2023年12月31日

【ア・フュー・グッドメン】My Cinema File 2791

ア・フュー・グッドメン.png

原題: A Few Good Men
1992年 アメリカ
監督: ロブ・ライナー
出演: 
トム・クルーズ:ダニエル・キャフィ
ジャック・ニコルソン:ネイサン・R・ジェセップ
デミ・ムーア:ジョアン・ギャロウェイ
ケヴィン・ポラック:サム・ワインバーグ
キーファー・サザーランド:ジョナサン・ケンドリック
ケヴィン・ベーコン:ジャック・ロス

<映画.com>
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キューバ米海軍基地で起った不審な殺人事件の真相を探る若き弁護士の姿を中心に、軍隊内の組織悪を暴く過程での、登場人物たちの人間的成長を描くドラマ。監督は「ミザリー」のロブ・ライナー。映画の主要部分を成す法廷場面は、カリフォルニアのカルバー・スタジオに巨大セットを組んで撮影された。製作はライナーと、『JAWS・ジョーズ』のデイヴィッド・ブラウン、「スタンド・バイ・ミー」のアンドリュー・シェインマン。エグゼクティブ・プロデューサーはウィリアム・S・ギルモアとレイチェル・フェファー。ブロードウェイでロングラン・ヒットとなったアーロン・ソーキンの舞台劇を基に、彼自身が脚色。撮影は「JFK」のロバート・リチャードソン、音楽は「シティ・スリッカーズ」のマーク・シェイマンが担当。トム・クルーズ、ジャック・ニコルソン、デミ・ムーアなど豪華なスターが競演している。
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この映画が公開されたのは、もう30年も前になる。当時売り出し中だったトム・クルーズ主演であり、さらに個人的にファンであったデミ・ムーアとの共演という事で前のめりで観た記憶がある。そして深い余韻とともに記憶に残っている作品である。ふと、もう一度観てみたくなり、2023年最後の作品として再鑑賞に至る。

物語はキューバにあるグァンタナモ米軍基地で就寝中のサンティアゴ1等兵にドーソン上等兵とダウニー1等兵とが襲い掛かる。手足を縛り上げて暴行を加えたところ、サンティアゴ1等兵は1時間後に死亡するという事件が起きる。ワシントン法務監査本部の内務課に勤務する法務官のジョアン・ギャロウェイ少佐は、上司にこの事件の弁護をさせて欲しいと申し出る。しかし、上司はジョーの希望を受け入れず、海軍法務総監部の法務官ダニエル・キャフィ中尉にオーナー弁護士を依頼することを決定する。

実はこの事件は、「コードR(レッド)」と基地内で呼ばれる規則違反やミスをした兵士に対する制裁措置が取られた可能性があり、上層部は事件を早期解決させる必要があるとの判断から、新米だが司法取引に長け、9か月で44件の示談を成功させた法務官のキャフィに白羽の矢を立てたのである。さらにサム中尉を補佐として任命する。命令となれば、不服であっても従わなければならない。ジョアンはさっそくキャフィに会いに行く。

ところが、キャフィは2人の弁護よりも野球の試合が大事で練習に余念がない。示談で手早く済ませてしまおうと考えるキャフィと、法廷で2人の無実を証明するべきだと考えるジョーとはことごとく対立する。ドーソンらは、暴行したことは認めるが殺してはいないと主張していたが、軍医の診断は口に押し込んだ布に毒が染み込ませてあったと殺人を匂わせる。ドーソンたちはあくまでも海兵隊の規律を守るために、上司のケンドリック中尉の命令(コードR)に従っただけであると訴えている。

実は被害者のサンティアゴは訓練について行けず、転属を望んで各所に手紙で訴えていた。その中で、基地外への違法発砲の証言を匂わせており、これを知った基地の最高責任者であるジョセップ大佐は、厳しい指導を命じていた。すなわち、これが「コードR」である。部下のマーキンソン中佐はこの決定に反対し、サンティアゴを転属させるべきだと主張するが、ジェセップは国家安全保障会議のメンバーでもある実力者であり、その決定には誰も歯向かえなかった。

