2025年01月03日

【法廷遊戯】My Cinema File 2952

法廷遊戯.jpg
 
2023年 日本
監督: 深川栄洋
出演: 
義永瀬廉:久我清
杉咲花:織本美鈴
北村匠海:結城馨
戸塚純貴:藤方賢二
柄本明:奈倉哲
生瀬勝久:釘宮昌治
筒井道隆:佐久間悟
大森南朋:沼田大悟

<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
小説家で弁護士の五十嵐律人が司法修習生時代に上梓した小説を原作に描くミステリー。ロースクールの同級生の3人の男女が、実際に起きた殺人事件の真相を模擬裁判として追う中で、彼らの隠された真実が暴かれていく。メガホンを取るのは『桜のような僕の恋人』などの深川栄洋。『真夜中乙女戦争』などの永瀬廉、『市子』などの杉咲花、『スクロール』などの北村匠海のほか、柄本明、生瀬勝久、筒井道隆、大森南朋らが出演している。
********************************************************************************************************

冒頭、電車内で女子高校生がちかんを捕まえる。ともに電車を降りるが、一緒に階段を登っていたところ、2人とも転がり落ちてしまう。それから何年かの月日が経過する。場所は法都大ロースクール。弁護士を目指す「セイギ」こと久我清儀は、幼なじみの織本美鈴と一緒に通っている。そこでは最近、勉強漬けの生徒たちの息抜きとして「無辜ゲーム」と呼ばれる模擬裁判をやっている。「無辜」とは、罪のない事。またはその人を意味する。

ゲームの主催者は、ロースクール在学中に唯一司法試験を突破した天才・結城馨。ある日、セイギは奈倉教授に呼ばれ、「無辜ゲーム」について問われる。曖昧に答えて席に戻ると、机の上に一枚のビラが置かれている。その内容は、数年前に児童養護施設で起きた殺傷事件の記事で、施設長が施設に入居する16歳の少年に刺されたというもの。そしてその少年はセイギであった。誰の仕業なのか。周りの生徒たちもざわついているが、みな関わりを避けるように顔を伏せる。

これに対し、セイギは無辜ゲームでビラを配った者を名誉棄損にかける。そしてその証人として美鈴を指名する。実は美鈴もセイギと同じ児童養護施設で育っている。事件記事のビラは、飲み会のチラシと巧妙に張り合わせられていて、めくると事件の記事が出てくるようになっている。美鈴は問われるまま飲み会のチラシを配ったのは藤方賢二だと答える。藤方は罪を認めるが、開き直ってロースクールを辞めると言い出す。

セイギは、藤方を引き留め、事情を問い詰める。しかし、ビラの写真がロッカーに報酬と一緒に入っていただけとの事。自分の成績を苦にし、セイギに悔し紛れに怒りをぶつける意味で加担したようである。その頃、美鈴は何者かにより嫌がらせを受けている。アパートの玄関窓には、例の事件の記事がアイスピックで刺し込まれ、郵便受けにもチラシが投げ込まれている。
犯人の動きから、セイギは美鈴の部屋の上の空き部屋が怪しいと睨み、中に入る。そこで謎の男が美鈴の部屋を盗聴していたとわかる。

男は悪びれもせず、ネットで見知らぬ相手に頼まれただけと白状して逃げていく。それを機に嫌がらせはなくなり、そして2年の月日が経つ。セイギと美鈴は無事、司法試験に合格し弁護士になる。そんな二人に、研究者として学院に残っていた馨から久しぶりに無辜ゲームへの誘いがくる。不信感を持ちつつ、「これが最後のゲームだ」と言う馨の言葉にロースクールに向かうセイギ。ゲームの行われていた洞窟に着いてみると、そこには胸にナイフが刺さったまま倒れている馨の姿があり、返り血を浴びた美鈴がセイギに「私を弁護して」と告げる・・・

ロースクールの同級生を巡る殺人事件のミステリー。弁護士になったばかりの主人公が、幼馴染でやはり弁護士の美鈴を弁護する。状況証拠は圧倒的に美鈴を容疑者として示している。目の前に転がる死体。凶器のナイフについた指紋、被害者の返り血を浴びた姿。冒頭の授業風景で、被害者の馨が教授の質問に答えて「冤罪」について説明する。しかし、この状況はどこをどう見ても「冤罪」とは言い難い。

