
1948年 日本
監督: 小津安二郎
出演:
佐野周二:雨宮修一
田中絹代:雨宮時子
三宅邦子:井田秋子
笠智衆:佐竹
村田知栄子:織江
文谷千代子:房子
東野英治郎:彦三
長船フジヨ:あや子
青木放屁:正一
長尾敏之助:医者
岡村文子:女将
清水一郎:古川
坂本武:家主
婦谷よしの:看護
<映画.com>
********************************************************************************************************
「受胎」につぐ久保光三の製作で、「シミキンの結婚選手」の斎藤良輔と小津安二郎の協同脚本を「長屋紳士録」以来の小津安二郎が終戦後第二回作品として監督する。カメラは「長屋紳士録」の厚田雄春が「旅裝」についで担当。主演は「噂の男」「追跡者」につぐ佐野周二と「夜の女たち」につぐ田中絹代で、「富士山頂(1948)」「肖像」の三宅邦子、「手をつなぐ子等(1948)」の笠智衆、「受胎」の村田知英子等が共演し、ほかに殿山泰司に岡村文子、文谷千代子、三井弘次(秀男改名)らが出演する。
********************************************************************************************************
たまに古い映画を観ているが、小津安二郎監督作品はその筆頭に挙げられるもの。終戦から3年後に撮られたものであるが、背景に写る街並みとともに興味深く観る事ができる。
東京の下町の一角にある家に警官が戸籍調査にやってくるところから物語は始まる。警官は間借り人の雨宮時子に家族構成を確認する。時子は一人息子の浩と一緒に住んでおり、そして戦争から帰還してこない夫・修一を待っている。そこは一軒家で、時子は2階を間借りしている。階段を下りれば大家の部屋で玄関は共通。まだ社会全体が戦争の傷跡を生々しく残し、貧しいままであることを感じさせるシーンである。
この日、時子は浩を連れて親友の秋子のアパートへ行く。そこで秋子に手持ちの着物を金に換えてもらうように頼む。時子はミシンの内職の仕事をしているが、2人の会話から物価高で内職だけでは生活が苦しいのだとわかる。しかし、これが売りに出せる最後の着物だという。秋子はさっそく闇商売をしている隣人・織江のもとに預かった着物を持ち込むが、織江は「時子は綺麗だから、その気になれば楽に稼げるのに」と言って秋子を不愉快にさせる。
時子が帰宅すると、一緒に行った浩が高熱を出してぐったりしている。家主の彦三・つね夫妻に勧めてもらった近所の病院に連れていくと、医師は大腸カタルだという。秋子のアパートからの帰り道に食べさせたあんこ玉が原因だと思われる。幸いにして翌朝になって浩の容態は持ち直すが、看護婦から入院費の支払いを求められ、蓄えのない時子は暗澹たる気持ちになる。当時の病院としては一般的だったのか、病室は畳に布団敷きである。
翌日、秋子が時子のもとを訪ねてくる。時子が織江に「仕事」を紹介してもらった事を織江本人から聞いてきたのである。秋子は、なぜ親友である自分に最初に相談しなかったのかと時子を非難する。それに対し、時子は秋子の暮らしぶりも大変なことを知っていたので甘えられなかったと答えることしかできない。そう言われると秋子にも返す言葉がない。2人の違いは、秋子には夫がいて稼ぎがあるというところである。やがて全快した浩は退院する。
数週間後、秋子と荒川土手に遊びに出かけた時子と浩が帰宅すると、修一が帰ってきている。久しぶりに再会を喜びあう夫婦だったが、その夜、近況の話の中で、時子は浩が大腸カタルで入院したことを話す。費用をどう工面したかとさらに問う修一に、時子は答えられず泣き出す。修一の帰還を知って再び訪ねてきた秋子は、浩の入院のことは修一には言わないほうがいいと忠告するが、隠し立てのできない時子は既に何もかも修一に打ち明けてしまっていた後だった。
現代と違い、当時の社会は遥に貞操観念が強く、修一は妻の行為に激しいショックを受ける。再会の喜びどころではなくなる。状況を考えれば、女1人で生きていくのは困難な時代であり、仕方がないではないかと思うも、当時の人たちはどんな気持ちでこの映画を観ていたのだろうかと思ってしまう。現代に生きる自分であれば、仕方ない事と水に流すし、「苦労をかけた」という一言でも加えるだろう。だが、それは現代の感覚によるものなのかもしれない。
映画は苦悩する修一の姿を追う。なんと修一は、時子からことの詳細について聞き出すと、自ら月島にあるその宿へ出向き、部屋に女を呼ぶ。女になぜこんな仕事をしているのかと問う修一に、女は母と兄が戦争で死に、老いた父と学生の弟を自分が養っているということを語る。聞いた修一は女に金だけ渡して外へ出る。この時代、そういう女が多かったのだろうと思う。夫が戦争から帰還せず、その生死すら不明な中、唯一の心の支えが一人息子である時子にとって他に選択肢はなかったと言える。
要所要所で街中の風景が映し出される。まだ瓦礫がいたるところに残っていたり、バラックのような住まいがあったり、道路は当然ながら舗装されていない。そんな昭和の原風景がそこかしこに観られるのも古い映画のいいところである。職探しで修一が訪ねた旧友を演じるのは、若き日の笠智衆。『男はつらいよ』(My Cinema File 2783)の御前様であるが、若々しい姿はそれとわからない。声でわかったが、若き日の姿に新鮮味を感じる。ストーリーとは別にそんなところも古い映画の魅力と言える。
終戦から3年しか経っていない世の中で、映画を撮るのも大変だっただろう。そんな「終戦直後」の世の中をいろいろと想像させられる映画である・・・
評価:★★☆☆☆