キャフィは、ジョアンとサムを伴い、キューバのグァンタナモ基地に行き、ジョセップたちから事情を聞く。ジェセップは、サンティアゴの転属を許可し、朝一番の便でキューバを離れる予定だったと主張する。それを覆す材料はどこにもなく、キャフィは早々に示談にすべきとの考えに従って処理しようとする。しかし、ジョアンはこれを良しとせず、キャフィの考えに反対し、法廷で戦うことを主張する。

キャフィは有能であるが、実に軽い男。トム・クルーズの演じる男にはそういう男が多い。そして有能であり、それゆえに裁判をしても勝てないと早々に判断し、被告の2人にとってもっとも罪が軽くなる方法を考え、検察側の検事であるロス大尉としばしば処分の落としどころを話し合う。有利な状況をかき集め、罪は話し合うたびに軽くなっていく。一方、真面目なジョアンはキャフィのお手軽な解決策を良しとしない。あくまで無罪での法廷闘争を主張し、キャフィを突き上げていく。この2人の対立は実に面白い。

最後は被告2名の意志が尊重される。2人はあくまでも上司の命令に従って制裁を加えたものであり、死亡したのは予想外の事故だと考える。キャフィの主張する減刑では有罪であることを認めることになり、たとえわずかな懲役で出所できたとしても海軍を不名誉除隊しなければならず、そんなことは断じて選びたくないと考える。結局、キャフィはジョアンの熱意とこの2人の意志とにより、渋々法廷闘争の方針に切り替える。

このやり取りも実に面白い。キャフィは単に面倒だからお手軽に司法取引にしようとしているのではなく、状況証拠から「勝てない」と判断している。裁判をして意志を通すのもいいが、結果として有罪となり、10年あるいは20年の懲役になるよりいいだろうと考える。そしてそれはある意味正論でもある。実際、ジェセップ大佐は、その力でもって徹底して証拠隠滅を図っており、勝てる見込みは極めて少ない。こうした状況下で、軍事裁判が開始される。

ストーリーはラストの裁判に向けて進んでいく。あの手この手で被告に有利な材料を集めるキャフィたち弁護士グループ。状況は二転三転する。最後までスリリングな展開が続く。そしてラストでいよいよラスボス、ジェセップ大佐とキャフィが対峙する。このジェセップ大佐を演じるのが、ジャック・ニコルソン。自信過大で傲慢な言動は憎々しいほど。しかし、そこには最前線であるグァンタナモ基地を預かっているという自負がある。その姿は間違いなくこの映画の成功要因である。

実際のところはよくわからないが、ジェセップのような大物を裁判に呼び出し、そこで下手にその名誉を傷つければ、逆にキャフィが軍事法定で罪を問われるとされる。それでも戦うことを選んだキャフィに胸が熱くなる。トム・クルーズもデミ・ムーアも実にいい。そして感動的なラスト。間違いなく、トム・クルーズの初期の代表作と言えるだろう。こういう映画は、何度観ても心に残るものである。1年の最後を締めくくるにふさわしい一作である・・・


評価:★★★★☆









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2022年05月13日

【バック・トゥ・ザ・フューチャー】My Cinema File 2547

バック・トゥ・ザ・フューチャー.jpeg

原題: Back to the Future
1985年 アメリカ
監督: ロバート・ゼメキス
出演: 
マイケル・J・フォックス:マーティ・マクフライ
クリストファー・ロイド:ドク/エメット・ブラウン博士
トーマス・F・ウィルソン:ビフ・タネン
リー・トンプソン:ロレイン・ベインズ・マクフライ
クリスピン・グローヴァー:ジョージ・マクフライ
クローディア・ウェルズ:ジェニファー・パーカー