殺人事件の発生までに登場人物たちの物語が語られる。何となくストーリーのキーマンであるように思われていたロースクール在学中に唯一司法試験を突破した天才・結城馨が殺されてしまうという展開にはちょっとした驚きがあった。さらに殺したのが美鈴なのであるが、美鈴は無罪を主張する。それなのに美鈴は黙秘を貫き、自ら指名した弁護士であるセイギに対しても一切黙秘する。事件現場で渡されたSDカードのパスワードも教えない。美鈴の意図が分からず困惑するのはセイギだけではなくも観る方も同じ。

そして裁判が始まるが、予想もしない展開。それと知らずにばらまかれていた伏線が回収されていく。やはり天才は天才であった。それは天才が仕掛けたゲーム。ストーリーの妙がこの映画にはある。天才とセイギと美鈴。その接点は意外なところにある。意外性に満ちたストーリーが何とも言えない味わいの映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月13日

【ゆれる】My Cinema File 2932

ゆれる.jpg
 
2006年 日本
監督: 西川美和
出演: 
オダギリジョー:早川 猛
香川照之:早川 稔
伊武雅刀:早川 勇
新井浩文:岡島洋平
真木よう子:川端智恵子

<映画.com>
********************************************************************************************************
「蛇イチゴ」(03)でデビューを飾った西川美和監督の第2作。東京で写真家として気ままに暮らす猛(オダギリジョー)が、母親の一周忌で久しぶりに帰郷。猛は家業を継いだ兄の稔(香川照之)と幼なじみの智恵子とともに近くの渓谷へ行くが、智恵子が吊り橋から転落してしまう。智恵子の近くにいた稔が逮捕され裁判となるが、そこで猛は今まで見たことのない兄の姿を目の当たりにする……。
********************************************************************************************************

東京で写真家として活躍している早川猛の下に母が亡くなったと連絡が入る。なんとなくめんどくさそうな様子で葬儀のために帰省することになる。アシスタントの女性にさり気なくキスをして車に乗り込む猛。故郷に帰りついた猛は、実家が経営するガソリンスタンドで給油をする。そこで猛は窓ガラスを拭く店員に気づいてあわてて顔をそむける。店員も運転席に座っている猛に気づき、合図をしようとしてやめる。何があったのだろうか。

葬儀に遅れて出席する猛。喪服の参列者の中に1人赤いジャンバーを着ている。会席の場では1人浮いている猛に父親が嫌味を言う。それに対して強烈な嫌味を返す猛。途端に激怒した父親を必死に抑えて宥めたのは長男の稔。稔は自由奔放に生きて好きな仕事についた猛と違い、真面目に実家のガソリンスタンドを継いで働いている。兄弟仲は悪くなく、母の遺品を整理していて、2人は幼い頃よく家族で遊びに行った霞渓流の8ミリカメラの映像を発見する。稔は猛に、智恵子も誘ってそこに行こうと提案する。

智恵子とはガソリンスタンドで働いていた女性。そして、猛は2人が一緒に働く姿を見て、稔が智恵子に気があることに気づく。兄は真面目で女性にも奥手、弟は自由奔放で女性の扱いにも慣れている。その夜、猛は稔の勧めでガソリンスタンドで働く智恵子を車で家まで送ることになる。2人は車内でとりとめのない世間話をするも、猛は智恵子の部屋まで行くと告げると、そのままベッドインする。

夜遅くに実家に帰った猛を稔が迎える。猛は後ろめたさもあったのだろう、稔に彼女と居酒屋で飲んでいたと嘘をつく。稔は猛の話に相づちを打つが、会話はどこかよそよそしい。2人とも本音を隠しているのがよくわかるシーンである。そしてこれがその後の展開で重要なシーンだとわかるシーンなのである。猛は兄が好意を抱いている智恵子を抱いた事にどこか後ろめたさがあってだと思うが、兄に呼んでもらってよかったと礼を言う。

