコライ2世に加え、ラスプーチン、ウィルソン米大統領、そしてマタ・ハリまで歴史上の人物を織り交ぜて物語は進む。第一次世界大戦の影にこんな暗躍があったというのも面白い設定である。そしてラストでは若きアドルフ・ヒトラーまでもが登場する。これは次作への予告であろうか。
一難去っていよいよ「キングスマン」が結成される。「ファースト・エージェント」という邦題は珍しく巧妙な邦題である。シリーズモノにはメンバーを変えて前日譚を描くというパターンがよくあるが、今までのメンバーはもう出ないのだろうかと思ってみたりする。どういう風に続くかはわからないが、このシリーズもまだ続くような気がするし、続いてほしいとも思う。ジェームズ・ボンドともイーサン・ハントとも違うテイストのスパイ映画として、楽しみたい一作である・・・
評価:★★☆☆☆