<映画.com>
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スティーブン・スピルバーグ製作総指揮の下、ロバート・ゼメキス監督が手がけ大ヒットを記録したSFアドベンチャー。1985年、高校生のマーティ・マクフライは、近所に住む科学者のエメット・ブラウン博士(通称ドク)が愛車デロリアンを改造して開発したタイムマシンの実験を手伝うが、誤作動で1955年の世界にタイムスリップ。タイムマシンは燃料切れで動かなくなってしまう。困ったマーティは1955年のドクを探し出し、事情を説明して未来に戻る手助けをしてもらうことになるが、その過程で若き日の両親の出会いを邪魔してしまう。このままでは自分が生まれないことになってしまうため、マーティは未来に戻る前になんとか両親の仲を取り持とうと奮闘する。1985年製作・公開。2020年12月、35周年を記念して4Kニューマスターの日本語吹き替え版(マーティ=三ツ矢雄二、ドク=穂積隆信の日曜洋画劇場版)および字幕版で上映。
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数多くの映画を観ていると、「もう一度見て観たい」と思わせてくれる映画がそれなりにある。印象的な映画は細部にわたって記憶に残っているが、それでもなお、「もう一度観たい」と思わせてくれる映画はある。この映画は、そんな「もう一度観たい」と思わせてくれる映画である。

映画の舞台は、製作年と同じ1985年。もう37年前となる。主人公は、カリフォルニア州の架空の街ヒルバレーに住む高校生のマーティ・マクフライ。10月25日の朝、マーティはいつものように気の合う科学者のエメット・ブラウン博士(ドク)の家を登校前に訪れる。何やら何日か留守にしている様子。そしてTVからはリビアのテロ組織が研究施設からプルトニウムを奪ったとの物騒なニュースが流れている。

そこにドクからメーセージがきて今夜午前1時15分にショッピングモールの駐車場に来て秘密の実験を手伝うよう頼まれる。そのまま登校するが遅刻したマーティは、教頭に怒られる。授業より音楽に夢中のマーティは、バンドのオーディションを受けるが不合格。そんな彼を恋人のジェニファーが慰める。マーティは次の日の夜、父の車を借りてジェニファーとデートする約束をして心が浮き立つ。そんなごく普通の高校生である。

マーティは3人兄弟の末っ子。母親のロレインはこの時代にそうだったように、男女交際にはちょっとお堅いところがある。父親のジョージはさえないセールスマン。高校時代の同級生であるビフが上司であるが、ビフに都合よく扱われている。その朝も父の車を借りたビフが、こともあろうに飲酒運転で事故を起こし、しかもその責任を父に押し付ける有様。そしてそんなビフに何も言い返せず言われるがままになっている。そんな気の弱い父と母ロレインは、ロレインの父が車でジョージをはねたのがきっかけで、恋に落ち結婚したと語る。

ヒルバレーには30年前に落雷を受け、止まってしまった古い時計塔がある。選挙で当選した黒人市長ウィルソンに、時計塔の保存を訴える会が活動している。その運動のチラシをマーティは何気なく受け取る。そうした出来事がすべてのちの伏線となるところがこの映画の面白いところである。そしてマーティは、ドクの実験に協力するため、ビデオカメラを掴んで、モールの駐車場へと向かう。そこにはドクがタイムマシンに改良したデロリアンとともに待っている。かつてロスのユニバーサル・スタジオに旅行した時、展示してあるデロリアンを見て感激したことを思い出す。

まずは愛犬アインシュタインを乗せ、実験を開始するドク。アインシュタインをタイムマシンで、1分後の世界に送る実験は成功する。車が時速88マイル(約142q)に加速することによってタイムトラベルが可能となる。半信半疑のまま、実験をビデオカメラで撮影するマーティだが、ドグがタイムマシンの原理を思いついた記念すべき日の1955年11月5日をセットしたところでリビア人がやってくる。タイムマシンを動かす燃料はプルトニウムであるが、どうやらドクが彼らを騙してそれを手に入れたようである。