翌日、猛と稔は智恵子を誘って3人で渓流へ出かける。子供のようにはしゃぐ稔とは対照的に、猛は久しぶりに来た渓流の自然の美しさをカメラに収めることに専念する。そんな猛が気になる智恵子。2人の話からすると、かつて2人で東京に行こうという話があり、智恵子が尻込みしたようだとわかる。今でも未練がありそうな智恵子から逃れるように猛は一人渓流の奥へと歩んでいく。対照的に稔は智恵子と距離を縮めようとする。言葉はなくてもそれぞれの気持ちが伝わってくる。

そして猛が高い吊り橋を歩く姿を見た智恵子は、「私も」とその吊り橋へ向かう。実は稔は高所恐怖症なのか吊り橋を恐れるが、智恵子を追って渡っていく。その姿は切ないくらいである。なんとか智恵子に追いついた稔だが、手を取る稔に智恵子は思わず「触らないでよ」と声を荒げてしまう。そして事件は起きる。智恵子が釣り橋から転落してしまうのである。猛は無我夢中で稔のもとに駆けつけるが、パニック状態の稔に猛は「警察を呼ぼう」と告げる。

「ゆれる」というタイトルは吊り橋の事かと思っていたが、どうもそうではない。映画は意外な方向へと向かっていく。事故だと思っていたが、稔は「智恵子は自分が殺した」と警察に出頭する。事件の後、兄の態度がおかしくなった事から、それを信用しない猛は伯父の早川修弁護士に相談に行き、裁判で稔の無罪を立証しようと奔走する。映画はそのシーンを映さないので実際に何があったのかは観ている者もわからない。幼馴染で密かに思いを寄せる智恵子を死なせてしまったことからくる自責の念に駆られての自主なのか。あるいは本当に落としたのか。

どちらとも取れる事情がいろいろとわかってくる。厳格な父、真面目な兄、自由奔放な弟。事実はどうなのか、ゆれる吊り橋の上で何があったのか?観ている者には結末が読めない。観終わってもなお疑いの気持ちがぬぐい切れない。主演はオダギリ・ジョーであるが、兄の香川照之が実にそれっぽい。役柄にぴったりあっている。ラストの稔の表情が何とも言えない。ストーリーと出演陣の熱演とに味わい深い余韻の残る映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月29日

【パーソナル・ショッパー】My Cinema File 2918

パーソナル・ショッパー.jpg

原題: Personal Shopper
2016年 フランス
監督: オリビエ・アサイヤス
出演: 
クリステン・スチュワート:モウリーン
ラース・アイディンガー:インゴ
シグリッド・ブアジズ:ララ
アンデルシュ・ダニエルセン・リー:アーウィン
タイ・オルウィン:ギャリー
アンムー・ガライア:警官
ノラ・フォン・バルトシュテッテン:キーラ

<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
『アクトレス〜女たちの舞台〜』のクリステン・スチュワートとオリヴィエ・アサイヤス監督が再び組み、第69回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞したミステリー。多忙な人々に代わって服やアクセサリーを買い付けるパーソナル・ショッパー(買物代行人)のヒロインが、顧客の私生活に触れる中で欲望を膨らませていくさまを描く。シャネルのほか、劇中を彩る華やかなファッションにも注目。
********************************************************************************************************

主人公のモウリーンは、とある屋敷へとやってくる。今は誰も住んでいないその屋敷に1人残る。その夜、物音に目覚めたモウリーンは屋敷内を探しまわる。オカルト映画を思わせるシーンであるが、何事もなく終わる。安堵というより落胆という雰囲気がよくわからない。そんなモウリーンの仕事は、パリでセレブのために高級ブランドの服やアクセサリーの買い物代行をするパーソナル・ショッパー。そういう仕事があるのだと改めてセレブをうらやましく思う。

モウリーン自身は、バイクを利用し、服装も地味であるが、それ以上に厭世的な雰囲気が漂う。外国で暮らしている恋人がいて、来るように誘われるが、色よい返事はしない。その理由はパリで亡くなった兄の霊に会うためであることが明らかにされる。実はモウリーンには双子の兄がいて、2人には霊媒の能力があったという。そして生前、兄とどちらかが死んだら互いにわかるように何かのサインを送り合おうと決めていたという。パリを離れるとその合図がわからないとモーリーンは信じている。

