
2019年 日本
監督: 若松節朗
原作: かわぐちかいじ
出演:
西島秀俊:秋津竜太(いぶき艦長)
佐々木蔵之介:新波歳也(いぶき副長)
藤竜也:涌井継治(群司令)
戸次重幸:淵上晋(第92飛行群群司令)
市原隼人:迫水洋平(アルバトロス隊隊長)
玉木宏:瀬戸斉昭(はつゆき艦長)
高嶋政宏:滝隆信(はやしお艦長)
山内圭哉:浮船武彦(いそかぜ艦長)
佐藤浩市:垂水慶一郎(内閣総理大臣)
益岡徹:石渡俊通(官房長官)
本田翼:本多裕子(ネットニュース記者)
中井貴一:中野啓一(コンビニエンスストア店長)
<映画.com>
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「沈黙の艦隊」で知られるかわぐちかいじ原作のベストセラーコミック「空母いぶき」を、西島秀俊と佐々木蔵之介の共演で実写映画化。国籍不明の軍事勢力から攻撃を受ける中、それぞれの立場で国民の命と平和を守るため奔走する者たちの姿を描く。世界が再び「空母の時代」に突入した20XX年。日本の最南端沖で国籍不明の軍事勢力が領土の一部を占拠し、海上保安庁の隊員を拘束する事態が発生。未曾有の緊張感に包まれる中、政府は初の航空機搭載型護衛艦「いぶき」を中心とした護衛艦群を現場に派遣するが……。西島が、航空自衛隊のパイロットとしての実績を買われていぶき艦長に抜擢された秋津竜太、佐々木が、海上自衛隊の生え抜きながら副長に甘んじる新波歳也を演じる。監督は「沈まぬ太陽」『ホワイトアウト』などの大作を手がけてきた若松節朗。脚本は「機動警察パトレイバー」の伊藤和典と『亡国のイージス』の長谷川康夫。『ローレライ』 『亡国のイージス』などで知られる作家の福井晴敏が企画に携わっている。
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日本についに空母が導入されたありうる近未来。
時は12月23日。沖ノ鳥島西方の初島付近に国籍不明の20隻の船団が現われる。巡視船くろしおが警備にあたっていたが、船団から突如銃撃を受ける。船団はくろしおの乗組員を拘束すると初島に上陸する。ただちに政府に一報が入ると、垂水総理大臣や石渡官房長官、外務大臣や防衛大臣などが招集され、対策が協議される。そして空母いぶき(と言っても世間体を憚ってか「航空機搭載型護衛艦」と称される)および護衛艦4隻、潜水艦1隻の護衛艦隊を派遣する。
ちょうど訓練航海中だったいぶきには、2名の記者が取材のために乗り込んでいる。国籍不明の船団はやがて“東亜連邦”の所属と判明する。海上警備行動に入ったいぶきだが、突然ミサイルを発射する。防空体制で応じるも、一部が被弾し、戦闘機用のリフトが故障してしまう。緊急事態に記者は部屋で待機するよう言われる。記者としては絶好のスクープであるが、事前の協定によって情報統制を受けている。
さらに敵対行動を取る東亜連邦軍は、ミグ60機を搭載した空母グルシャを現場に向かわせており、その前には潜水艦が先行している。護衛艦隊の潜水艦はやしおがこれに対峙する。東亜連邦の潜水艦はいぶきに接近し、護衛艦隊には緊張感が漂う。専守防衛を旨とする自衛隊とすれば、敵に攻撃を受けての応戦は国民に対しても国際社会に対しても言い訳が立つが、先制攻撃はそうではない。しかし、先制攻撃を許していぶきの沈没を招けば被害は甚大である。
結局、東亜連邦の潜水艦は攻撃することなく、いぶきの真下を通過する。そんな緊張下、群司令の涌井が倒れ、指揮権が艦長の秋津に委譲される。いぶきの艦橋では、「攻撃やむなし」を主張する艦長の秋津と「攻撃はするべきではない」と主張する副長の新浪の意見が対立する。そうした中、偵察行動をしていた空自機2機が、東亜連邦軍機に撃墜され、自衛隊初の戦死者が出る。政府内では垂水総理に史上初の「防衛出動」を命じるべきだとの意見が出る・・・
原作はこの手の軍事モノが特異なかわぐちかいじの漫画。原作漫画はすべて読んだわけではないが、中国が突如として侵略してくるストーリーになっていた。あえて架空の「東亜連邦」にしたのは、中国を刺激しないための配慮なのかもしれない。現実的には、尖閣諸島を巡る動きから、中国の侵略という原作漫画の方がよりリアリティがある。あえて中国との衝突があるとしたらこんな感じなのかもしれないと思ってみたりする。
空母いぶきとは名打ってはいるものの、敵の戦闘機や潜水艦などと戦火を交えるのは潜水艦と護衛艦が中心。一応、空母から艦載機が飛び立つものの、空母が中心的な活躍をするわけではない。だが、迎撃ミサイルを発射したり、戦闘機同士の空戦などの戦闘シーンはそれなりの迫力がある。こうした戦闘シーンはこうした実写映画の見どころの一つだろう。
ドラマの合間にとあるコンビニエンスストアの様子が描かれる。何もなければクリスマス商戦で湧きかえるところ。しかし、炎上する護衛艦の姿がネットニュースで流れ、総理の緊急会見が開かれると、買いだめに走る市民が殺到する。政府内では強硬派と慎重派の意見が対立し、無邪気で平和な世間との対比が浮き彫りにされる。強硬派がいいか慎重派がいいかというのではなく、こうした事態になった時にどうすべきなのかといつの間にか考えている。
護衛艦隊、政府、世間(コンビニ)という3つの現場がそれぞれ描かれ、ストーリーそのものよりもこうした事態が生じた場合はどんな事が起こるのか、そういうシミュレーションを見せてくれるという意味では、意義深い映画である。平和が一番であるし、我が国から軍事行動を起こすことはないものの、周辺国もそうだとは限らない。それに備えるべきなのか、それとも備えること事態が過剰なのか。そうしたこともこの映画は考えるヒントを与えてくれる。
季節もクリスマスという平和の象徴的な時期というのも物語の背景を彩る。豪華俳優陣のキャストでいろいろと楽しめる内容である。原作漫画は読み終えてはいないが、映画とはだいぶ雰囲気が違うようだし、それはそれで読んでみたいと思う。表面だけ観ると軽いが、考えると深い映画である・・・
評価:★★☆☆☆