テロリストはマーティの目の前でドクを射殺し、なおもマーティを狙う。テロリストに追われたマーティはデロリアンで逃げる。慌ててアクセルを踏むうちに速度は88マイルに達し、マーティは時間を飛び越えてしまう。着いた先は1955年の世界。マーティは燃料の切れたデロリアンを隠し、町の中心部に向かう。落雷で停止したはずの時計塔は時を刻み、1985年の世界ではファッションアイテムのダウンベストは救命胴衣だと思われる。何とかして元の時代に戻ろうと、マーティはこの時代にいるドクに助けを借りようとする・・・

タイムトラベルした先が未来であれば何の問題もなかったであろうが、技術の劣る過去というのがこの物語の面白いところ。ダイナーでは若き日の父ジョージに出会い、現代同様、ここでもビフとその仲間たちにジョージは馬鹿にされている。言いなりのジョージに、ダイナーの黒人従業員が声をかける。マーティは彼が1985年のヒルバレー市長ウィルソンだと気付くと、あなたは将来市長になるとマーティは告げ、その言葉を聞いて黒人従業員はその気になる。

未来へ戻る(Back to the Future)ために奮闘するマーティ。あろうことか若き日の母ロレインに惚れられ、歴史が変わる危機が生じる。面白おかしく進むストーリー。展開がわかっていてもやっぱり面白い。当時のアメリカ大統領は元俳優のロナルド・レーガン。ドクに未来の大統領は誰かと聞かれ、マーティはそのまま答えるが、1955年では人気のなかった俳優が未来の大統領と聞かされ、ドクは呆れるが、当時はなかなか笑えたシーンである。

ストーリー以外に未来と過去のギャップが描かれる。スケートボードもそんなアイテムの一つ。そしてプルトニウムと言えば、核兵器用しかなかった時代に1.21ギガワットの電力を得るためことは不可能であるが、そんな電力をこの時代に得るたった一つの方法がわかる。ハラハラドキドキの展開。両親の仲も取り持たなければならない。最後の最後まで気を抜くところがない。改めて、当時の思い出が蘇る。既に37年の月日が経っていて、色褪せた部分も多いが、核心部分の面白さは変わらない。

今改めて観ても十分楽しめる。「タイムマシンが本当に実現したら」。そんな夢を今でも見させてくれる名画である・・・


評価:★★★★☆







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2022年02月12日

【浅草キッド】My Cinema File 2514

浅草キッド.jpeg

2021年 日本
監督: 劇団ひとり
原作:ビートたけし
出演: 
大泉洋:深見千三郎
柳楽優弥:ビートたけし
門脇麦:千春
土屋伸之:キヨシ
鈴木保奈美:麻里

<映画.com>
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ビートたけしが自身の師匠である芸人・深見千三郎と過ごした青春をつづった自伝「浅草キッド」を映画化。劇団ひとりが監督・脚本を手がけ、多くの人気芸人を育てながらも自身はテレビにほとんど出演しなかったことから「幻の浅草芸人」と呼ばれた師匠・深見や仲間たちとの日々と、芸人・ビートたけしが誕生するまでを描き出す。昭和40年代の浅草。大学を中退し、「お笑いの殿堂」と呼ばれるフランス座のエレベーターボーイをしていたタケシは、深見のコントにほれ込んで弟子入りを志願。ぶっきらぼうだが独自の世界を持つ深見から、“芸ごと”の真髄を叩き込まれていく。歌手を目指す踊り子・千春や深見の妻・麻里に見守られながら成長していくタケシだったが、テレビの普及とともにフランス座の客足は減り、経営は悪化していく。やがてタケシはフランス座の元先輩キヨシに誘われ、漫才コンビ「ツービート」を結成。深見の猛反対を押し切ってフランス座を飛び出し、人気を獲得していく。深見を大泉洋、タケシを柳楽優弥が演じる。Netflixで2021年12月9日から配信。
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ビートたけしの自伝「浅草キッド」を映画化した作品ということで、興味を持って観た一作。