実は冒頭で訪ねた屋敷は兄が住んでいたところ。そこでは確かに蛇口から水が勝手に出たりラップ音がしたりと奇怪な現象が起きたのであるが、やがて現れたのは口からエクトプラズムを吐く女性の霊。そしてまた別の日、モウリーンがパーソナルショッパーの仕事をこなしていると、見知らぬメールが届く。そのメールには、「私はあなたを知っている。あなたも私を知っている」と書いてある。差出人はわからない。

差出人不明のメールはモウリーンの行先や行動を先々まで理解していて、不気味さが漂う。これこそが兄の霊が送るものではないかと思うモウリーンは兄なのかと問うも答えはない。その間にもパーソナルショッパーの仕事をこなし、雇い主の家へと荷物を届ける。買うものは高級品ばかり。セレブではないが、値札を気にすることなく買い物ができるというこの職業は、結構面白いのではないかと思う。

謎のメールはモウリーンの行動を見ているかのように届く。パーソナル・ショッパーとして雇い主の契約で買い揃えた服や靴を着たり履いたりすることは、禁止されているが、謎のメールはそれを促す。だれでもそうかもしれないが、心の奥底にはセレブリティへの憧れと欲望が潜んでいる。そしてある日、モウリーンが買い物を終えて、雇い主の部屋へ向かうが、どこか様子が変であり、見まわったところ雇い主が惨殺されているのを発見する。さらに、奥の部屋から奇妙な音が聞こえ、不気味な光も見える。モウリーンはその場を逃げ出して警察に向かう・・・

この映画を観ようと最終的に決めたのは、主演が美形のクリステン・スチュワートだから。それはそれで間違ってはいなかったが、いかんせん内要的にストーリーがイマイチだったのはいなめない。タイトルが『パーソナル・ショッパー』ならそれに沿った内容にすべきだと思うが、主人公が霊媒という事でストーリーがぶれてしまう。霊魂の扱いも中途半端。ホラーとしてもミステリーとしてもどっちつかずの内容なのである。その中途半端感が映画の評価を落としている。

いったいこれは何の映画なのか。それが曖昧だったためイマイチの内容になってしまった映画である・・・


評価:★★☆☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年07月31日

【ラストナイト・イン・ソーホー】My Cinema File 2884

ラストナイト・イン・ソーホー.jpg

原題: Last Night in Soho
2021年 イギリス
監督: エドガー・ライト
出演: 
トーマシン・マッケンジー:エロイーズ
アニヤ・テイラー=ジョイ:サンディ
マット・スミス:ジャック
ダイアナ・リグ:ミス・コリンズ
シノーブ・カールセン:ジョカスタ
マイケル・アジャオ:ジョン
テレンス・スタンプ:銀髪の男

<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
ロンドンで別々の時代を生きる二人の女性の人生がシンクロするサイコスリラー。現代と1960年代のロンドンで暮らす女性たちが、夢を通して互いに共鳴し合う。監督と脚本を手掛けるのは『ベイビー・ドライバー』などのエドガー・ライト。『オールド』などのトーマシン・マッケンジー、ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」などのアニャ・テイラー=ジョイ、ドラマシリーズ「ドクター・フー」などのマット・スミス、『コレクター』などのテレンス・スタンプらが出演する。
********************************************************************************************************

主人公のエロイーズ(エリー)は、母を亡くしてから祖母と二人暮らし。そんなエリーの夢はファッションデザイナーであり、その日、エリーの下にロンドンのデザイナー学校から合格通知が届く。祖母と喜びを分かち合うエリーには、亡き母の姿が見える。どうやらエリーには霊感があるようである。田舎町を出てロンドンに行くエリーは、荷造りをしながらも希望に溢れる。そんな孫を応援しつつも心配する祖母は、どこか寂しそうでもある。

ロンドンに着いてタクシーで学生寮に向かうも、セクハラまがいの運転手の言動に都会の洗礼を浴びる。学生寮のルームメイトのジョカスタは、田舎者のエリーをどこか見下している。勉強よりも遊びに力をいれる友達と馴染むことができないエリーは、掲示板で貸し部屋についての広告を見つける。それはソーホーにある一人暮らしの高齢女性の家の一室で、レトロなその部屋をエリーは気に入り、寮を出てこの部屋で暮らすことに決める。

引越しをして最初の夜、シラ・ブラックのレコードをかけて眠りに落ちたエリーは、不思議な夢を見る。夢の中でとある建物に入り、鏡を見ると、写っているのは自分ではなく、見覚えのないブロンドの美女。彼女はサンディといい、歌手を目指してこの店に売り込みに来たのである。オーナーに会いたいというサンディに対し、バーテンダーは「ジャックと話しをしろ」とアドバイスをする。

エリーはサンディの体験を擬似体験する。ジャックはこの界隈で、スターを目指す女性を束ねている人物で、サンディはジャックと交渉して、自らのデビューを約束させ、次の日に会う約束をする。ジャックがサンディの首筋にキスをするが、夢はそこで終わる。リアルな夢に囚われるエリーは、授業に出席した自分の首筋にキスマークがあることに気づく。

次の夜もサンディの夢を見るエリー。それはジャックと恋愛関係に入っていくサンディの体験。魅惑的なサンディと一体感を得たエリーは、髪をサンディのようにブロンドに染め、夢の中でサンディが身にまとっていたドレスを思い出してデザイン案に取り入れる。その変化の様子に周りも驚く。その夜、エリーはサンディの初舞台の夢を見るが、初舞台は大勢のバックダンサーのうちの1人。ステージ衣装も露出度の多い男性客向けのものであり、楽屋へ戻ったサンディに、ジャックは男の客の相手をしろと強要する・・・

どうやらサンディは、1960年代の実在の人物だったとわかってくる。奇しくもエリーと同じ部屋で暮らしており、霊感の強いエリーがサンディの体験を毎夜擬似体験していく。それは華やかな歌手としてのものではなく、スターになれるという甘言で売春婦として扱われるもの。それを擬似体験することでエリーの心も疲弊していく。夢だからまだしも、現実の生活ではバイト先のバーでエリーは怪しい老人に声をかけられる。老人はなぜかサンディを知っているかのような発言をする。

怪しげな展開を深めていくストーリー。同じ部屋に住んでいた過去の人の体験を擬似体験するという内容は、『双葉荘の友人』(My Cinema File 2752)と似たような展開である。そして過去である以上、サンディはその後どうなって今はどうしているのかという疑問へと繋がる。それが後半へと繋がるのであるが、その意外な展開はこの映画のストーリーの妙である。やがて現実の生活でエリーは亡霊たちに付きまとわれるようになる。そして明らかになる真実。

ホラー映画と言えばホラー映画なのであるが、ホラー映画とも言い切れない。エリーに霊感がなければ1960年代に起こったこの事件は誰にも知られる事なく、終わったのかもしれない。そう考えれば不思議な感じであるが、それをまたうまくブレンドしたストーリーの勝利かもしれない。それにしても穏やかな顔のトーマシン・マッケンジーと狐顔のアニャ・テイラー=ジョイとが実に対照的な印象であった映画である・・・


評価:★★★☆☆








posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月04日

【沈黙のパレード】My Cinema File 2811

沈黙のパレード.jpeg
 
2022年 日本
監督: 西谷弘
原作: 東野圭吾
出演: 
福山雅治:湯川学
柴咲コウ:内海薫
北村一輝:草薙俊平
飯尾和樹:並木祐太郎
戸田菜穂:並木真智子
田口浩正:戸島修作
酒向芳:増村栄治
岡山天音:高垣智也
川床明日香:並木佐織
出口夏希:並木夏美
村上淳:蓮沼寛一
吉田羊:宮沢麻耶
檀れい:新倉留美
椎名桔平:新倉直紀

<シネマトゥデイ>
********************************************************************************************************
『容疑者xの献身』 『真夏の方程式』に続く、東野圭吾の小説を原作にした『ガリレオ』シリーズの劇場版第3弾。殺人事件の関与を疑われていた男の不可解な死の真相を、物理学者の湯川学らが解き明かしていく。監督の西谷弘、湯川役の福山雅治、内海薫役の柴咲コウ、草薙俊平役の北村一輝と、スタッフ、キャストにはおなじみのメンバーが顔をそろえている。
********************************************************************************************************