時に1974年。まだ売れる前のツービート(まだ松鶴家タケシ・キヨシの時代)は、地方のどさ回りをしている。舞台はキャバレー。酔客のお目当てはホステスであり、漫才には見向きもしない。キレたたけしは、舞台上から客を罵倒して喧嘩になってしまう。今は推しも推されもしない大スターだが、下積み時代のにはこんな苦労もあったのであろう。

物語はその2年前の浅草に戻る。たけしは浅草フランス座でエレベータボーイとして働いている。当てもなく大学を中退し、深見師匠の芸にほれ込み、芸人を目指すためにフランス座で働いている。ある日、師匠に声をかけられたたけしは、何も芸がないと告白すると、「芸を磨け」とアドバイスを受け、タップダンスを伝授される。それから暇をみてはタップダンスの練習に明け暮れるたけし。そしてその様子を深見は遠巻きに目を細めて見守る。

そしてある日、先輩が急遽舞台に出られなくなり、深見師匠はたけしを代役に任命する。ここぞとばかりに張り切ったたけしは、女役だったたこともあり、大袈裟なメイクをするが、師匠からは逆に叱責される。以来、事あるごとにたけしを引っ張り出す師匠。飲みに行ってもさり気なく笑いをとる術を教える。「笑われるんじゃねぇよ、笑わせんだよ」という言葉は、素人目にも心酔したくなる師匠ぶりである。

そんな師匠の指導にたけしも応える。タップダンスの練習は暇さえあればやっている。ある時、師匠の専用靴を見つけ、思わず履いて踊る。それを密かに見ていた師匠は、恐縮して謝るたけしに「素人が履いた靴はもう履けないからくれてやる!」と靴を譲る。言葉とは裏腹に愛情溢れる師匠ぶり。そして「やっぱり500円にまけてやる」と言って観る者を笑わせる。

たけしの才能を感じ取った深見は、フランス座に住み込んでいたたけしに住む場所も提供する。と言っても自分達が住んでいたアパートの空き部屋だが、その家賃も払ってやる。胸を打つのはその懐事情。師匠とは言え、浅草フランス座の経営は年々厳しくなっている。奥さんは愚痴を言うこともなく、師匠がたけしたちを連れて飲みに行くのになけなしのお金を出す。この内助の功も心に響く。

たけしがツービートとして大ブームになることを観る者は知っている。物語はそんな未来へ順風満帆に進んでいくのかと思いきや、さにあらず。フランス座の観客は年々減少する。世はテレビが次第に人々の生活に浸透する。芸を磨いても、観に来る客の目当てはストリップという現実。師匠の深見はそんな世の中の動きに反し、テレビに背を向ける。そんな時、かつてフランス座で働いていた先輩のキヨシが、たけしに一緒に漫才をしないかと誘いにくる・・・

師匠のことを考えれば、師匠が背を向けるテレビに行くことはできない。しかし、自分の将来を考えるならフランス座に居ても未来はない。それを象徴するかの如く、ある日たけしはストリップ嬢にインコの世話を怠ったと怒鳴られる。自分の芸の練習の方が大事であるが、「客が見にきているのは裸」と言われてしまう。師匠を裏切って自分の未来にかけるか、師匠に殉じて売れないままで終わるか。フランス座を辞めて漫才師を目指すことを決意したたけしは師匠に怒鳴られてフランス座を後にする・・・

たけしを演じるのは柳楽優弥。これまで脇役作品しか観たことがなかったが、ここでのたけしぶりは驚嘆レベル。特徴あるたけしの所作がそのままで、本人の若い頃を見ているようであった。そして大泉洋の深見師匠も粋な師匠ぶりで、人を笑わせる部分は絶妙。それを支える妻の鈴木保奈美もいい奥さんで、いつの間にかドラマの世界に深くひきこまれていく。涙あり、笑いあり。

ラストで、ツービートとして大成功したたけしが、手にした日本放送演芸大賞の目録を持って、袂を分かった深見師匠に会いに来るシーンは圧巻。既に亡くなっていた師匠の妻の仏壇に手を合わせ、ツッコミをし合う。そのまま飲みに行って居酒屋にいた人たちを2人で笑わせ、師弟水入らずの時間を過ごす。涙を流しながら笑いが止まらず、2人の様子が深く心に響いてくる。正直、ここまで心を震わされるとは思ってもみなかったが、たけしの師匠に対する愛情が深く伝わってくる。

登場人物たちもみなそれぞれにドラマを持っている。その一つ一つが、古き良き時代の香りを運んでくる。観終わって深い満足感に満たされる。たけしって本当にすごいなと改めて思わされる。深く心に残る映画である・・・


評価:★★★★★








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2017年03月12日

【ちはやふる-下の句-】My Cinema File 1700

ちはやふる-下の句-.jpg

2016年 日本
監督: 小泉徳宏
出演: 
広瀬すず:綾瀬千早
野村周平:真島太一
真剣佑:綿谷新
上白石萌音:大江奏
矢本悠馬:西田優征
森永悠希:駒野勉
清水尋也:須藤暁人
松岡茉優:若宮詩暢
松田美由紀:宮内妙子
國村隼:原田秀雄
坂口涼太郎:木梨浩

<シネマトゥデイ>
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競技かるたを題材にした末次由紀の人気コミックを、『海街diary』などの広瀬すず主演で実写映画化した『ちはやふる』2部作の後編。競技かるたに情熱を注ぎ全国大会を目指す高校生たちの物語を、前作同様『タイヨウのうた』などの小泉徳宏監督が描く。ヒロインの幼なじみを野村周平と真剣佑が演じるほか、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希、清水尋也らが共演。クイーンとしてヒロインの前に立ちはだかるライバルに松岡茉優がふんし、広瀬と真っ向勝負を繰り広げる。
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 予想外の面白さに待ちきれない思いで後編を鑑賞。前編の最後で「かるた」をやめると宣言した競技かるたの天才児新。物語は新たな展開を迎える。全国大会出場を決めた都立瑞沢高校かるた部。創部していきなり全国大会かという突っ込みは、まぁマイナースポーツのかるただから「さもありなん」と受け止めたい。意気上がるメンバーだが、千早は「クイーン」の存在を知ってしまう。自分と同じ高校生ながらのかるたの女王。

 打倒クイーンにのめり込む千早。そこにはかるたをやめると寂しく宣言した新を翻意させたいという思いが滲む。ところが競技かるたは、団体戦と個人戦では勝手が違うようで、個人戦に突っ走る千早を部長の太一は引き留めるが、「聞く耳持たず」。さらにクイーンは左利きであり、その対策に頭が一杯になる。せっかくまとまりかけたメンバーなのに、ギクシャクした状態で、全国大会の日が迫る。

 ただでさえ練習時間が惜しいのに、猛暑の中でエアコンのない部室と、吹奏楽部の練習音に悩まされることになる。二重苦三重苦を抱えたかるた部。こうした苦難を乗り越えるのも面白いストーリーには必要である。個人戦に走っていた千早がチームに戻ったのは、意外な力が働いたもの。太一部長の下、メンバーはさらに一体感を増し、幼馴染三人衆の中では一番弱かった太一が本当にかるたに目覚め、そして高みを目指してA級を取得する。

 対立していた吹奏楽部とは意外な方法で対立を解消する。吹奏楽部のかるた部に対する返礼もさわやかである。そして全国大会。新は新で千早に心を動かされて会場に来る。そして圧倒的な強さを誇るクイーン。先を読ませない展開は、それだけでどう転ぶかわからない面白さがある。時にくすっと笑わせる要素もあり、「かるたなんて」とバカにしていたのに、物語の世界にすっかり引きずり込まれる。

 男二人と女一人の恋愛模様は意外にもその方向へ進まず、それがこの映画を安易なラブストーリーと一線を画すものにする。これもまた良し。気がつけば大きく心を震わされる展開。これほどの映画だとは予想すらできなかった。単純と言えば単純なのかもしれない。だが、自分自身こういう映画に素直に感動できる自分でいたいと常々思っているので、笑われても気にしないところである。

 前編後編のセットで早くも個人的に今年度1にしたい映画である・・・


評価:★★★★★









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2017年03月10日

【ちはやふる-上の句-】My Cinema File 1698

ちはやふる-上の句-.jpg

2016年 日本
監督: 小泉徳宏
出演: 
広瀬すず:綾瀬千早
野村周平:真島太一
真剣佑:綿谷新
上白石萌音:大江奏
矢本悠馬:西田優征
森永悠希:駒野勉
清水尋也:須藤暁人
松岡茉優:若宮詩暢
松田美由紀:宮内妙子
國村隼:原田秀雄
坂口涼太郎:木梨浩

<シネマトゥデイ>
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『海街diary』などの広瀬すずを主演に迎え、末次由紀のコミックを実写化した青春ドラマ。競技かるたをテーマに、主人公と仲間たちのひたむきな情熱や夢を描く。『男子高校生の日常』『日々ロック』などの野村周平と、アクションスター千葉真一の息子である真剣佑がヒロインの幼なじみを好演。人気俳優たちの共演による、きらめく青春の日々に胸がときめく。
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 本来、まったく観るつもりもなかったのだが、映画好きの友人が好評価していたので観てみる気になった作品。前後編に分かれている青春映画というと、なんとなく『僕等がいた』を思い出してしまうが、その好印象があったのも事実である。

 物語の舞台は都立の瑞沢高校。ここでは全員が部活動に入らないといけない。そして主人公の綾瀬千早が一人かるた部を立ち上げるべく奮闘している。新しい部の創設条件はメンバーを5人以上集めること。もともと幼馴染の真島太一を引き込んだ千早は、競技かるたの経験があった西田、未経験だが日本の文化を愛する奏、机とあだ名される孤高の駒野を口説き落とし創部に漕ぎ着ける。

 そもそも千早は太一と綿谷新という3人で「競技かるた」をやっていた。しかし、ある日新は転校して行ってしまう。祖父が競技かるたの第一人者であったこともあり、新の競技かるたの腕前も凄い。密かに千早に心惹かれる太一は、そんな新に嫉妬心を抱いている。高校生になった千早は、「競技かるた部」を創設し全国大会を目指すが、その根底にそこで新に会いたいという気持ちが滲む。

 男二人と一人の女という恋愛パターンはもう語り尽くされている。そしてその多くのパターンが、「男→女→男」というパターン。この映画では、「太一→千早→新」となっている。太一はどうしても勝てない新に勝ちたくて、新のメガネを隠したこともある。そうした後ろめたさを抱えたまま、無邪気にかるたを追求する千早に寄り添う。「近くにいた方が有利」と信じて。

 青春をかける対象は、よくスポーツなどが絵になるが、ここではそれが「かるた」。正直言って、そんなドラマ「見たい」と思わない。ところがこれが意外に面白い。勝利を目指して仲間たちとともに努力するという点では、かるたであっても野球やサッカーやラグビーのようなスポーツと同じ面白さを追求できるものである。いつのまにか熱くドラマの世界に浸っている。

 目の前に立つライバルと、仲間たちとの友情がある。そして太一も少しずつ成長していく。最後のところで自信が持てず、ツキの神様にも見放されていて、そしてそれは過去の自分の卑怯な行いにあると気が付いている。しかし、最後の東京都の決勝戦で、太一は精神的に大きく成長する。気がつけば胸が熱くなっている・・・

 いい映画ではないかと一人思う。これほどとは予想していなかったのが正直なところ。
物語はまた異なる展開の様相を見せて後編へと続く。
 後編も大いに期待できそうな前編である・・・


評価:★★★★☆





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