原作ではすでに何作も出ている『ガリレオ』シリーズであるが、映画化作品はまだ三作目なのかというイメージであったが、とにもかくにも第三弾である。

冒頭、どこかの町の夏祭り。町ののど自慢大会に出演したのは高校生の並木佐織。その歌唱力でまわりの者を驚かせる。審査員を務めていたプロデューサーの新倉直紀と妻の留美は、その才能を見出し、声をかける。佐織には「なみきや食堂」を営む父祐太郎と母真智子がいる。渋る父親を説き伏せた佐織は、新倉家に通い、歌手デビューに向けてレッスンを受ける。高垣という彼氏もでき、前途洋々だったが、ある日突然失踪する。

3年後、静岡県で民家が焼失し、中から家の主の遺体とともに、もう一体の遺体が発見される。鑑定の結果、遺体が佐織であること、頭蓋骨の陥没があり、殴られたことが死因であることが判明する。そしてその家の息子・寛一が重要参考人として捜査線上に浮かぶが、その名前を聞いた草薙は15年前の少女殺害事件を思い出す。それは若かりし頃の草薙が取り調べを担当したが、完黙のまま黙秘を続け、裁判で無罪を獲得していた男であった。

事件の担当となった草薙警部は、過去の少女殺害事件と同様、蓮沼の完黙の前になす術がない。内海刑事は湯川学の下を訪ね、事件の捜査に協力を依頼する。たまたま調査研究協力でその町に長期滞在中だった湯川は、捜査に協力することにし、内海とともになみきや食堂を訪れる。湯川は、なみきや食堂の常連客たちと交流を深めていくが、ある日黙秘を突き通して釈放された蓮沼が食堂を訪れる。騒然とする中、蓮沼は祐太郎に賠償金を請求するという挑発行為に出る。その場に居合わせた湯川は、その場にいた人々を静かに傍観する。

時に町では恒例イベントである仮装パレードが開催される。なみきや食堂の常連たちもパレードに参加する。そしてパレードを見物する湯川のもとに、蓮沼が殺害されたという知らせが入る。蓮沼は町に住む元同僚の家の一室に間借りしていたが、その部屋で窒息死していた。捜査にあたった草薙と内海は、現場の状況から犯人が蓮沼に睡眠薬を飲ませて部屋に閉じ込め、小さな穴から液体窒素を送り込んだと睨む。

捜査の結果、祐太郎の親友である戸島の工場の液体窒素を、高垣が運んだという事実を突き止める。高垣はこれを認めたが、運んだだけとわかる。さらに殺害の意図はなく、蓮沼を懲らしめるだけの計画だったと話す。さらに今回の事件は、15年前の少女殺害事件と関係があると考えた湯川は、草薙に関連性の調査を依頼し、その結果、蓮沼に部屋を貸していた増村が15年前の少女殺害事件の被害者の叔父であることを突き止める・・・

ガリレオシリーズに限らず、東野圭吾の小説はストーリー展開の面白さと濃厚な人間ドラマが魅力的である。この物語も例外ではない。1人の女性が殺害され、その容疑者が過去にも完黙で容疑を免れた男というもの。その憎むべき男が殺害されるという事件が起こり、湯川が頼まれて解決に乗り出す。事件は単純なようでいて、ふたを開けてみれば、実はまったく異なるストーリーが流れている。そして登場人物たちには、みなそれぞれに同情すべき事情を抱えている。単に真相を明らかにして終わるのではなく、そこからまた心動かされてしまうところがある。

主演の福山雅治であるが、いつの間にかガリレオ=湯川学のイメージが定着してしまっている。原作のイメージといつの間にか一致している感じであり、原作を読んでも福山雅治が出ているように感じてしまう。原作を読んでいるので、ストーリーに目新しさはないが、映像で観るのもまた良しというところがある。同じ東野圭吾の原作の映画化ではあっても、『さまよう刃』(My Cinema File 757)をはじめとした作品が、面白くなくなっているのに比べると、このガリレオシリーズは、原作の持つ面白さを比較的損なわずに映像化できていると思う。

事件はほんのちょっとした対応で起こらなかったと言える。殺人という悪意を招いてしまったのは、人間の弱さである。防ぎようのない悪意ではなかったことが残念でもある。映画を観ながら、そんな事を考えてしまった。実に深い原作であり、映画である・・・


評価:★★☆☆☆











posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする